Ch2.09 異世界トラック
「じゃあ、今チャプターの仕様と達成目標を説明するわね!」
プップー、と軽トラを運転しながら所長が壇上に入場してきた。
窓から身を乗り出し、僕たちプレイヤーを眺めながら上気分の様子。
「まず最初に、チャプター1をクリアしたあなた方にはこれから、異世界転移をしてもらいます。順番にこのトラックで轢いていくから、心の準備をしておきなさい!」
……はあ? ……はあ。意味わからん。モラルとかないのかこの人。
ていうか異世界転生じゃなくて、ただ転移するだけならトラックで轢く必要全くなくない?
「ノリと勇気が世界を救うのよ!」
……イイコトバダナー。所長は名言製造機なんですね。わかります。……総勢250人程度の会場も困惑しているよ。
そんな会場の様子も構わず、じゃあ変更点を少し紹介するわよ、と所長は話を続ける。
「今回からこのゲームの登場キャラとの基本的なコミュニケーション用に、テレパシー(送受信Lv_0)ってスキルがデフォルトで無事配布されることになったわ。レベルは0のまま固定だけどね。……いやほんとよかったわ間に合って(小声)」
……ふーん。ゲームがリリースされる前の親父や所長のセリフにこれで合点がいった。テレパシーを取得したプレイヤーが不遇だとか、デフォルト機能であるはずとか言っていたよなあ。
「そのスキルの機能的にはそこまで便利なものではないわ。まあイメージするなら、片言で会話できる外国人程度の言語レベルを手に入れたってとこかしら。1,2人の会話を同時に聞き取るのが限界だし、相手もあなたの話す言葉を理解するのに努力と時間がいるわね。……ま、社会に生きて生活するのに必要最低限レベルよ」
それくらいならキャパシティ的に全プレイヤーが取得可能だったの、と配布スキルの説明を締めくる所長。
「あとスキルと言えば、今回も追加でもう1つだけスキルを取得できるわ! 複合スキルの説明は、各自ウェブサイトを参照してもらって――」
所長のプレゼンは続いていく。……この話は前も聞いたな。じゃあ僕は自分のステータスとスキルを確認しようか。
「――ステータス、オープン」
HP 20→21 (New!)
MP 34→39 (New!)
ATK Eランク
DEF Eランク
AGI Eランク
DEX E→Dランク (New!)
LUK Eランク
所持スキル:テレパシー(以心伝心) 走力向上(E)恐怖耐性(E)
魔法耐性(E→D)(New!)
称号:ファーストサバイバー(Ch.1)‐ATK微増補正 (New!)*死亡退去無し最速クリア報酬
『スキル選択画面に移れます。移りますか?』
……情報量が多くて目がツルツルと滑る。
New!の部分を見ると、一部のスキル補正とステータスが伸びている、らしい。……実質4日間のプレイ時間でこんだけ伸びたなら良好だろう。他の人とは比べたくないけどね!
彼らは丸2週間もあったのだ。おおいに伸びていることだろう。不幸せな気分になるから、絶対に彼らのステータスは見ないと今決めた。
しかしそのほとんどのプレイヤーと違う点は、僕は攻撃力補正効果付きの称号を手に入れられたことだ。……まあ散々な目にあったけど、確かに死んではいない。最速クリア者は確か全体の5%くらいだったし、この称号はレアっちゃレアだ。
そしてその効果は正直ありがたい。なぜなら今回これから選ぶスキルとも相性は悪くないからだ。
……この称号以外は、見返してみても数値や内容的には変化が少なく感じる。
しかしそんな些細な変化よりも、大事な動機を僕は得られた。
それは――。
「――あのクソスライム女をけちょんけちょんにして見返してやる……!」
『――スキル選択画面に移ります』
1.変身魔法_Lv. I DEXを一段階上げる。
‐目の前にある無機物または有機物を自分の姿に転写する。
2.環境適応能力向上_Lv. I DEFを一段階上げる。
‐温度調整、免疫機能向上、空気循環、衝撃耐性。
3.テレパシー(受信)_Lv. I MP+10。
‐相手の話している言語の内容が理解できる。(選択不可)
4.戦闘能力向上_Lv. I ATKを一段階上げる。
‐肉体の瞬間出力向上。レールガンの装備付き。
5.戦闘技能向上_Lv. I AGIを一段階上げる。
‐反応速度向上。ライト正宗武装。
6.カリスマ_Lv. I LUKを一段階上げる。
‐自ら話す言葉に強い指向性を持たせる。
前回と同じ画面。テレパシーはすでに所持しているので、オプションとしては残り5つのスキル。
選ぶべくは2つの戦闘系スキルのどちらか。この一週間ずっと考えてきたが、今回はこちらにする。
『あなたの所持しているスキルと、こちらのスキルの組み合わせでは複合スキルは発現しません。よろしいですか?』
知るかあ! そんなもんいらんわぁ! 早くよこせぇい!
『戦闘能力向上_Lv. I を取得しました。副次効果としてATKのランクが上がります』
このスキルを選んだ理由として色々と考えたが、まずあの女との戦闘には機動力が必須なのだ。戦闘技能向上でも相手の攻撃は対処可能になるかもしれないが、僕たちにすぐ追いついてきた相手のスピードを考えると、それだけではこちらから追いかけるスピードが足りない。
僕はアイツの攻撃をかいくぐりながら、ぶん殴る力が欲しい。
力といえばこのスキルに付属で付いてくるレールガンでは、正直、動画で見た感じだとタメが長すぎる。例えるなら某青いアンドロイドロボットのチャージ弾なのだ。最大チャージの威力的には弾丸とその風圧で古民家を半壊する程度の威力はあるが、射程距離はなぜか10メートル程度しかない。弾速はバカ早いようだが、音もバカでかい。その音と射程距離のせいで不意打ちにももしかしたら使えないのだ。
じゃあどう戦闘するかって? こ ぶ し で! だ。
拳で語り合う力があるのなら万々歳。一発ぶん殴って、そこで速攻殺されても別にいい。
まずは1回、僕は彼女に抵抗する姿勢を見せなければ、先に進めない。このままでは21歳にはなれないのだ。
……。
そうしないと、立派に胸を張って生きられないのだ。
これはただの自己本位のけじめだ。
ただそれのなにが悪い。誰一人として責められる人はいない。
もういないのだ。




