Ch2.05 ダブルデート事件(3)
……なんでこう、いきなりダークな展開になるかな。脳内で一通り叫びたいことを叫んだら、意外とすっきりした。思考も冷静になる。
助けて、なんて心のなかで叫んでも助けは来ない。そういうことは最近学んだ。
「――アキ、言われた通りにしよう」 カケルの一言。
「……」 多分、というか絶対、そうするのが正しい。
でも、なんだかなぁ。
「アキ……!」「アキヒト……?」「…………」
僕は、なんだか悔しいよ。
こんな簡単に、このクソみたいにランダムな悪意に、物事を支配されてもいいのだろうか。
「――はぁ」 床でみじめに転がっているこのお店の店長が目に入る。あの店長もこのお店を長きにわたり支えてきた自負や実績もあっただろうに。それをこんなに簡単に踏みにじられていいのだろうか。
その痛々しい姿は、ついこのまえ同じように腕をもがれた僕の姿と重なる。
あの体験は、ゲームであっても、遊びではなかった。現実味を帯びていた。
実感は薄れたといったが、あれは噓かもしれない。
現に僕はあの時の絶望は薄れてきた代わりに、怒りが、日に日にわいてくる。
毎日なんども途方も無く行き場のない怒りで自分がやるせなくなる。
「おい、てめえ早くしろ。……死にてえのか?」
悪意が僕の目の前にいる。ならばどうする。
――今僕が何をするべきか、それを見つけるためだけに集中しろ。
「――おーい、こっちは終わったぞ。なかなか貯めこんでやがったぜ。……ん? おいまだ終わってねえのか」
「ああ、すんませんボス。なんかこいつ銃口向けられてからか固まっちまって」
「おいおい、バカがよお。普通の人間は、銃口向けられたら動けなくなるだろう」
「ああそりゃあ失敬、そうっすよね。どうしやしょう」
「そういうときは痛みだ。痛みが人を変化させる。どれ、一発ぶん殴ってみろ」 変にタメになる言葉を繰り返すんじゃねえよ。似合わないんだよ、このクソ強盗。――いや思考を乱すな、集中しろ。
そうっすね、といいながら子分が銃を持った腕を振り上げる。そのまま僕の頭を殴るつもりらしい。クソ、変に抵抗して警戒を強めさせたくはないけど、頭を殴られるのはまずい――。
「ほいっ、と。――アレ?」
ブン、となぜか彼は目測を誤ったのか、からぶった。
――今、しかない。
「……え?」 からぶったのをよほど疑問に思ったのか、驚いている顔の転入生をしり目に、僕はその子分が振り下ろした手を銃ごとぶん殴った。
「――っいったぁ!」
カラン、と銃が床に転がった。それに目掛けて僕はすぐさま飛びつく。
銃を手に取り、構える。――妙に、軽い。いや、知るか。
狙いは、残ったもう一人の強盗。
銃のセーフティを引っ張り、外す。何度かアメリカで経験したことだ。突発的な状況なのに、意外とスムーズにできた。
「……おい。僕のセーフティは外れてるぞ。オマエのはまだだろう」
その言葉と銃による制圧で、変に教育者じみた親分強盗は、いさぎよく手を挙げて降参してくれたのだった。




