Ch1.9 女神(1)
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夜になると僕ら3人は備蓄用の食料を片っ端から集めていった。他のゴブリンたちには見つからないように集めるのは一苦労するかと思ったが、彼らはとても健康的な生活をしているようで、夜はぐっすり寝ているらしい。
水分が一番大事なので、そこら中に実がなっているココナッツを大量に集めた。あとは釣り竿と釣り用の餌になる虫をできるだけ多く集めて、大きな葉に包み込んでしばる。
一夜を丸々費やしてのものだったが、準備は万端、であろうか。正直船旅なんて経験ないので、これ以上の準備は想像できない。
朝になったらゴブリンたちも起きだして捜索隊を出すので、あんまりうかうかしていられないらしい。緊急用の手立ても思いついてはいるが、用心しておきたい。捜索範囲はこの5日間でもうこの洞窟の手前まで広がっているとのことらしい。
そのため、朝焼けには出発しようという話になった。
「準備はできた?」
『おう』 『行こう! まだ見ぬ世界へ!』
船に各自食料を詰め込み、早速持ってきたいかだを海に浮かべ、ゆるやかにいかだを漕ぎ始める。
空を見ると、朝日がまぶしくも温かい。気持ちのいい風が吹き、波も穏やか。
良い出発日和だ。
『ちゃんとうまくたどり着けるといいけど。この島ともお別れだね』
『ああ』
『……でもトッツォもなんで付いてきたの? 危ない旅だよ。もしかしたら海に流されたまま一生を終えるかもしれないんだよ』
『…………マジか。今になってオマエそれを聞くのか』
『だって本当に付いてくるとは思ってなかったの! 見送りだけでもしてくれたら、うれしいなあって』
『…………おいおい。本当にお前は集中すると、他はなんも見えなくなるんだなあ。……ハァ』
『そりゃあそうかも、だけど。でもなんで!』
『……なんだっていいじゃないか』
『理由言わないと乗せないよ』
『おいおい。このいかだをがんばって作ったの誰だと――』
『うるさい! いいから、言わないと乗せないよ』
『そりゃあ、……オマエを…………』
『なに? よく聞こえないんだけど。はっきり言って』
『……オマエを守りたいからだ』
みるみるナッチョの顔が赤くなっていく。……これは、そろそろ僕も耳と目を閉じたほうがよさそうだ。山あり谷ありの、楽しそうな二人の会話は続いていく。
おじゃまものな僕ももう一日かそこらでログアウトしていなくなる。二人にはこれからも幸せにやっていってほしいものだ。
このゲームにおいてプレイヤーの行動は歴史を修正している、との触れ込みだ。この旅路が上手くいけば次のチャプターでも、二人の未来の様子を知ることができるのかもしれない。
世界を案内するという約束を今回は果たせそうにないが、もしかしたらまたもう1回二人と旅もできるかもしれないのだ。その時は約束通り、ちゃんと外の世界をできるだけ案内しよう。
その時がこころなしか楽しみだ。色々と波乱万丈なゲーム体験となったが、次につながる要素を見つけられたのは幸運だ。
そろそろいかだも、沖合に差し掛かろうとしている。 『おい、キサマ』 終始てんやわんやだったが、最後の最後でようやく平和に――。
『おい。キサマはなんじゃ? 見慣れない種族じゃが……、美味いのか?』
はて。真横から女性の声が――。
横を見ようとすると、肘先に熱い痛みが走った。見やると、ポタポタと血が肘の断面から出始めている。
「……は?」 肘先が、燃えるように熱い。
あるべきものが、そこに無い。その現象を、脳は理解を拒んでいる。
『……まずい……。もういらん。……して、口直しにこのゴブリンたちも食べてもよいのかぁ?』
海塩づけのゴブリンも美味いのかのぉ、と真っ赤に染まった手を血化粧したような口に当てた半透明の裸体の女性が、恍惚な表情でよだれをこぼしてそうくちばしっている。
体が、水のように透けているようで、まるで人型のスライムのようだ。だが不思議と表情ははっきりと見える。残虐性が、はっきりと感じられる。
『しかし島を出るという発想はどこからきたのかのう。イケニエじゃから逃げ出したのか? ……それともなんじゃ、新たな趣向でも試しておるのか。長老め、全くニクいことをする』
自分より弱い生き物をいじめている子供のような、無邪気かつ邪悪な表情で、この怪物は何か言葉を発している。内容は要領を得ていない。……当然だ。こいつは僕たちと言葉を交わそうとは微塵も思っていない。
スキルを使わずとも、本能的になぜか理解させられる。
彼女は捕食者だ。




