Ch1.8 ゴブリンが望むものは(1)
『ブッチョの代わりに、イケニエに選んであげたのに、なんで怒っているんだ?』
『なんでだろうね』『不思議だね』
『まあいいや。火にかけたら多分喜ぶだろう』
物騒なことを言いやがるゴブリンたち。そしてじりじりと近づいてきた。彼らの後ろにある炎が轟々と僕の目を灼いてくる。
……まずい。恐怖で思考が止まってしまう。どうにか、しないと、いけないのに。
『ほいっと、意識消失、あと記憶食いっと』
僕の思考が止まる前に、そんなセリフが後ろから聞こえてきた。どこか聞き覚えのあるその声と、その言葉の意味を理解する前に、目の前のしかいがさだまらなくなってくる。
あたまのなかが もやが かかった ように くらく くらく くらく。
あれ ゴ ブ リ ン た ち も た お れ て――
――暗転。
ポチャン、ポチャンと水滴が弾かれる音。強い風が時折吹き荒れるのが聞こえる。
意識が、定まってきた。固い岩の地表に眠らされているようだ。
体の動きがまだ鈍い。動くのが億劫だが、身体は五体満足な様子。……手足が動いてくれて、ありがたい。
目を開ける。周囲はあまり明るくない。一段とじめっとしているし、すこし肌寒い。
僕、意識を失ってばかりだな。なんというかずーっと意味不明な状況に振り回されている。なんなんだこのゲーム。
ネットでは最先端かつ最高クオリティの死にゲーだと、このIFワールドは評されていたのを思い出す。
グラフィックは現代に存在するのがありえないほど素晴らしすぎる一方、ゲームプレイは癖があり意外と困難で、良い意味でも悪い意味でも骨太なゲームだと話題だった。
予想外なことが続々と起きるそのシビアなゲーム体験のおかげで、評判はもちろん賛否両論。一部のコアなゲーマーたちと意外にも何人かの著名なアスリートたちが太鼓判を押しているが、カジュアルなユーザーたちには動きなど何もかもがリアルすぎ、且つ敵の攻撃への対処が難しすぎて不満なのだ。
確かに僕も体験してみてわかるが、これはほのぼのリラックスできるゲームではなく、サバイバル意識の高いゲーム性だ。ずっと何かの騒動にとことん巻き込まれ続けている。もうヤーメタ、と言いたい気分でいっぱいになるが、抑えこむ。
前回はほぼずっと意識を失ったままだったので、なんとか行動を再開できるのは不幸中の幸いだ。
最悪のパターンだった火刑に処されなかったのもありがたいという言葉じゃすまない。今でもあの光景を思い出すと身震いがする。
「……しかしここはどこなんだろう」
暗い思考を切り替えるためにあたりを観察してみる。ここは確実に先ほどの村ではない。気温やら地形やらすべてが違う。
洞窟、だろうか。遠くから波の音が聞こえるので、おおかた海の入江の近くだろう。
『あ、起きたぞ』『ほんとだ。やっほー元気?』
岩の陰からひょこりと、二人の見知ったゴブリンたちがでてきた。えーっと、確か名前は。
「……トッツォに、ナッチョじゃないか!」
少しの間だが、僕に村の様子を紹介してくれた二人組だ。……もしかして、二人があの状況から僕を助けてくれたのか?
『じゃあ起きたみたいだし、早速頼んでみるね』 『ああ』
二人の他にゴブリンたちはいないのを確認する。……頼み事? 表情から察するにあまり物騒なことではないと信じたい。イケニエに捧げられる以外ならなんでもいいよ!(切実)
『恩人さま。起き抜けで悪いんだけど、この島の外の世界を案内してくれないかな?!』
それぞれナッチョが敬礼、トッツォが頭を下げて僕にそんなことを頼み込んできた。




