Ch1.7 炎の村
視界が完全に晴れたので、状況を確認する。
場所はどうやら森の中のようだ。僕の前後でエッホ、エッホとゴブリンたちが汗水たらして僕を運んでくれている。……ん?
僕は手足が槍に縛られ、それに平行につるされた状態で運ばれている。例えるなら火にくべる前の獲物状態だ。
……デジャブがすごい。あれこれはまさか。
僕の尊厳はとっくにゼロよ、と過去の軽口を思い出す。前回ゴブリンたちに連行されている状況とまったく一緒だ。尊厳をゼロから始める異世界生活となってしまっている。
状況がよくわからなすぎて、逆に冷静な僕。
コンテニュー、したはずだよな? 逆にしてないとしても、こんな半端なところでまた始まるのか?
そんな疑問を胸に五分ほど体を揺られると、前回と同じ集落に連れてこられた。
しかしはたと気づく。前回と違う点が3つある。
まず1つ目は、村長の亡くなった場所に彩り豊かな花やフルーツなどがお供えされていること。
そしてその真横の集落の中央にある焚き火が、ごうごうと大きく燃えていること。
そして最後に村中の住民全員がいるのではないかと思わせるほどの大群のゴブリンたちがその焚き火を中心に、まるで祈っているのかのように跪いて頭を下げていること。
現代人の僕からすると、正直、とても異様な光景が広がっている。
前回は前回で魔女狩り騒ぎのような乱痴気マーダーミステリーが巻き起こっていて、ハプニングあふれる、という意味合いで異様だったが、今回は大分様子が違う。
彼らが行っていることへの共感や理解ができない。じっと見ていると、どこかある種の恐怖が体の底からにじみ出てくる。不安だ。一体なにがどうなってる。
そして徐々にその集団に近づくにつれ、ゴブリンたちの祈りのようなつぶやきが僕の頭の中に入ってきた。
『どうかおまもりください』『健康に祝福を』『日々に感謝を』『イケニエを、ささげます』
『『『女神様、どうか我らをこれからもお救いください』』』
この島特有の信仰、なのだろうか。
大半のゴブリンたちが、心血を注いで祈っている。これは、やはり、なにかまずい。
心底逃げたい気持ちでいっぱいだ。しかし手足の縛りは自分ではほどけない。
……というか一体、どういう経緯で僕はいま縛られているんだ?
まず疑問として、今は何日目だ? あの事件の後、僕は死んでないのだとしたら、気絶してどれくらい経っているのだろう。
そう考えると、さらに疑問がでてくる。強制ログアウトするまで7日間、意識や記憶もないままなんておかしくないか? それに空腹度ゲームも7日経てばとっくにMAXでは?
多くの疑念を抱きながら、ステータスオープン、とつぶやいてステータス画面を確認する。アナウンスはすぐに来た。
『スキル:魔法耐性 E を習得しました。※空腹度が危険値に近づいています。現在‐62%』
魔法耐性……?
これはどういうこと、なのだろうか。
あと空腹度も増えてはいるが、一週間以上経っているとは思えない程度の上昇量だ。
……あと、こんなこと気づきたくないのだが、僕あの火の中に、今まさに生贄として捧げられようとしているのではないのだろうか。 ……いやあ、さすがに無いよね、そんなこと。
そんなことをされたら、尊厳がゼロどころの騒ぎではない。本当にライフが尽きてしまう。あんなにやさしげなゴブリンたちがそんなこと、するわけないよねアハハ。アハハハハ! アハハハ。
火刑はとてつもない苦しみを味わうと聞いたことがある。具体的にどう苦しいのかは知らないが、たとえ痛覚制限があったとしても、そんな目にあうのはごめんだ。想像するだけで、過呼吸になってくる。
『それでは、女神さまにイケニエを捧げる儀式を始める。そこなイロジロをこの火のなかに放り込めい!』
そんなことを言い放ち、ひどく楽し気な表情で壇上に立っているのはあの狂ってた探偵ゴブリンもとい世紀末な魔女狩り思考ゴブリン。おいおいおい、まじかよ……! 僕は死にたくないぞ! フザケンナヤコラァ! こちとら村長殺人事件解決の功労者やぞ!
不当だ! そんなのってないよ! と、そんなセリフが自然と口から出てくる。それに対して、不思議そうな顔で、こちらをみてくる探偵ゴブリンとほかのゴブリンたち。
『あいつ、なんか目覚めてない?』『ええ? どうやって。2週間は最低でも眠ったままのはずだろ』『とりあえず、どーする?』『なんかめっちゃ文句いってるぞ。なんで?』
『『イケニエに捧げられるなんて、光栄なことだろう?』』
ゴブリンたちとの重大な価値観の違いを、僕はいま、目の当たりにした。
ゴブリンたちの祈りの内容を一部変更しました。




