Ch1.5 イケニエはいやだ
意識を容疑者たちに集中させると、見えてきたのは彼らの心象イメージ。
不安と恐怖に襲われているのが、太っちょゴブリン。
執着と怒りに囚われているのが、変態フェチゴブリン。
誠実さと戸惑いに心が二分されているのが、ナッチョ。
これだけでも、ナッチョはすでに犯人像からは心象が違っているように見える。だが証拠はない。
ならばどうする。……しらみつぶしに質問で聞き出すしかあるまい!
「本当に、キミたちが村長を殺したのかい?」
3人の心象イメージが一様に困惑となる。
(え……?)(イロジロォ!話せるんかワレェ!)(……話せるようになってる?)
彼らの思考が聞こえる。がんばれ、もう一息だ。頭痛はひどくなる一方だが、なんとか持ちこたえる。
「じゃあ、なんで村長を殺したんだい?」
(だって、それは……!)(イロジロォ! 結婚してくれえ!)(ナッチョはやっていない!)
反応ありだ。より一層不安と恐怖に襲われ始めた太っちょゴブリンのほうに向く。
「……なんで、村長を殺したんだい?」
『う、うわわ』(なんでって、それは……!)
太っちょゴブリンが見るからに青い顔で脂汗をかきはじめている。緑色のゴブリンでもこういう時の反応は僕たちと変わらないのは興味深い。
「なんでだ!」
『う、うひゃあ!』(だって、イケニエになりたくなかったから!)
……イケニエ?
「イケニエになりたくなかった、から?」
そう僕が彼の思いを言葉にした途端、周りのゴブリンたちの表情が変わった。一斉に槍を構え始める。トッツォが集団の先頭に躍り出て、尋ねた。
『……お前がやったのか』
『う、うわわ、うわああああああああああああ!』
半狂乱になる太っちょ犯人ゴブリン。よし、もう一押しだ!
「犯人は、お前だ!」
瞬間、凶器に使われた血の付いたこん棒が浮き始める。そして視界から、ブレた。
ガァン、と鈍くも大きな反響が僕の目の前で響き渡った。そして地面に転がるのは先ほど浮いていたこん棒。視界の片隅にトッツォが僕を守ったかのような姿勢で槍を振り下ろしている。いやおそらく、現に僕をこのこん棒から守ってくれたのか。
『現行犯だ!逮捕たいほおおおお!』
探偵ゴブリンがわれ先にと太っちょゴブリンへと単身躍り出る。数拍おくれて他のゴブリンたちもそれに追随した。
ナッチョが自分の服の一部を破り、押さえつけられた太っちょゴブリンの目を覆い隠す。……念動力使いの視界を覆うことで、対象の位置を把握できなくさせているのか! 魔法スキルの保有者だからか、頭の回転が速く、賢い。
鼻先からポタリ、と血が流れ落ちている。先ほどのこん棒は鼻先までかすっていたらしい。まさに僕は死ぬ寸前だったのか。
痛覚制限が聞いているのか、痛みはあまり感じない。が、いまさらになっておぞけがしてくる。……トッツォには感謝しかない。
このゲームにおいて、もし死んだり、途中でログアウトしたりすると、プレイヤーはその日のゲーム開始直後まで進行度はリセットされる。そのうえ、他の脱落しなかったプレイヤーたち同様に一週間のログイン制限がかけられてしまうのだと、説明されていたのを今思い出した。あぶねー。
まったくもう、――ドバドバ――、初日でこんな――ドバドバ――死ぬような目にあうとは。――ドバドバ――、って鼻血が止まらないよ!
「あれ……」 体がふらふらする。顔が熱い。視界が真っ暗になってきた。どん、と前の地面に倒れこむ。
……もしかして、この鼻血、スキルの使い過ぎで、頭がパンクしたから、こんなに出てる?
……アハハー。だめだ、コリャ。
暗転。




