Ch1.3 ゴブリン村マーダーミステリー(3)
昔読んだ漫画を思い出す。魔術が使える世界では、Why done it、ワイダニットが重要だと登場人物が言っていた。
Who、だれがやったか、または How、どうやったかを考えてもしかたがない。なぜなら魔術によってなにもかも隠ぺいが可能かつ、実行可能だからだ。
だからこそ、Why、なぜ犯行に及んだのかを考えると犯人の線が出てくる可能性がある、とのことらしい。
しかしそんなこと、僕が一番わからない。なぜなら僕は異邦人だからだ。彼らのことは今日初めて知った僕に、彼らの動機や心の機微などわかるはずもない。
……しかし長老は僕にとてもやさしく接してくれた。ならばそれに報いなくては。僕にもやれることを精一杯するんだ!
「ステータス、オープン」
『テレパシー(受信)のスキルレベルが Ⅳに向上しました』
やはり、テレパシーのスキルレベルは加速度的に上がっていた。彼らの人間性や考えを読み取ろうと意識をするたびに感覚が向上していったのを憶えている。しかしまさかもうすでに最大レベルの一歩手前までになってしまっているとは驚きだ。でもこのレベルならもしかするとなにかできるかもしれない。
親父のこのスキルに対しての説明を思い出す。
「――諜報とかにも意外と最適なスキルだ」
もしかしたら、彼らの聞かれていると意図していない独り言を聞いて、なにかヒントを得られるかもしれない。とてもじゃないが期待と言えない、淡いかすかな希望をもって僕は彼ら一人一人に意識を集中していく。
僕の意識が集中していっている。他のゴブリンたちの喧騒が僕の頭の中からフェードアウトしていく。
『イ……エ、なりたくなか……けなのに』『イ……ろ…ジ……ロ…!』『助け……トッツォ!』
……くそ!まったくヒントになりやしない。彼らの祈るかのようなか細い声はかすかに聞こえたが、事件解決の糸口にはならない。
そして変態、たとえ犯人じゃなかったとしてもテメーはダメだ。助けてやらん。今シリアスな状況なのにまた元の変態に戻りやがって。
……くそ!変態のせいで思考が乱された。大きな時間と尊厳のロスだ。
『よーし、じゃあ死刑執行日は、明日ぁ!と見せかけての今日だ!』『……え?』『いやそれはおま』『今日と言ったら今日だぁ!なんなら今からじゃあああ!』
カオスな雰囲気にのまれて探偵ゴブリンだったものがなぜか暴君虐殺ゴブリンに成り代わろうとしている。魔女狩り怖し。歴史は繰り返すとはこのことか。
くそう、僕にやれることはもう本当にないのか?まだだ、まだなにかあるかもしれない。この世界はゲームなのだから、基本何でも解決可能のはずだろう! チュートリアルのようなチャプターのはずなのに、いろいろハードだなあ!
ピロン、ピロン、とシステムアナウンスから通知が来ている。ステータス画面を開きっぱなしだったのを忘れていた。一体なんなんだこんな時に!
『テレパシー(受信)_Lv. Ⅳ がユニークスキル:テレパシー(????) に変質可能です。変質しますか?』
なんだこれは。チュートリアルにもこんな説明はなかったぞ。
――――――――――
「――ハァ?」
アデルバードは口に持って行っていたポテチをと取り落とす。スキルの変質……? そしてその効果。どういうことよこれは。
先ほどから、この森教授の息子の珍道中をゲラゲラ笑いながら、優雅に(VR空間なので太らないから)ポテチとコーラと共に楽しんでいたら、予期せぬ事が画面で起きている。
いや、スキルの変質程度は起きるかもしれないとは教授から聞いている。しかしこの効果は……!
「ちょっと、マズい……!」
慌てて彼のステータス画面へとアクセスするために指を動かす。ポテチの塩気と油があたりに飛び散るが、関係ない。
前の席に座っているスタッフの頭や肩に降りかかって彼らが顔をしかめているが、そんなことにはアデルバード所長は気にもとめない。
その様子を、森教授はチラッと振り返り見ていた。
「まあ、そりゃあ、アンタにとっちゃこの効果はまずいだろうなぁ……」
不敵な笑みを浮かべ、森教授も自分の画面へと視線を切り替え、楽しそうに息子の様子をみる。
「予想以上の早さで、予想外のことを起こしやがった。よくやったなアキヒト!ガッハッハッハ!」
部屋中に気持ちのいい笑いが響くなか、ガン、とコーラの空き瓶が森教授に投げつけられた。
――――――――――
『なお、のこり3秒で変質不可となります』
「ハァ!? いやちょっとまってよ!」 唐突のスキルの変質に対して、いきなりの決断を求められている。いやいやいや。
「ええい! ままよ!」
そうして、ぼくはスキルを変質させた。




