78:新たな権利-3
「これはもう自分で考えていくしかないな。偽情報、不確定情報、感情主体の主観情報が大量に入り混じってるから、資料としての価値は微妙だし」
「みたいですね」
さて、PvPについてだ。
ぶっちゃけ一言で述べるならば沼なのだが、それはそれとして、PvPがどのような物かは考えないといけない。
「まず一番大きい差は相手が『煉獄闘技場』の用意したモンスターではなく、同じ闘士である事だな」
「それってそんなに大きい差何でしょうか?」
「大きい。たぶんだけど、戦略と戦術がまるで別物になる」
ゲームのPvPとPvEの差ならば、相手を制御するのが人間かAIかと言う差であり、この差によって取ってくる戦略や戦術が変わってくる、と言うのはある。
分かり易く言えば、相手の勝ちへの姿勢が大きく変わってくる。
そして、今回の場合でも変化自体はあるだろう。
「なにせ、同じ闘士と言う事は、死のうが、四肢が吹っ飛ぼうが、決闘が終われば元通りになるのを知っている、と言う事だからな。この差はかなり大きい」
「あ……それは確かにそうですね」
まず、死への捉え方が全く違う。
『煉獄闘技場』が用意したモンスターは、自分が死んでいる事を理解していないのか、それとも別に理由があるのかは分からないが、全体的な挙動として傷つく事をちゃんと嫌っている節がある。
だが、相手が俺たちと同じ闘士ならば、勝利のために、肉を切らせて骨を断つ、と言うのを極自然にやってくる事だろう。
なにせ、肉どころか骨を断たれても、決闘が終われば元通り、勝つ事の方が自分の命よりも重要とさえ言えるのだから。
「後は情報量の差もあるな」
「えーと、あ、開始前に同じだけの準備時間が与えられると書かれていますね」
「そうそう。俺だったら、この時間に可能な限りの情報収集をして、相手の切り札や能力のタネを暴いておく」
「それは……私でもしますね。ハリさん」
次に情報についてだ。
決闘が決定してから、闘技場に転送されるまでの時間があるのはこれまでと同じだが、PvPの場合、その時間はどちらにも同じだけ与えられるそうだ。
それはつまり、その時間を使って決闘相手の情報を探る事が出来ると言う訳で、相手が調べる事に手慣れているのなら、実質的には決闘開始前に勝敗が決まっていた、まであり得ると言う事だ。
「で、こうなると敢えてそのままで行くか、裏をかくか、そのまた裏をかくか、と言う具合に読み合いが発生する事になるんだよな。うん、やっぱり沼だな」
「ようやく分かりました。確かにハリさんの言う通り、沼ですね……」
「まあ、好きな奴はとことん好きなんだろうけどな……」
では、今明らかになっている情報の返し手を考え、その返し手の返し手を考え、となってくると……まあ、何時までも終わらないし、思考の底なし沼に突入待ったなしだろう。
「ん? ほー……」
「ハリさん?」
「ノノさん、これをちょっと見てみてくれ」
「これは……なるほど。挑む価値はやっぱりあるんですね」
「みたいだな」
ちなみにだが、PvPで得られるポイントはPvEのおおよそ2倍と、極めて多い。
なので、効率よくポイントを稼ぎたいとなれば、安定して半分は勝てると言う前提が必要になるが、PvPの方が稼ぎは良いようだ。
「そして、『煉獄闘技場』の組み合わせセンスも、かなり良い、と」
「こんなデータもあるんですね」
もう一つ余談。
これは非公式かつ、少々根拠が怪しいデータになるが、PSSで探っていたら、こんな話が出て来た。
それは、真っ当な闘士が順当に決闘に臨んだ場合、PvEの勝率は8割前後、PvPの勝率は5割前後に落ち着く、と言う話だ。
まあ、分からなくもない話である。
PvEはこちらの実力に合わせたモンスターが出てくるし、それを倒せずポイントが稼げないとなると、たぶん『煉獄闘技場』の側にとっても支障が出てくる。
だから、プレデター、敢えてギリギリの勝負になるように狙った、先日の怠惰堕落のような事情持ち、と言った理由がないなら、順当に決闘が進めばだいたいは闘士の方が勝つようになっていてもおかしくはない。
逆にPvPの勝率が5割前後に落ち着くのも、同格同士を当てるのなら、後はその場でのちょっとした判断の差や運によって勝敗が分けられるのだろうから、当然の事と言えるのだろう。
「うーん……まあ、一度くらいは雰囲気を知るためにも挑戦しても……と、そもそもとしてノノさんって人に魔法を撃つことは出来るのか? 俺は別に大丈夫なんだが……」
「大丈夫ですよ。ハリさん。必要だと分かっているのなら、私は撃てます。それにモンスターと人間でわざわざ分ける必要もないですから」
「そっか、なら、PvPの権利をわざわざ切るほどではないか」
なお、世の中にはPvPと言うか、対人間戦に強い拒否感を抱く人も居るのだが、ノノさんには無縁の話だったらしい。
「ただ泥沼にはなりそうだけどなぁ……」
まあ、実際にPvPに挑んだ場合、今の俺たちでは手札……特にフィニッシャー不足なのは明らかなので、とてつもなくグダグダとした戦いになりそうだが。
「あはは……ポイントの使い道、どうしましょうか、ハリさん」
「うーん、とりあえずは当初の予定通りにしておこうか。PvPにしろ、対多人数にしろ、レイドバトルにしろ、アレは有って困るものじゃない。それ以外は……明日からの十日間次第と言う事で」
「分かりました」
こうして一通りの情報を集め終えた俺とノノさんは、当初の予定通りにポイントを使った。
それはつまり、怠惰堕落戦で入れていた観察能力と反応能力の強化を恒常的なものとして入れたのだ。
かかったポイントは、怠惰堕落戦と同等のレベルまで上げるのに50ポイントと、非常に重いが……見えて反応できなければ、どのような力があっても意味がないと言う事で、無意味に終わる事だけは無いだろう。




