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第7話 心当たりのない想い



 ――バベル最上階、神域玉座


 美しい装飾なされた黒一色の石造りの部屋。真っ赤な絨毯の敷かれた階段、その最上には荘厳な椅子が静置し、そこには頬に四本の髭を生やした青年が腰をおろしていた。

 カラフルな衣服に二股の帽子、そして顔中に真っ白に塗られた白粉。一言で彼の姿を言い表せば、それは道化師(ピエロ)だろうか。

 

「嘘ぴょん……」


 いかなる状況にも笑顔を絶やさなかった偉大で、絶対なる己の王の初めての動揺の表情を目にし、脇に控える家臣たちは思わず息をのむ。

 

「陛下?」


 恐る恐る尋ねる家臣の一人に、道化師の青年は顎に手を当てていたが、


「ルっちゃん、あいつ、どう思う?」

 

 右隣で控える黒髪を後ろでお団子型にしたメイド姿の美女に問いかける。


「強いかと」


 メイド姿の美女は、真ん丸眼鏡のフレームを左手の中指で押し上げながらも即答する。


「それは見ればわかるにょ。ボクチンが聞いてるのは、これが本当に、シックスロード・ウォーで、あのフジムラ・アキトが、六道王かってこと」


 若干の苛立ちを含有しながらも説明を補足するピエロの青年に、メイド服の女性は恭しくも一礼すると、


「現在の状況を総合的に考察すれば、それ以外の視点はとりえません」


 はっきりと断言する。


「うーん、とすると厄介だにゃ。ガチンコの勝負になる。ゲームはまだ始まったばかり。アスタロトも死んじゃってバアルも裏切った。この上、三大将まで失えば、今後のゲームの侵攻に支障がある。一度下がらせるべきかにゃ……」

「んんっ!」


 メイド服の女性は、ピエロの青年の言葉を打ち消すかのように咳払いをする。


「ん? ルっちゃん。妙案でも?」

「陛下が危険を冒す事態だけは控えるべきかと。このゲームは24時間という制限時間があります。制限を過ぎれば運営側からの強いペナルティーを受けるでしょう。つまり――」

「ボクチンは逃げ続ければ勝ちってこと? 」

「はい、資料によれば、フジムラ・アキトはリリスに強いこだわりがある様子。リリスを連れてこの帝都を離れ、制限時間を逃げ切れば陛下の勝利です」

「なーるほどにゃー」


ピエロの青年はその顔を醜悪に歪める。


「リリスのフォーマットを強制停止したとして、取り出せるのにあとどのくらいかかる?」

「あと、約1時間半です」

「微妙な時間だにゃー。問題はどうやってその時間を捻出するかだけど……」

「私に妙案があります。お任せいただければと」


 胸に手を当て、メイドはそう進言する。


「わかったよ。任せ――」


 舌打ちをしてピエロの青年は右手の指をパチンと鳴らす。ガラスが弾けるような音とともに、視界は遮られる。


 ……

 …………

 ………………


――堺蔵(さかえぐら)町郊外 高級住宅街

 

 真城園寿(ましろえんじゅ)は肩で荒い息をしながらも、滝のように流れ出る汗を拭う。


「気づかれた……」


 冒険し過ぎたか。咄嗟に切断したから、逆探知まではされていないと思う。

 でも相手が相手だ。これ以上深入りするのは危険。手を引くべきなのは間違いない。それにきっともうそう簡単にはアクセスできないようにされているはず。

 でも、奴らは妙案があるといっていた。もし、それが本当ならあの人は――。

 なぜだかわからない。あんな人相の最悪な人なのに、見ているだけで心が熱くなり、どうしょうもなく、揺さぶられる。


「やるしかないんだぞ!」


 顔を数回掌で叩き、なけなしの勇気を奮い起しPCの画面に向かう。


「くそっ! やっぱりアクセスできなくなっている」


 こんな危険なこと。以前なら直ぐに諦めていただろう。でも今は違う。もう二度と(・・・・)、あの人の笑顔を見れなくなるのが、このとき園寿は心底怖かったんだ。


「へんなの、直接会ったこともないのに……」


 苦笑しながらも、園寿は作業に没頭していく。



お読みいただきありがとうございます。


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