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第七十五幕 シスコン襲来

私達メイドの休憩時間というのは、実に賑やかなものだ。

それはきっと働いているのが女性だけで、しかも年が近いという事もあるのかもしれない。

その上、衣食住を共にしているから、家族に近い身近な存在になってしまっているのだと思う。


だからというわけじゃないけど常に話題が絶える事がなく、毎日恋バナから貴族のゴシップなど様々なジャンルでのトークがくり広げられていく。今日も今日とて、3時の休憩なんだけどメイド室にて絶賛噂話中。


室内の中央に配置されている大きな一本木で出来ているテーブルがあるんだけど、その周辺にはぐるりと日勤のメイド達が座っている。おしゃべりをしながら、箱に入ったお菓子を右から左へと時計回りに回していた。

それは本日のお茶のお供・チョコレート。これはリクからの差し入れ。なんか、頂き物らしい。

熱帯地方のフルーツを乾燥させてチョコと混ぜ、一口大に切られラッピングされている。

こんな風に外交で貰ったものがたまにこちらにもやってくるので、ギルアのメイドは美味しいお菓子などに舌が肥えてしまっていた。


「へー。じゃあ、昨日はリクイヤード様をダウンさせている間に、さっさと決めちゃったわけ?」

「はい。でもあの後話にお話合いしたら了承してくれました。お前があのドレス気に入ったのなら仕方ないって」

「よかったわねー。これもササラの作戦勝ちね」

ルナさんの言葉に、ササラさんはふふっと笑った。


「そう言えば、リノアの両親には伝えたの? リクイヤード様の事」

「え?」

「いや、だってさ。王子様との結婚だし」

リクとの婚姻契約書にはバーズ様がサインしているから、偽装結婚の段階でもう知っているはず。

ラピス様はご存知なのかしら?


「身分違いだとか言われた?」

「いいえ。その件は問題ないかと」

身分としては一応、姫なので。


「なら、納得してくれたんだ?」

「それは……」

「まさかしてくれてないの!?」

「それ、結構大事な話だよ。リノアで説得できなかったら、リクイヤード様が行かなきゃ!

娘さんと結婚させてくださいって!」

みんな身を乗り出して力説してくれているけど、もうすでに婚姻契約書にサインと印鑑押しているです。

しかも、うち――ハイヤードの場合は、王族の婚姻の場合は国王の承認が必須。

そのため、同時に国王の署名を記されている。バーズ様、サインしてくれているし。


あぁ、でもたしか前に花の国でお会いした時、なんかリクとの事反対みたいな空気だったわね。

どうなのだろう? 偽装結婚には賛成だけど、普通の結婚には反対?


「ちょっと大丈夫なの……?」

黙ってしまった私に対し、みんなが身を乗り出してこちらの反応を待っている。


「多分、私とリクイヤード様の結婚には反対はしないと思いますけど。ですが、一応聞いてみないと……」

「――断固反対ですっ!!」

大声でそう叫ぶ声と共にバンッと扉が開き、肩で息をしている青年が飛び込んできた。

呼吸のたびにハニーゴールドの髪がサラサラと揺れ動く。


あまりに前触れもなく突然の出来事に、私は絶句。周りもみんなも同じだ。

だが、すぐにそれが誰だかわかり、私は「えっ」と驚きの声を上げたんだけど、周りの黄色い声

にかき消されてしまう。それはたまらずに耳を塞ぎたくなるぐらいに。


その青年はここにはいるはずのない人。――弟のラズリだった。


ラ、ラズリ……? どうしてここに? ここはギルアだし、それにリクの執務室がある場所。

そのため来客はほとんどこちらには通されないはず。

一瞬夢かなぁって思ったけど、周りの反応からこれが現実だと思った。


「ラズリ様っ!? 嘘っ! 本物!?」

「めっちゃ綺麗ー」

「初めて見たわ! 正真正銘の王子様!」

ササラさん達の興奮した声。そして立ち上がると、ラズリの周りを囲み始めた。

みんな、ラズリの事知っているんですね。というか、ラズリは人気者ね。

ですが、みなさん。すみません、正真正銘の王子様は私達毎日見ていますよね……?


「煩い!」

キャーキャーという悲鳴のような黄色い声が煩かったのか、廊下からリクの怒号が耳に届いた。

どがどがと足音がこちらへと近づき響いてくる。


「一体何事だ!?」

メイド室前へと来たリクは目を大きく見開き、やがて目を細めた。

それは室内にいたラズリを見て。


「ラズリ王子、なぜここにいるんだ。もしかして花の国との国境沿いに騎士達といるのは、影武者か……? まぁ、それはいい。とりあえず城内へは手続きをしての正規ルートからにして貰いんだが。

それにここは部外者立ち入り禁止だ」

「お久しぶりですね、リクイヤード様。何時ぞやの夜会以来ですか? いろいろそちら側の間者

に監視されているのが不愉快でしたので……それに早く姉上に会いたくて」

ラズリはそう言うと、ぽつりと椅子に座っている私へと視線を向けた。

それに合わせ、「姉上……?」とササラさん達の視線もついてくる。


やがて間をあき、メイド室にみんなが「リノアっが!?」とラズリの顔を見た。

それを受け、ラズリは満面の笑みを浮かべ頷く。

「えぇ、僕のこの世でただ一人だけの姉上です。見てお分かりの通り、とてもお綺麗で聡明で大切な御方です」

「え、ちょっと待って。じゃあ、まさかリノアって……」

私以外の視線が自分へと集中してきた。

あまりの凄まじさに、私は「うっ」と身を後方へと乗り出すぐらいに。




 

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