お忍びデート
ブログの拍手より転写です。
シルクは可愛い。可愛いが、頑固だ。
何処が? と聞かれれば、今まさにそれを実感している出来事に直面している――
活気のある城下町の喧噪の中、俺とシルクは噴水広場前にいた。
今日は晴天で城下町デートに相応しい、いい天気。
そんな晴れ模様の下で、俺は一応変装しシルクの買い物に付き合っている。
「リノア。良いからそっち寄越せって。もってやるから」
つい先ほどまでそこの店で衣替え用の衣装や何やらを買ったのは良いんだが、
その荷物をシルクが俺に渡さない。
「ほら」
空いている右手を目の前にいるリノアの前へと差し出せば、あいつは首を左右に振った。
さっきからずっとこの調子だ。
左手に握っている荷物は「いいの?」と良いながらあっさりと渡してきたのに。
「いい。自分で持つ」
「荷物を持つのは男の役目だ」
「そんな事ないもん。それに軽いから大丈夫」
「相変わらず強情で頑固だな。良いから寄越せって」
「いいってば。なんでそんなに荷物持ちたいの!?」
逆切れかっ!?
むすっとした表情のシルクは、目を細めて俺を睨んだ。
「お前こそ、なんでそんなに渡したくないんだよ!?」
そんなに渡したくないほど大事なものなのか?
まさか、それどこぞの馬の骨に送るプレゼントじゃないだろうな!?
しばしお互い探り合いのため目を合わせていると、「あらあら、まぁ」という聞きたくない声が耳に届く。
その瞬間、あいつらのシフト表が頭の中に浮かんだ。
そういえば、あいつら今日休みだった……
ギルアの城下町は広い。
だから出会う事なんて稀だと思っていたのに、まさかこんなタイミング良く出会うとはな。
今度からシフト表を事前に提出させるか。
嫌な予感しかしない中、後方を振り返ればやはり案の定居た。
ササラとメルだ――
「往来で何やら騒いでいるカップルが居ると思えば、リクイヤード様とリノアじゃないですか」
「やだー。ちょっと痴話げんか?」
いつものメイド服と違い、今日は身動き取るのが面倒そうな見栄え重視の服を身に纏っている。
こいつらは見目が悪くないので、華やかに見えるが中身はアレだ。
そのため俺に仕えるメイド達の素性を知る城の人間も、こいつらには手が出せない。
むしろ見ると一目散に逃げていく。
全く、どんな弱みを握っているだか……
「なんでもないから黙って通り過ぎろ」
「あら、冷たい。ご主人様思いの私達に対して酷いですわ」
声のトーンを落とし眉を下げ悲しそうな表情をして見せても俺にはわかる。
なんてわざとらしい……見てて引くぐらいの三文芝居だ。
「良いから素通りしろ」
そう口にすればササラとメルは俺を通り越しシルクを一瞥すると、また俺へ視線を移し、ニヤリと口角を上げて見せた。
なんで俺のメイド達は癖のある奴らしか担当しないんだ!?
「駄目ですわねー、リクイヤード様。ちゃーんと、リノアの事見て差し上げなくっちゃ」
「本当に乙女心がわかってないわよねー」
「お前ら帰れ」
「あら? 帰ってよろしいんですの? リノアがどうして自分で荷物を持ちたいか教えて差し上げませんわよ?」
「お前らわかるのか!?」
「えぇ、もちろん。だって私達も乙女ですから~。ねー、メル」
「そうよねー」
と、二人で笑いあっているが俺は笑えない。
片方の女は貴族令嬢のくせに、山で仕留めた猪を担いで下山してくるような奴。
そしてもう片方は元老院の爺さん達の間者で元暗殺者。
そんな一癖も二癖もある連中なのに、それが乙女……
「いいですか、リクイヤード様。今リクイヤード様が持っている荷物、結構大きいですよね?
リノアが持っている荷物も。それ、片手に持つとがさばりますよ」
「は? 何を言いたいんだ? それはそうだろ。中身衣服だからな。がさばるから右手と左手に
持つだろうが。普通」
「えぇ。そうしたらどうなりますか?」
「どうなるもこうなるもないだろうが」
「あー、やっぱりわかっておりませんね。リノアは――」
「ササラさんっ!!」
シルクが突如俺とササラ達の間に割って入ってきた。
顔を真っ赤にさせ、「いいですから!」とササラに向かって話している。
それをササラが「あら可愛い」とあしらっている。
――なんだ?
わからず首を傾げれば、「まだわからないわけ~?」というメルの呆れた声が耳に届く。
「いい? 眠り猫亭で仲睦まじく二人がランチをしてから、さっきの店で買い物するまで二人は手を繋いでいたでしょ?」
「あぁ、何も荷物なかったからな。というか、なぜ知っている!?」
「まぁ、それは置いておいて。今はリノアの事。荷物がなかったから手を繋げた。……ということは?」
「あぁ」
そうか。そういう事か。なるほどな。
じっとシルクを見つめれば、視線が泳ぐ。
「お前、俺と手を繋ぎたいから荷物は自分で持つって言ったのか」
「――っ」
さっきよりも顔を朱色に染め、シルクはぷいっと横を向いた。
素直に言わないところが実にこいつらしい。
……だが、そこもまたこいつの可愛いところだがな。
俺は笑いをかみ殺すと、腕を伸ばしシルクの手を握った。




