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番外編 食べ物の恨みは怖い?

時間がある今のうちにと、短い番外編だけ連続upしました。

こちらもブログより転載。

長い番外編もあるので、それはまた今度時間を見て掲載予定。


シルクとリクイヤードが出会って間もなくの頃のお話です。

食い物の恨みは恐ろしいらしい。

特にこいつ――シルクの場合は。



「呼び鈴ならしたら来いよ……なんで俺がわざわざメイド室まで来なきゃならないんだ」

「他の人が行ったじゃん。それに今、見ての通り休憩中。何? まさか、休憩時間すら与えない気?

労働法に引っかかるわよ」

メイド服を着たその女は、ポットからカップへとお茶を注ぐ。

すると林檎の良い香りが鼻腔をくすぐった。

どうやら、アップルティーらしい。

お茶入れるなら俺の分もついでに入れればいいのに、カップは一つだけ。

その様子を見る限り、入れる気はまったくないようだ。


口の悪いこの女は、容姿がかなり良い。

光に当たって輝く長いプラチナの髪に、吸い込まれそうな黒曜石の瞳。

白い肌に映える薔薇色の形の良い唇。


かなり可愛い。

シルクがこの城にメイドで入った頃、その美しさから騎士たちの噂のまとだった。

俺が元々シルクの存在を知ったのも、騒いでいた騎士に話を聞いたからだ。

騎士たちだけじゃない。宰相から、門番までこいつの魅力にあっさりと敗北。

中には貢物で気を惹こうとプレゼント攻撃に出る者も多い。

シルクは理由もなく物を貰うのが苦手らしく量も多かったので、シルクが困ってしまい親父に相談した結果、特別な理由がある以外シルクに物を与える事を禁じる命が出た。


メイドという身分から、権力を駆使して無理やりシルクを……――というのが出てこないのは、親父推薦で入城というメイドだからだろう。


絶対、皆外見にだまされている。

たしかにこいつは仕事が出来るし、動作も言葉も品があって綺麗だ。

気もきくらしく、メイド仲間からの評判も良い。

だから、元老院にいる頭の固い連中やのじいさん達にも評判が高いのが頷ける。


「俺にもお茶」

「休憩中」

シルクは俺の方を見ず、椅子に座り準備した紅茶片手に読書を始めている。


「……たった一個食っただけだぞ」

「ただし、一人一個ずつ配られた物のね」

普段なら、こいつは休憩中でもお茶ぐらい入れてくれる。

それを頑なにしないのは、ほんの数時間前の出来ごとが原因だ。


たまたまメイド室を通った時、ちょうど一つだけ焼き菓子が籠に残っていた。

幸か不幸かメイド室には誰も居なかったので、大方誰かの差し入れをみんなで分けて食べた残りだろうと思い、それを食べてしまったのだ。

あまり甘いものは食べないが、昼飯をまだ食べてなかったので腹が減っていたから足しに出来ればなんでもよかった。


そこへタイミング良くシルクが戻って来てしまい、大激怒。

証拠隠滅するにも、ばっちりと見られてしまっていたので不可能だった。



「お前、菓子ぐらいで根に持つな」

「あれクスクスってお店なの!!あそこのお菓子予約制で、人気があって予約取れないんだってば。配られる時滅多に食べれないって聞いたから、だから三時のおやつにゆっくり食べようってとっておいたのに……」

だんだん声が弱くなり、シルクの瞳には涙が浮かび始めている。

さすがにこれには慌てた。

そりゃあ、そうだろ。

まさか、菓子一つで泣くなんて思うわけないからな。


「おい、泣くな」

「泣いてない」

いや、もう涙拭いてる時点で泣いてるだろ。


「クスクスの菓子は予約入れて後でいっぱい買って来てやるから、もう少し待て。そのかわり、今日の夕食料理長に頼んでメイド全員に特製デザートつけてやるから。な?」

「――ほんとですかっ!?」

それはシルクの声じゃなく、複数の女の声。

聞こえてきたのは廊下へと通じる扉の先だった。

そこを開けると、メイド達がドミノ倒しのように流れ倒れてきた。


「……なにやってんだ」

「え。だって、リクイヤード様の邪魔しちゃ悪いと思ったんですよ~。だから、こうしてこっそり伺ってたのに~。料理長の特製デザートなんて言わちゃったので、つい」

「お前ら……」

「リクイヤード様、約束は守ってくださいね。クスクスのお菓子に、料理長のデザート!!」

俺はシルクの機嫌を直して欲しいのに、なんでお前らが浮かれてるんだよ?

シルクが来てから、こいつらメイド達も変わった。

前は世間話もなにもお互いしゃべらなかったのに、今ではこんなだ。


「リノア~っ!!」

突然やってきた声の主に対して、メイド達がすばやく扉の前から端へと退ける。

するとそこに居たのは、オリンズだった。

オリンズは懐いているはずの俺には目もくれず、真っ先にリノアの元へやってきた。


「オリンズ様……?」

「兄上におやつ食べられちゃったんでしょ?僕のおやつあげる!!だから、元気だしてね」

オリンズが差し出したのは、白いプレート。

その上には、ナッツのケーキとフォークがのっていた。


「私は大丈夫ですよ。これはオリンズ様がお食べになって下さい」

「僕は平気。リノアが食べて」

俺の弟・オリンズも幼いながらもシルクがお気に入りらしい。

こいつ、面食いなのか?


「それでは、リノアさんとご一緒にお食べになってはいかがですか?」

「うん。じゃあ、リノア。半分ずつ食べよー」

女官のメイヤの言葉にオリンズがフォークで切ると、リノアに差し出す。

戸惑っていたリノアは、女官に視線を向ける。

すると頷かれたため、それを口に入れた。


「おいしいです。ありがとうございます、オリンズ様」

「元気出た?」

「はい」

「リノアが笑うとこっちまで嬉しくなるんだ~」

リノアの笑顔に対して、オリンズもえくぼを浮かべた。


「……負けてしまいましたわね」

「頑張ってください、リクイヤード様っ!!」

背後から聞こえて来るのは、メイド達の勝手な言葉たち。

笑いをかみ殺しているやつはまだいい。だが、ササラ噴き出しやがったな!


「勝ち負けとかじゃないだろ。それに俺はただお茶が飲みたかっただけだ。だから別にリノアの笑顔が見たかったからとかそんな理由じゃない」

「リクイヤード様がそう言うのでしたら、そうだとしておきましょうか」

まったく、こいつらは主で遊びやがって。

でもまぁオリンズのおかげでシルクに笑顔が戻ったから、良しとするか。




ここまでお読み下さった方、ありがとうございました!




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