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うわっ…俺達(アンデッド)って弱点多すぎ…?  作者: 夏川優希


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149、睡魔に抵抗するために




 ダンジョン最下層、宝物庫の間。

 本来であればダンジョンボスである吸血鬼と宝を狙う冒険者との死闘が繰り広げられる空間である。

 しかし今、このフロアに響くのは怒声でも悲鳴でもなく、冒険者のヒソヒソ声と吸血鬼の寝息であった。


「え? マジ?」

「いやいや、そんなまさか。だってボスでしょ? 耐性あるでしょ、普通」

「俺らを油断させようとしてるのかも」


 冒険者たちは武器を構えつつ、地面に倒れ込んで寝息を立てる吸血鬼を囲む。彼に眠りの魔法をかけた魔法使いが、恐る恐るといったふうに杖で吸血鬼の体をつつく。

 しかし吸血鬼が体を起こす気配はない。


「んー、やっぱ寝てるっぽい」

「マ、マジ……? どうする?」

「どうするもなにも。決まってんだろ」

「袋叩きだ!」




******




「あのさ、本当いい加減にしてよ」

「いや……その……」


 地面に正座し、バツが悪そうに視線を泳がせる吸血鬼。

 傷はほとんど治っているが、血に染まったシャツや穴だらけになったジャケットが吸血鬼のやられっぷりを物語っている。


「ダンジョンボスが戦闘の真っ最中に眠らされて、挙げ句そのままボコボコにされて宝取られるって。俺、結構長いこと冒険者してたけどあんまり聞いたことないよ。どの魔物もだいたいすぐ起きるよ。ゾンビちゃんも同じ事されたけど眠らなかったよ」

「そ、そんなに言うことないじゃないか。僕だって寝たくて寝たわけじゃないんだ。それにその、今ちょっと風邪気味だし。もっと労ってくれても良いんじゃないか!?」

「逆ギレするな!」


 吸血鬼に弱点が多いのは周知の事実であるが、まさかこんな弱点があったとは。

 驚いているのはきっと冒険者たちも同じだ。だが俺たちの驚きと冒険者の驚きは似ているようで全然違う。


「冒険者の情報網を舐めないほうがいい。きっと吸血鬼が睡魔に弱いって話が今こうしている間にも伝わってるよ。明日にはきっと、眠り系の呪文を取得した魔法使いたちが舌なめずりしながら大挙してやってくる。早く対策をたてないと、このままじゃダンジョンが破綻するかも」

「うっ……僕にどうしろと言うんだ」

「決まってるでしょ。特訓だよ」


 そう言って、俺はスケルトンに合図を送る。

 スケルトンが持ってきたのは杖だ。先端に小悪魔の像が付いた、黒い短杖。冒険者の間では睡魔の杖と呼ばれている品である。


「この杖なら魔力のない者でも眠りの魔法が使える。魔法使いの呪文よりは威力が落ちちゃうんだけど、とりあえずはこれで訓練しよう。眠り魔法は耐性が付きやすいって話もあるしね」

「そんなもの使うのか? さっき魔法使いの強力な呪いで眠らされたばかりだぞ」


 苦々しい表情で吸血鬼が首を振った。

 くどくどと文句を言い続ける吸血鬼に向かって、スケルトンがこっそりと杖を振る。先端に付いた小悪魔から、桃色の靄が放たれた。


「そんなおもちゃのような杖の即席魔法で僕が眠るわけ――」


 喋りながら、まるで吸い込まれるようにして背中から倒れこむ吸血鬼。

 受け身も取らず後頭部を打ち付けながら地面に寝そべる吸血鬼の寝顔は、腹が立つくらいに安らかであった。


『予想以上だね』

「これは長い戦いになりそうだ……おーい吸血鬼、起きろ起きろ」


 声をかけるが、吸血鬼はすやすやと寝息を立てるばかりで起きる気配はまるでない。

 まぁ考えてみれば当然か。地面に後頭部を打ち付けても起きないのだから、俺が声をかけた程度で起きるはずもない。


「仕方ない、ゾンビちゃん頼むよ」

「ハーイ」


 ゾンビちゃんは声を上げながら、ペタペタと吸血鬼に走り寄る。

 そして仰向けに寝転んだ吸血鬼の髪をおもむろにひっつかみ、彼の整った顔に重い右ストレートをぶち込んだ。


「うがッ!?」


 メリメリと嫌な音を響かせながら、吸血鬼が吹っ飛ぶ。その衝撃にようやく吸血鬼も目を覚ましたようだ。

 左顎を押さえながら、何が起きたのか分からないとばかりに目を丸くしている。

 しかしゾンビちゃんの一撃をノーガードで食らって意識を飛ばさなかったのは流石といえよう。


「な、何するんだ!?」


 吸血鬼の当然の問いに、ゾンビちゃんはさも当然とばかりに答える。


「寝テたから起コシタの」

「爆睡だったよ」

「そうなのか? あー……あれだな、とんでもなく高性能な杖だな」


 吸血鬼は視線を泳がせながらバツが悪そうに頭を掻く。


「そ、それにしても、もう少し起こし方ってものがあるだろう! 顎にヒビが入ったぞ。次はもっと優しくしろ」

「エー? どうやって?」

「こう、優しく揺するとか……色々あるだろう。殴る以外に!」

「起こし方を考えてる場合じゃないでしょ! そもそも眠らなければいい話なんだから」


 俺の言葉に、吸血鬼は途端に苦々しい表情になって唇を噛む。


「うっ……そうはいってもこの杖の威力は思っていた以上に強い。なにか策が必要だ。何かないか、目の覚めるような画期的なアイデアは」

「なに上手いこと言おうとしてんの。殴ったら起きたんだし、眠くなったら自分の頬を殴れば良いんじゃない」

「顎にヒビが入る勢いで自分の顔を殴れと言うのか? まったく、自分が睡魔に素通りされるからって適当な事を言って……おい誰か、他に案はないか」


 吸血鬼の呼びかけに対し、ゾンビちゃんが真っ先にその青白いツギハギだらけの手を上げる。

 彼女は目をギラギラ輝かせながら嬉々として言った。


「マブタ齧リ取ル!」

「悪くないけど、それは最終手段だね」

「そんな事絶対にしないからな。誰か! もっと現実的な案を出してくれ」

「エー? ダメ?」


 不服そうに口を尖らせるゾンビちゃんを横目に、今度は白い手骨が上がった。

 スケルトンは素早く紙にペンを走らせ、俺たちに向けて掲げる。


『目の下にスースーするもの塗るとかは?』

「おお、ようやく現実的かつまともなアイデアが出たな!」


 初めて出た「痛みを伴わない案」を吸血鬼は笑顔で迎え入れる。

 とはいえ、ここはアンデッドダンジョンで我々はアンデッド。気軽に道具屋へ足を運んで道具を購入するというわけにはいかない。


「スースーするものってハッカ油とか? そんなものうちにあったっけ?」

『探してみる』


 そう言い残し、数体のスケルトンがダンジョンの暗闇へと消えていく。


 それから僅か数分後。

 俺が思っていたよりずっと早く彼らは帰ってきた。しかもその手にガラスの小瓶と綿棒をもって。


『あったよ』

「おお、探せばあるものだな!」


 吸血鬼は上機嫌でスケルトンから小瓶と綿棒を受け取る。美しい小瓶を満たす無色透明の液体を綿棒に染みこませ、目の下に素早く塗り付けた。

 だが、両目の下にタップリ液体を塗った直後、吸血鬼の顔色が変わった。


「ん? なんかこれ……痛ッ!?」


 吸血鬼の目の下がみるみる爛れていく。

 まるで高濃度の硫酸でもかけられたように、うっすら煙まで上がっているように見える。


「うわぁッ!? な、なんか大変なことになってるよ! ねぇ、あれ本当にハッカ油なの!?」

『ハッカ油は残念ながらなかったので』

「じゃあ、あれなに?」

『聖水』

「冗談じゃない、なんてもの渡してくれたんだ!」


 目を押さえ、悲鳴を上げながら悶絶する吸血鬼。

 だがスケルトンたちは悪びれる様子もなく紙にペンを走らせる。


『でも、目覚めたでしょ?』

「眠らなければなんでも良いってわけじゃないだろう。こんな視界じゃ戦闘に支障が――」


 吸血鬼の口調を遮るように、スケルトンが睡魔の杖を振る。

 刹那、吸血鬼は再び地面に吸いこまれるようにして俺の視界から消えた。


「マジか……これでもダメなんだ」


 地面に仰向けに倒れこんだ吸血鬼を見下ろしながら俺はため息を吐く。

 さすがに安らかな寝顔というわけではなかったが、こんな状況でもまだ眠ってしまうとは。


 ゾンビちゃんは吸血鬼に素早く近づき、ギラギラ輝く瞳で俺の方を見上げながら声を潜めて言う。


「ネェネェ、マブタ齧リ取ル?」

「もしかしたら後でお願いすることになるかもしれないけど……とりあえず吸血鬼を起こしてくれる?」

「分カッタ。エート、優しく揺すル……」


 ゾンビちゃんは眠りこけた吸血鬼のシャツとズボンを引っ掴み、彼を軽々と持ち上げる。かと思うと、まるで鐘でもつくような動きで彼を前後に振り始めた。

 しかし、それでも吸血鬼は目を覚まさない。

 ゾンビちゃんの動きは時間の経過に伴ってどんどんと激しくなっていく。これが本当に鐘撞だったなら、とっくに鐘か鐘撞棒のどちらかが壊れてしまっているに違いない。

 その凄まじい慣性力のせいだろう。やがて吸血鬼はゾンビちゃんの手をすっぽ抜けて、頭頂部から壁に激突した。


「……どんな起こし方をしたんだ」


 頭を押さえ、ややめり込んだ壁を見ながら、吸血鬼がふらりと起き上がる。

 ゾンビちゃんはきょとんとした表情で彼の問いに答えた。


「優しく揺すッタよ?」

「どう揺すったら壁にめり込むんだ!」

「そんな事どうでも良いよ! なんで目の下に聖水塗って寝ちゃうんだよ!」

「うっ……なんでと言われても困る! こちらが聞きたいくらいだ!」

「だから、逆ギレしないでってば!」

「……そういう君は眠くなった時どんな対策を講じていたんだ? もちろん生きていた時の話だぞ。真面目に思い出してくれ」


 吸血鬼は縋るように俺の透明な体を見つめる。今のところ有力な解決策はなく、吸血鬼もさすがに焦り始めたか。溺れる者は藁をも――いや、幽霊をも掴むといったところだろう。

 彼の期待に答えるべく、俺は必死に生きていたときのことを思い出す。

 正直、もう「眠い」という感覚すら上手く思い出せなくなっているのだが。


「そうだな、俺は……お茶飲んだり、ミント噛んだりしてたかな。あっ、聖水飲むってのはどう?」

「戦闘に支障が出る案を出すなと言っているだろう! だが、なにかを口にするという発想は悪くないな」

「いやいや、目の下に聖水塗っても寝ちゃうような人にお茶やミントが効くわけないじゃん」

「うるさい! そもそも、僕はなにもミントを齧ろうと考えている訳じゃない」

「じゃあなに齧ろうって言うの?」

「ククク……」


 吸血鬼は不敵に笑ったかと思うと、フロアの端にある大きな岩の陰を覗きはじめた。


「なんだよ、まさかネズミでも齧る気?」

「そんな訳ないだろう、小娘じゃあるまいし……これだよ!」


 彼が笑顔で取り出したのは、渦巻き模様の描かれた蛍光ブルーのキノコ――錯乱キノコである。

 その絵本に出てきそうなメルヘンな見た目に騙されてはいけない。口にすれば魔物ですら幻覚を見てしまう、危険なキノコなのだ。


 そんな物を戦闘中に食べようと、彼は本気で言っているのだろうか。


「ダメだよそんなの! 絶対ダメ! ダメ、ゼッタイ! 状態異常の重ね掛けは不味いって。それこそ戦闘に支障が出るよ」

「大丈夫だ、マイナスとマイナスを掛けるとプラスになるだろう? それにこのキノコ、覚醒作用もあるんだ」

「なんだろう、ますます嫌な感じがする。なにが大丈夫なのか全然分からない」

「ものは試しだ。スケルトン、やってくれ」


 吸血鬼はスケルトンに指示を出すと同時に、そのメルヘンチックなキノコを齧る。それを飲み込むのと同じタイミングで、スケルトンはまた睡魔の杖を振った。

 するとどうだろう。

 一瞬吸血鬼の足元がふらふらと怪しくなったが、なんとか踏みとどまったのだ。

 思わずスケルトンたちと顔を見合わせる。


「えっ、マジで? 成功した?」


 しかし、どうにも吸血鬼の様子がおかしい。

 怯えたような表情を浮かべて、何もないところを見つめている。


「吸血鬼……?」

「ああ、ああああ……! ケ、ケンタウロス……!? ケンタウロスがッ!」


 一応あたりを見回してみるが、もちろんケンタウロスなどどこにもいない。


「ちょっと、どうしちゃったんだよ?」

「うわああぁぁぁッ!? やめろッ、僕は干し柿じゃない!」

「吸血鬼は干し柿じゃないし、ケンタウロスなんてどこにもいないよ。しっかりして!」

「ひああああッ、ケンタウロスがッ!? ケンタウロスが体を這ってッ!」


 吸血鬼は意味の分からない言葉を口にしながら、上着を脱ぎ棄て、シャツを破り捨て、体を掻きむしる。

 もちろん彼の体にケンタウロスなど這ってはいないのだが。


「他の生物ならともかく、ケンタウロスがどうやったら体を這えるんだよ……」

『幻覚?』

『前やった時より酷い』

「やっぱり併用は不味いんだね。吸血鬼がズボンまで脱ぎだす前に止めて吐かせないと……ゾンビちゃん、押さえててくれる?」


 言いながら、地面に寝転んだゾンビちゃんに視線を移す。

 しかしゾンビちゃんが立ち上がることはなかった。睡魔の杖の魔法にあてられたのか、彼女もまたスヤスヤ寝息を立てていたのだ。


『戦闘中は眠らなかったのに』

「肉が目の前にある時は眠らないってことかな。やっぱり緊張感の差だよね……」


 魔法の眠りは強力だ。ゾンビちゃんを起こすのは難しいだろう。


 吸血鬼はというと、無茶苦茶に腕を振り回して見えない何かと戦っている。

 下手に近づくのは危険だし、近づいたとしてもスケルトンでは止められない。自然に正気に戻るのを待つしかなさそうだ。


 本人が一番辛いだろうから、少し可哀想ではあるが。


「……いや、ちょっと待てよ。これは使えるかも」




*******




 ダンジョン最下層、宝物庫の間。

 冒険者がダンジョンボスである吸血鬼と最後の戦いを繰り広げる場だ。

 本来ここに辿り着いた冒険者はピリピリした緊張感を身に纏い、気を引き締めて戦いに臨む。


 しかし今回この場に足を踏み入れた冒険者パーティの面々は、緊張感とは無縁の表情を浮かべていた。


「くくく、現れたぞネボスケさんがよォ!」

「まさか吸血鬼様にこんな弱点があったとはなぁ」


 ニヤニヤしながら吸血鬼と対峙する冒険者たち。昨日吸血鬼を袋叩きにしたメンバーがチラホラと見えるが、パーティの構成自体は大幅に変えてきたようだ。

 剣士一人、そして魔法使い四人。

 通常ならあまり見られない、アンバランスなメンバーだ。清々しいほど徹底的に吸血鬼を追い込もうとしているのがよく分かる。


「まったく、馬鹿の一つ覚えだな」


 吸血鬼もさすがに呆れ顔だ。

 だが呆れているばかりではない。いつもとは違う緊張感のようなものを、吸血鬼は纏っていた。


「すましてられるのも今のうちだぜ」

「さっさとおねんねしな!」


 魔法使いたちが素早く杖を構え、眠りの魔法を一斉に放つ。

 だが吸血鬼も黙って魔法を受ける訳ではない。

 フロアを縦横無尽に走り回り、ヒラリヒラリと放たれる魔法をかわして見せる。


「そんなもの、その気になればいくらでも避けられる!」


 全ての魔法を避けきり、吸血鬼は素早く地面を蹴って冒険者との距離を詰める。

 新たに詠唱したり、障壁を張ったりする暇など与えない。一気に畳み掛ける気だ。


 だが吸血鬼の手はあと少しのところまで魔法使いに迫ったものの、その喉を掻き切るには至らなかった。

 魔法使いを守るように飛び出してきた剣士によって弾かれたからだ。


「くく、甘いぜ!」


 冒険者は吸血鬼に向かってニヤリと笑ってみせる。

 剣士が手に持ち、吸血鬼の爪を防いだのは、剣ではなく杖であった。

 先端に小悪魔の像が付いた、黒い短杖。しかも小悪魔の背には羽が四本生えている。

 我々が訓練で使用していた睡魔の杖の上位互換、睡魔の杖EXである。


「剣士が剣を捨てて、状態異常に頼るのか!? プライドはないのか貴様!」

「うるせー。勝てば良いんだよ、勝てばなァ!」


 左手に握った剣を投げ捨て、剣士は睡魔の杖を振る。

 吸血鬼は地面を蹴って退避するが、この距離では間に合わない。


「大人しく落ちろ!」

「ぐっ……」


 桃色の靄が吸血鬼を包み込む。

 吸血鬼の動きについていけず怯えていた魔法使いたちにも安堵の色が広がる。


 だが、吸血鬼はもはや昨日までの吸血鬼とは違う。文字通り血の滲む訓練の成果が現れたのだ。

 吸血鬼は一瞬体を倒しかけたが、しっかりと踏み止まり自分の体を支えたのである。

 そして彼は自分の左腕に手をやり、爪を立て、肉を引き裂いた。


「ヒッ……じ、自分で!?」

「怯むな! 畳み掛けろ」


 剣士の指示により、魔法使いたちは次々と吸血鬼に杖を向け、桃色の靄を放った。

 しかし吸血鬼は倒れない。今度は自分の左手首に手を添えて強く握る。軋むような音の後、フロアに前腕骨の折れる音が響き渡った。

 不自然な方向に折れ曲がった手首。割れた骨が皮を貫いて露出してしまっている。


 ニヤついている者など、もういない。呪文を詠唱する声さえ聞こえてこない。

 静まり返ったフロアに、吸血鬼の低い声が響いた。


「左腕はくれてやる。腕一本あれば十分だ」


 まさに「鬼」というに相応しい、狂気すら孕んだ恐ろしい表情。

 これほどの覚悟を持って戦いに臨んだ者など、このパーティにはいない。


「い、言ってた話と違うじゃねぇか!」

「アンタ、簡単な仕事だって!」

「昨日は! 昨日はあんな感じじゃな――」


 吸血鬼が地面を蹴り、跳ねる。仲間に言い訳をする剣士の頭を蹴り飛ばすと、彼の首がまるでボールのようにぽーんと飛んでいく。

 言い訳を言う時間もそれを聞く時間も彼らには残されていないのだ。


 リーダー格の男が簡単に息絶えたのを目の当たりにし、残された冒険者たちは一気にパニックに陥った。


「ヒイィィッ!?」

「なんで!? なんでぇ!?」


 確かに冒険者たちも不思議に思っていることだろう。どうしてたった一日で彼がここまで必死に眠気に抗うようになったのか。


 結論から言うと、俺が吸血鬼に献身的なサポートをしてるからである。

 俺は戦闘中ずっと吸血鬼の後ろにひっつき、彼の目を覚ます魔法の言葉を唱え続けている。

 俺に魔力はないが、この言葉は吸血鬼に対し非常に有効だ。


 逃げ惑う魔法使いたちを狩る吸血鬼に、俺は耳打ちを続ける。


「寝たらキノコ食わすよ〜、キノコ食わすからね〜」


 朦朧としながら、吸血鬼はうわ言のように呟く。


「ケンタウロスは嫌だ、ケンタウロスは、ケンタウロスだけは――」




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