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09.終わりのはじまり



 合衆国は再び聖女召喚を行った。

 だけど何故か儀式は失敗して、聖女は召喚されなかった。


「えっ」


 いやいやちょっと待ってよ。合衆国にはもう聖女サナタがいるじゃん。なんで次を召喚しようとしてんのさ!?


「…………まさか」


 想像したくない。けど、どうしても最悪の想像が頭をよぎる。

 だって聖女サナタはあれ以来一度も登場してないのだ。だからこそ大統領の前から連れ出される時の、泣き喚いて許しを乞うていた彼女の描写が、したくもない想像を悪い方に補強してしまう。


「う…………嘘でしょ」


 まさか、そんな。

 こ、殺されたりなんて、してないよね……?


 いやまあ異世界(むこう)で死んだら現世に戻ってくる……なんて設定の異世界召喚物もあるから、そっちの期待を持とうともしてみたんだけど。けれど現実に早苗多(サナタ)が戻ってくることはなかった。

 聖女ハルマは、サナタが退場したことを知らないまま、公国で修行に励んでいる。そのうちにサナタにも会えるはずと素直に信じて。



 小説の中で、さらに動きがあった。

 聖女カーサが暗殺されたのだ。


 彼女は帝国の皇太子の婚約者に収まっていた。聖女の修行もほぼ終わり、これから国内の浄化に着手しようとしていたある日、お茶会に呼ばれて、そこで彼女は毒を盛られた。

 盛ったのは、元々皇太子の婚約者になるはずだった公爵令嬢だった。彼女は毒を飲んで倒れ込み苦しんでもがく香亜紗(カアサ)先輩に向かって「この泥棒猫!」と罵声を浴びせ、本当に聖女で浄化の力があるのなら体内の毒も浄化できるはず、と言い放って先輩を放置した。

 そうして先輩はもがき苦しんだまま事切れ、公爵令嬢は聖女を害した大罪人として斬首刑になった。


「ウソ……ウソだよ、そんなの……」


 聖女サナタはおそらく始末(・・)された。

 聖女カーサは毒殺された。

 そして、早苗多も香亜紗先輩も現実には戻ってきていない。


「それってつまり、向こうで死んだらそれで終わり(・・・・・・)ってことじゃん!」


 そんな理不尽なことってある!?

 飛香(アスカ)夏葉(ナツハ)、早苗多や香亜紗先輩、遥舞(ハルマ)ちゃんも多可奈(タカナ)ちゃんも、どうしてそんな目に遭わないといけないのよ!


 しかもそれだけでなく、作中のショッキングな事件はさらに続いた。

 独裁国の聖女タカナが、神聖国から乗り込んで来た聖堂騎士団に捕らえられ、処刑されたのだ。

 彼女は訳も分からず、説明さえロクにされないまま捕らえられ、簡単な審問裁判を経て偽聖女(・・・)と判定され、そのまま絞首刑になった。まだ修行を始めたばかりで聖女の力をほとんど使えなかったことが、偽聖女判定の決定的な証拠(・・・・・・)になった。


「いやあああああ!」


 夜に部屋で読んでいたアタシは、思わず叫んでスマホを放り投げ、そのまま布団に包まって震えるしかなかった。叫び声を聞いてママやお兄ちゃんが慌てて部屋に駆けつけてきたけど、怖い夢見ただけと言って誤魔化して、部屋には入れなかった。

 そんな一方的に、ほとんど弁明もさせないまま処刑とか、そんなのひどい!


 というか多分、神聖国はやっぱり、自国以外の聖女を正式に承認するつもりなんてないのだろう。聖女タカナの審判と処刑は、あたかも最初から有罪が決まっていたかのような描写だったから。


「どうしよう……。このままじゃ……」


 夏葉も遥舞ちゃんも殺されちゃう……?

 何とか助けたい、でも何をすればいいのだろう。もうどうしていいか分かんないよ!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 次の日、アタシは気分が悪いと言って学校を休んだ。実際に気分もテンションも最悪だったから、嘘は言ってない。だからサボりじゃない。

 でも、引き籠もっててもなんの解決にもならないと思い直して、その次の日には半ば無理矢理登校した。ママはもう少し休んだらと言ってくれたけど、1日何もしないで部屋に引き籠もってたらどんどん悪い方にばっかり考えちゃう事に気付いたから、それならキツくても学校行って、気を紛らわせたほうがマシだと思った。


礼愛(ライア)、大丈夫?」

「あんた顔色悪いままじゃん」

「キツイなら言いなよ?てかセンセに言って早退させてもらいな?」


「うん……ありがとう。でも、独りになりたくなくてさ」


 独りでいたら、自分の部屋であっても召喚されそうな気がする。こうなったらむしろ召喚された方がやれることが増えそうな気はするけど、でも召喚された挙げ句に殺されるなんて絶対にやだ!

 早苗多が独りになるのをあれほど嫌がっていた、その気持ちが今ならよく分かる。だってもう恐怖しかない。



 小説は相変わらず更新され続けている。もう読みたくもないのに、それでもついつい読んでしまう。読み進めて万が一、飛香が死んだりするような事態にでも直面すれば、今度こそ立ち直れなくなりそうだと解っているのに。

 でも、それでも読んでしまう。だってもうそれしか出来ることがないから。


 作中で、7人目の聖女が召喚された。

 召喚したのは思想国で、聖女の名は「マリヤ」だった。


 どうせまた、うちの学校の生徒なんだろう。でももう探す気力も失せていた。

 というか探さなくても、学校に行けば噂話は耳に入る。香亜紗先輩の同級生で「茉莉也(マリヤ)」という名の三年生が、新たに行方不明になっているそうだ。

 あかさたな、ときて遥舞(ハルマ)茉莉也(マリヤ)。次は「ヤ」で、その次は……。


「…………“ラ”、じゃん」


 ああ……結局、アタシも召喚されちゃうのかぁ。

 でもなんか、もうどうでもいいや。


 合衆国は、相変わらず次の聖女を召喚できていない。戦争でも帝国と独裁国に押され気味で、でも帝国の方でも聖女暗殺の件で神聖国から弾劾されてて戦況は見通せない感じ。独裁国単独では合衆国に勝ち切るだけの国力はなさそうだった。


 思想国は神聖国とは、物理的にも思想的にも比較的距離がある。その思想国が聖女を召喚したことに神聖国はすぐさま非難を表明したけど、表向きにはまだそれ以上のアクションは起こしていない。それ以前に聖女を害した(・・・・・・)合衆国と帝国への懲罰の動きのほうが活発だからだ。

 そう。神聖国は公式に、聖女サナタが合衆国首脳部によって殺害されたと認定した。それとともに神聖国は聖堂騎士団を派遣して、背教の容疑で合衆国大統領ら国家の上層部をほとんど拘束してしまった。抵抗は棄教と見做す、と言われて、合衆国軍の兵士たちはほぼ無抵抗で降伏し祖国を守ろうとはしなかった。

 次いで聖堂騎士団は帝国にも侵攻した。こちらでもやはり聖女の殺害は背教行為だと言われて、皇帝と皇太子や帝国法王をはじめ、主だった首脳部が軒並み捕縛され神聖国に連行されてしまった。


 こうなると、独裁国も他人事では済まない。実質的に機能しなくなった合衆国と帝国の軍隊の動向などお構いなしに一方的に戦争終結を宣言して、そして国境を封鎖した。

 だけど独裁国もまた聖女タカナを神聖国に処刑され、さらに勝手な聖女召喚とその聖女を人間同士の戦争に利用しようとした罪で糾弾されてる状況で。神聖国から派遣されてる聖堂騎士団すら引き上げられた独裁国は、あっという間に湖から迫り来る瘴気の魔物たちを抑えきれなくなり呑み込まれ、そして滅亡した。






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