07.サモンディアの9つの国
ここでもう一度、小説『異世界から、聖女を召喚しています!』の世界観の設定をおさらいしてみようと思う。
惑星ディウェルスステラには、小規模大陸がいくつもある。要はオーストラリア大陸みたいな、島と呼ぶには大きいけど大陸と呼ぶにはやや小さい、そんな陸地が広い海に点在しているわけだ。
そのひとつ、“召喚大陸サモンディア”には全部で9つ、大陸の中央にある巨大な湖を取り囲むようにして並ぶ国々がある。どの国も国土面積や国力的なものは多少の差こそあるものの、突出した大国や小国というものはない。
大国と言えそうなのは神聖国、帝国、合衆国の3国。
「神聖国」は聖女教を信奉する宗教国家で、国の上層部は教皇を頂点とする聖女教の高位聖職者が兼ねている。「帝国」は皇帝が治める専制国家で、支配階級つまり貴族が国家の中枢を占めている。「合衆国」は国民が直接選挙で選ぶ大統領が治める自由主義国家だけど、大統領の子や孫も大統領に選ばれる傾向があるから特権階級的と言える層はある。
王国、公国、連邦国が平均的な規模の国。
「王国」と「公国」は帝国と同じく貴族のいる封建国家で、違いは主に国のトップ。つまり君主が皇帝なら帝国、国王だと王国、大公だったら公国になるわけだ。「連邦国」は合衆国とちょっと似てるけど、要するに小規模国家が集まって連邦を組んでいる国。
ちなみに合衆国は、連合国を構成する小国家よりももっと小さな国々の集合体らしい。連邦国の構成国は主権が個別にあって、仮に連邦を離脱しても国家として存立する。けど合衆国を構成するのは独立国っていうより州と呼ばれる自治国にすぎなくて、軍事など主権の一部を合衆国政府に依存しているから実質的に分立は難しい。
それから、小さめの国が共和国、思想国と、あと独裁国。
国民が選挙で選んだ国会議員が互選で決める首相が治める「共和国」は身分制度のない国で、権力も、国家の代表であり軍の最高指揮官も兼ねる首相の率いる行政府、国民の互選で選出される議員で構成する国会つまり立法府、そして司法と警察権力を司る司法府に分権されている。
「思想国」は特定の思想を持った集団が国家中枢を牛耳っていて、集団の代表である総統を神のごとく国民に崇めさせている。この国だけは聖女教の力が弱い。影響がないわけじゃないけど、総統を崇める国民の方が多数派を占めてる。
そして「独裁国」は、かつてあった国を革命で打倒し、建国した英雄である初代が国家主席に就任して以降、代々その子や孫が地位を世襲している国。権力が一族に集中していて、強固な独裁体制を築いている。今のトップは三代目で、すでに四代目もある程度育っていて政治の場に顔を出しつつある。
9国はそれぞれ国力的に大きな差がなくて、これまでは何かあるたびに外交交渉で何とかしてきたらしい。ただし大陸全体の住民のほとんどが聖女教を信仰していて、その意味では神聖国が頭ひとつ抜けている感じ。各国の聖女教トップである「法王」も神聖国から派遣される形を取っていて、異世界から聖女を召喚するのは神聖国にだけ許された秘儀なため、他の国はどうしても神聖国の言いなりにならざるを得ない。
それを嫌った帝国が聖女召喚の秘儀を盗み出し、神聖国以外には認められていないにもかかわらず独自に聖女を召喚してしまった。そのことを知った他の国々が我も我もと続々と聖女を召喚し始めて、群雄割拠の様相を呈してきている。っていうのが小説の最新話までの状況。
小説そのものは大陸内での各国のヒストリカルな興亡史といった雰囲気で、“小説家になれる!”でよくある異世界の恋愛ものとはちょっと違う感じがする。現に召喚された聖女が恋愛してそうなのは帝国と、あとは共和国くらいしかない。
そう。新しく召喚された共和国の聖女、ナッちゃんことナツハは今、次々寄ってくるイケメンたちに翻弄されて大変なことになっている。
最初は外務大臣の息子だったんだよね。彼は聖女の世話係として名乗りを上げてナッちゃんを淑女みたいに扱い始めた。そうしたら聖女教の共和国分教会のトップ、法王の息子が「聖女様の世話をするのは聖女教の役目だ」とか言って割り込んできて。そこに軍務大臣の息子とか財務大臣の息子だとかまで絡んできて、今じゃとうとう首相の息子までナッちゃんを口説いてる。
ナッちゃんはナッちゃんであんまり恋愛体質ではなかったし、周りにそんなにイケメンばっか居並ぶ状況にはもちろん慣れてなくて、柄にもなくわたわたしたり顔真っ赤にしたりして。それはそれで意外な一面だったしまあ可愛くもあるんだけど……いやそれどこの乙女ゲームだよ!
てかナッちゃんて聖女なんでしょ?大陸中央の湖から忍び寄る瘴気を祓うための修行させなくていいの?ホントこの小説、設定盛りすぎっていうか、ストーリーの目的とか最終目標が全然分かんない!
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小説の中でまだ聖女を召喚していない国は4つ。王国、公国、連邦国と思想国で、このうち思想国を除く3国は神聖国に対して聖女の派遣を要請している。だけど神聖国は自国の浄化が完了していないとして、その要請を突っぱねた。
それに腹を立てたのが公国だった。国内に常駐する聖女教の聖堂騎士団だけでは湖から来る瘴気の魔物に対処しきれなくなりつつあり、それで聖女派遣を要請したのに、「苦しいのはどこも同じ。聖女は召喚した我が国に優先権がある」なんてにべもなく言われたら、そりゃカチンとくるよね。
そんなわけで公国もまた、独自に聖女召喚の準備を始めた。
ところで、神聖国が独占していたはずの聖女召喚がなぜ各国で次々と起こっているのかと言えば、各国の聖女教トップである法王たちが協力しているから。本来なら法王は神聖国から派遣されてくる神聖国の聖職者のはずなんだけど、この9国体制になってもう数百年経つらしくて、今では現地出身の高位聖職者が任命されることの方が多いんだそうだ。
各国の出身者であっても、聖職者になれば一度は必ず神聖国に赴いて修行する必要があるらしい。その後で国元に返すことによって、派遣したという体裁を整えてるだけなんだそうだ。
だから公国の現法王も、公国で生まれ育った高位貴族の出自を持っていた。そして法王の地位まで上り詰めるような聖職者は、一度は聖女召喚の儀を学んでいるのだそうだ。
「いや、よくそれで今まで儀式が流出しなかったよね?」
ひとりでツッコんでも虚しいだけだけどさ。もう早苗多も夏葉も小説の中に召喚されちゃったし。
これまでは何百年も湖から沸いて出る瘴気の魔物の被害は散発的だったし、被害が起きた時だけ一時的に聖女の派遣を要請すればよかっただけだった。それでどの国も自国で聖女を召喚する必要がなかったのだと最新話で明かされた。そもそも異世界からわざわざ聖女を召喚するのは、神聖国出身の聖女で対処しきれない場合に限られるらしい。
つまり現状はいわゆる未曾有の事態というわけ。そしてそんな事態だからこそ、神聖国も各国が勝手に聖女召喚を強行したことを表向きには咎めていなかった。
そういった状況下での今度の公国の聖女召喚は、その意思決定のプロセスから詳細に描写された。
まず公国の宰相が自国でも聖女召喚をできないかと発案。君主である大公が他国の状況や神聖国からの返答を踏まえて理解を示し、お城に法王を呼び出した。法王は聖女召喚が門外秘であること、ただし技法は法王クラスであれば学んではいること、だから召喚そのものは不可能ではないと告げた。
その上で神聖国以外にすでに4ヶ国も召喚に踏み切っていること、それに対して神聖国が公的に非難声明を出していないことなどから、ここで公国が独自に聖女を召喚したところで黙認されるだろうとの結論に至り、ついに公国でも準備がスタートしたわけだ。
これで、六人目が召喚されると決まった。現状で最後の召喚が夏葉だから、次は「ハ○マ」という名前の子になるはずだ。
だけどこのタイミングで、神聖国が初めて非難声明を出したものだから公国の首脳部は混乱した。
神聖国は声明で帝国、合衆国、独裁国の召喚者を聖女とは認めないこと、その3ヶ国の召喚に手を貸した各国の法王を破門とすること、そして召喚した自称聖女を私欲のために働かせることを容認しない、と明言した。
私欲のため。つまりその3ヶ国は、すでに開戦している3ヶ国間の戦争に聖女を利用していると、神聖国はそう断定したわけだ。
神聖国の非難声明に共和国が含まれていなかったことで、声明は各国の勝手な聖女召喚そのものではなく、聖女を戦争に使おうとしていることを非難しているのだと公国では判断された。
そうして結局、公国でも聖女召喚が決行された。
六人目の聖女。その名は「ハルマ」だった。




