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04.二度あることは三度ある……?



 放課後、アタシと夏葉(ナツハ)は駅前にあるカラオケボックスで待ち合わせた。


「……で、礼愛(ライア)ちゃん、そっちの子は?」

「夏葉センパイ初めまして。私、礼愛センパイの幼馴染で一年生の早苗多(サナタ)って言います」

「この子もアタシと飛香(アスカ)の幼馴染でさ、今回のことでも飛香の行方を一緒に探してくれてるんだ」


「ふーん、そうなんだ。——ねえ、小説読んだけどさ、あれってどういう」

「あんま人に聞かせていい話かも分かんないし、とりあえず入ろっか」


 頭に疑問符の浮かんでいる夏葉を促して、アタシたちはカラオケボックスに入った。

 なんでカラオケかっていうと、周りが騒がしいから内緒話してても誰にも聞かれないし、ドリンクもフードも注文出来るし、話が終わればそのまま遊べるから。あと高校生のアタシたちのお小遣いでも気軽に使える、ってのも大きいかな。



「…………ふーん、異世界召喚ねえ」


 一通り話し終えたあと、黙って聞いてくれてた夏葉が腕組みして、難しい顔になった。


「なーんか色々信じられないっつうかさ。根拠ってのも飛香ちゃんが召喚されたときの場所と状況と、香亜紗(カアサ)先輩の失踪と、あと小説に出てくる聖女サマの名前だけでしょ?ちょっと断定するには早い気がするんだけど」

「だから、まだ人には聞かせらんないって思ったワケ。でもナッちゃんなら頭から否定するんじゃなくてひと通りは聞いてくれるかなって思って」

「そういう方面の信頼は、あんま要らないかなぁ」


 そう苦笑しつつも夏葉は、アタシたちの話を頭ごなしに妄想だと決めつけることは無かった。

 うん、やっぱこの子に話して良かったかも。


「それにさ、仮にそれがホントだとしてもさ、ウチだってどうやって助け出せばいいのかなんて分かんないよ」

「それはそうだけどさ、ほら、諺とかでもあるじゃん。『三人寄れば』的なやつ」

「『二度あることは三度ある』とも言うじゃん?三人目が召喚されるとかあれば、まあ疑惑は濃くなると思うんだけどさぁ」

「えっちょ、夏葉センパイ!?怖いこと言わないで下さいよ!」


 そう、これで終わりだなんて保証はどこにもないんだよね。だからこそ、そう言われれば否定できないんだけど……、できればハッキリ口にして欲しくなかったなあ。


「まあ、その可能性はない……って言い切れないのがツラいとこだよね……」

「…………そ、そんな……本当に、三人目が、召喚されちゃうんですか……?」

「さあ?分かんないけど」


 アタシと早苗多(サナ)が震えて紡いだ言葉に、大して興味なさそうな夏葉が返す。

 まあそうだけどさ、なんか他人事っぽくない?いやまあ他人事か。そりゃそうだよね、いきなりこんな話聞かされても、ナッちゃんだって困っちゃうよね。

 だけど彼女が何気なく続けた言葉に、アタシたちはさらに震えた。


「一人目がアスカ、二人目がカーサ……ってことはさ、次の子は『サ』で始まる子、だったりして?」

「「…………は?」」


「いや、ホラ、なんかしりとりみたいだなって思ってさ。次に召喚される子が『サ』で始まる名前の子だったりしたら面白いなって」

「いや面白くないですよ!」


 屈託なく笑う夏葉に、半泣きの早苗多が噛み付いた。だって彼女も『サ』で始まる名前の子だったから。


「だ、大丈夫だってサナ。気のせいとか思い過ごしとかって事もあるわけだし」

「そういやさあ、早苗多ちゃんて名前、変わってんね?」


 泣きそうになってるサナをなんとかなだめようとしてると、夏葉が不意にそんなことを言った。


「えっ?……あー、この子実家が元々農家でさ」

「うちの一族の中では、縁起がいい名前として代々大事にされてきたんだそうです。『早苗(さなえ)が多い』ってことは、つまり植える苗が多いってことで、家業である農業の繁栄を願って、その世代の最初に生まれた女の子につける名前なんです」

「まあその割に、サナの家って普通にサラリーマン家庭だけどね?」

「だってお父さん次男ですもん。実家の農家は伯父さんちが継いじゃったし、お祖父ちゃんはそれでもいいって言ってくれたらしくて。例え農業を選ばなかったとしても、うちのお父さんの選んだ家業が栄えるようにって願ってくれたって聞きました」

「へえ、なんかちょい泣ける話じゃん?」


 サナの話を聞いてた夏葉が、そう言ってニッと笑った。

 陸上部の短距離部員で、茶髪をいつもショートにまとめてる夏葉は、その脂肪の少ないほっそりした体型とも相まって、とてもボーイッシュな女の子だ。その彼女がこうして笑うと見た目も雰囲気もとてもサッパリして、なんかちょっと安心するっていうか。

 あーなるほどね。こりゃ女子にモテるわけだわ。今年のバレンタインとかチョコいっぱいもらってたもんねこの子。


「まあそういうわけでさ、まだそうと決まったわけでもないんだし、早苗多ちゃんが本当に召喚されちゃったらそれを踏まえて考えよっか」

「えっちょっ、やですよ私!?召喚されないで済むようになんか考えて下さいよぅ!」


 前言撤回。コイツ他人事だと思って全然真剣に考えてないだけだわ!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 その後、早苗多は可能な限り誰か他の子と一緒に動くようになった。飛香も香亜紗先輩も独りの時に失踪したことが判明してたし、その上で「次は早苗多ちゃんかも」と夏葉に言われたのがよほどショックだったんだろう。

 登下校は必ずアタシと連れ立ってたし、学校ではひとりで教室を出ようとしないし。トイレはさすがに個室だから無理だけど、必ずドアの外で友達に待っててもらってるらしい。


「部活はどうしてんの?」

「軽音部なんで、独りにならずに済んでます。今のところは何とかなってますね」

「……取り越し苦労で済めばいいんだけどね」


 小説の方は、なんだか不穏になっている。というのも、神聖国に対抗して聖女カーサを召喚した帝国に対して「合衆国」が非難声明を発表して、一気に開戦寸前みたいな険悪な空気になってきたのだ。


 聖女って元々は中央の湖からやって来る瘴気の魔物たちを浄化するのが役目で、聖女教を象徴する存在だから、聖女教の総本山でもある神聖国の許可と協力がなければ聖女は召喚できない、って作中で書いてあった。なのに、帝国はそれを破って独断で聖女を召喚したんだそうだ。

 何故かというと、湖から襲ってくる魔物を撃退するために神聖国が聖女を召喚したことを受けて、帝国が聖女の派遣を要請したのに神聖国が却下したから。何でも聖女は召喚されたばかりで、まず修行して浄化の力を磨かなくてはならないから神聖国からしばらく出せないのだそうだ。

 つまり帝国は、いつになるか分からない聖女の派遣を待つよりも、自国で独自に聖女を召喚することを選んだわけだ。


 そして合衆国では、帝国に対抗するために自国でも聖女を召喚すべし、という世論が強くなってきている……というのが、最新話までの流れ。


 いや、これ、マジで三人目が召喚されちゃう流れじゃん!


 最初の聖女アスカはようやく修行も終わって、仲間たちと浄化の旅に出たところ。まずは召喚した神聖国の国内を浄化して、それから各国を回る予定になっている。ただ、修行に遅れが出たことで浄化が後回しになる他国から不満が出てきている。

 帝国に召喚された聖女カーサは、意外にも素直に運命を受け入れてるっぽい。まあ、超イケメンとして描写されてる皇太子に惚れちゃったみたいな感じだったけど。でも、やっぱり最初から浄化の力なんて使えないみたいで、こちらも今は修行の途中。



 そんなこんなで不穏な空気を孕みつつ、でも何事もなく数日が過ぎて。


 ある日突然、早苗多が消えた。






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