15.その後、彼女は
昨日は更新忘れてすみませんでした。
予約投稿したつもりになってました(汗)。
改めて最終話です。どうぞ。
黒森先輩の指導で無事に魔術師として覚醒したアタシは、その後すぐ〈賢者の学院〉に放り込まれ、メッチャ苦労しつつも他の人の倍以上の時間をかけて、何とかギリギリで“知識の塔”を卒塔した。
そしてその後は、先輩の眷属として彼女の元で魔術師として研鑽を積んでいる。魔術師の多くは独自の研究アプローチによって、神秘の根源とそれが存在するとされる深淵、つまりは“淵源”を解明することを至上命題とする研究者らしくって、アタシもそうした研究に手を染めた。
研究課題は、もちろん「七つの世界を渡り歩くとされる“世界を渡る者”の存在証明とその能力の解明について」だ。具体的には異世界を観測する〈観測の魔法〉と、“世界”の間を超越する〈超越の魔法〉を解き明かすこと。研究目標は、最終的に自分がその世界を渡る者、いわゆる“渡り人”になって飛香のいるディウェルスステラに渡ること!
あの時、例の小説の作者である伊勢貝・輪亜布が討伐されてしまったことで、小説は更新されなくなり未完のまま放置されている。つまり飛香が今どうしているのか、あの世界があの後どうなったのか、何も情報源がない。だから尚のこと、アタシは世界を渡る力を獲得してあの子の無事を確かめに行かなくちゃ!
先輩、いや紗矢様が仰るには、ああやって小説として不特定多数の目に触れさせて、通常の個人的な魔術や複数人で取り組む大掛かりな儀式魔術では考えられないほどの人間を読者として参加させることで、世界間を渡らせるほどの膨大な魔力を獲得したのだろうということだった。そして9人の“聖女”を召喚し、その全員を生贄に捧げることで〈超越の魔法〉を獲得して、自分自身が“超神者”に成り上がろうとしたんだろう、という話だった。
でももうアタシの召喚を阻止され、作者自身も捕縛されて儀式は失敗した。だから飛香は今のままなら、あの世界で神聖国の聖女として死ぬまで在り続けることになるだろう、というのが紗矢様の見立て。
飛香、もう少し待っててね!あれからもう6年が経ってアタシもあんたも22歳になっちゃったけど、絶対にアタシが会いに行くからね!それまで死なないで待っててよね!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『君の話は“朱鷺色”から聞いてるよ』
そうして、今。
アタシはついにここまで辿り着いた。
目の前には、藍色の半ズボンに白いシャツ、ズボンはサスペンダーで留めていて、首元にはラメの入った藍色の蝶ネクタイを付けた、10歳くらいの男の子。短く切り揃えた宙色の鮮やかな髪が、風もないのに涼やかに揺れている。その子が魔王の玉座みたいな巨大な椅子にちょこんと座って、肘置きにもたれかかってアタシを見下ろしている。
そう。この子こそが七つの世界で唯一、世界間を渡る権能をもつ超神者、“宙竜”ことジズだ。
見た目に騙されちゃいけないのは分かってる。だってこの子、今は人の姿を取っているけれど、本当は地球を守護する“星の獣”の一柱。本来ならオーストラリア大陸くらいある、はるか高空を飛ぶ巨大な鳥の姿だって話だ。だから魔術師ごときがその前に立つことも、こうして声をかけられることも、本来ならば有り得ないこと。
『ボクの力が欲しいだなんて、物好きな子だねえ、君』
笑ってるんだけど笑ってない、軽口なようで全然軽くない。ぶっちゃけ意識を失わずに立っていられてるだけでもう、奇跡。
紗矢様やレイチェルさんにも散々言われたし、研究の過程で理解して覚悟してはいたけれど、彼はその想像を遙かに超えてた。
声が出せないどころか息すらできない。アタシ多分、ってか間違いなく、今ここで死ぬ。魔術師として一端になったくらいじゃ全然足りなかった。
でも死ぬんだったら!
悔いは残したくない!
「異世界に連れ去られた……っ!友達の元へ……いか、せて、下さいっ!」
呼吸ができないまま、掠れて出ない声で、それでも言い切ってやった。
もう、無理。立ってられない。これ以上は霊躯ごと潰される。
『——へえ?喋れるなんて大したものだね?』
「ほらな、言っただろう?虚仮の一念岩をも通すってのはこのことさ」
あ……れ……、ジズの隣に……誰か、いる……。
見覚えのある、濃いピンク色の……ローブ……。
『いいよ。その頑張りに免じて、ボクの力を貸してあげるよ』
え……ホントに……?
「無理しねえでそのままぶっ倒れときな。心配しなくたって命までは取りゃしねえから」
ああ……この人……“朱鷺色の魔女”だ……。
そこまでが限界だった。
アタシの意識は、力尽きたように途絶えた。
目が覚めた時はもう、アタシは知識の塔内にある自分の“工房”に戻っていて。
問題なく起き上がることもできたし、身体のどこにも、そう霊炉や霊核、霊躯にも異常は全く感じられなかった。それでいて、体内に確かに感じる、“渡り”の権能。
ただし、どう使えばいいのかは全く分からない。ジズも魔女も詳しいことは何も教えてはくれなかったし、改めて聞きに行こうにも、彼の元へどうやって辿り着いたのか全然思い出せなかった。おそらく、記憶を[貼付]されて消されてしまったのだろう。
分からないんだったら調べて解き明かすまで。そのためにアタシはここまで“渡り人”の事例を調べて研究してきたんだから!
待っててね飛香!あんたが失踪して14年、アタシもあんたももう30歳になっちゃったけど、絶対にまた生きて会えると信じてるから!
だからアタシがディウェルスステラの、召喚大陸サモンディアの神聖国に辿り着くまで、死なないで待っててよね!
以上でこの物語は完結となります。ここまでお付き合い頂きましてありがとうございました!
「ここからが面白いとこだろ続き書けよ」とお思いの方もおられるかとは思いますが、そこは礼愛のこの先の頑張りに思いを馳せて、皆さんで想像していただければなと(笑)。
【ネタ的な仕込み色々】
作者の描く地球や異世界、アリウステラやディウェルスステラを含む“七つの世界”において、“星の獣”の存在はこれが初出です。ですがジズくんについては代表作に設定している拙作『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』ですでに登場してたりします。具体的には間章3でのメインキャラのひとりで、真竜とか超神者についてはそちらに詳しく出ています(後書きを含む)。なので、よろしければそちらもどうぞ(宣伝)。
黒森紗矢ですが、やはり拙作『縁の旋舞曲』に出てくるW主人公のひとりです。『縁〜』が2019年の設定で、この作品が2025年の設定なので、紗矢は23歳になっています。ちなみにレイチェルに関しては、『縁〜』を打ち切らずにそのまま書いていれば登場する予定でした。とか言いつつ、実は回想シーンでチラッと出てたりします。どこのシーンかはネタバレなので秘密で。
ということで、礼愛の学校は『縁〜』に出てきた沖之大島高校で、本作の舞台は沖之島市ということに。沖之島市は拙作『引き取った双子姉妹の、俺への距離感がおかしい』(エタり中)でも出てきます。あちらもそのうち再開する予定ではあります。
あと会話からレイチェルの方が歳下のように見えますが、実は彼女はこの作品の時点で30歳を超えています。魔術師として紗矢の方が格上になるので、それでレイチェルが敬語、紗矢はタメ口で喋っています。まあそこはどうでもいいですね(笑)。
魔女に関して、最初は“茜色の魔女”を出そうかなとも思ったのですが、全知と忘却を司る“朱鷺色の魔女”のほうを出しました。ちなみに空色髪の巨乳さんは“空色の魔女”です。
魔女たちに関しては、書籍化に伴いなろうから引き下げた拙作『公女が死んだ、その後のこと』の後半ラストで少し触れています。後半は書籍化がまだなので、アルファポリスのアカウントをお持ちの方ならあちらで無料でまだ読めます。(2025年9月現在)




