01.幼馴染の失踪
久々の新作です。
楽しんでいただけますように。
幼馴染の飛香が行方不明になった。
アタシたちは同い年で、同じマンションの同じ階に住んでて、幼稚園から小学校、中学校、高校と全部一緒に過ごしてきて。だから必然的に、どこに行くも常に一緒だった。多分だけど、物心ついた頃にはもうふたりして手握り合ってたんじゃないかなって思う。
それでも高校に入ってからはクラスも一緒にならなかったし、部活も同じ部には入らなかったから、お互い一緒に居ない時間帯はそれなりにあった。
彼女はその、ひとりきりの下校中に姿を消した。
発覚したのは、夜に飛香のお母さんがうちに電話をかけてきたから。「飛香がまだ帰ってこないんだけど、そっちへお邪魔してない?」って電話口で言われて時計を見たら夜の10時を過ぎてた。
いくらなんでもそんな時間まで居させるんだったらお泊りの連絡させてるし、そもそもその日は放課後に部活行くからってお互いバイバイしてから顔を合わせてなかった。
そこから騒然となって。警察にも学校にも連絡したし、うちの家族も総出で飛香の行きそうなトコ全部探したけど、どこにもあの子は居なかった。
持ってた学生鞄も、着てた制服も、靴も、何ひとつ見つからなかった。誘拐だとか身代金だとかの連絡も一切なかったし、近所で事故があったとか、そういうことも全然なかった。
本当に、煙みたいに、忽然と飛香だけが消えてしまったんだ。
そう。まるで、魔術で消されたみたいに。
アタシもみんなに、何度も聞かれた。「礼愛ちゃん、心当たりない?」って。一番の仲良しだったから学校にも警察にも、全校集会で失踪を聞かされたクラスメイトの子たちにも、何度も何度も。
だけど本当に、心当たりなんて全然なかった。バイバイした時だっていつも通りだったし、なんなら「もし部活終わりが一緒になったら、一緒に帰ろーね!」とかって笑ってバイバイしたのに。部活終わって行ってみたら「もう帰ったよ」って言われて、なんだよ待ってないのかよってブツブツ文句言いながらひとり寂しく帰ってきたくらいだったのに。
飛香のお母さんとお父さんの落ち込みようったらハンパなかった。それでも頑張って尋ね人のビラ作って駅前で毎朝配って情報提供をお願いしてたし、新聞にも探し人の広告載せてもらった。なのになんの情報も出てこなくて、ふたりともどんどん暗く沈んで、やつれてくのが見てられなかった。
だから何度か、飛香のいない家にお邪魔してふたりを元気づけようとしたんだけど、最終的に「礼愛ちゃんを見てたらあの子を思い出すから。ごめんなさい」って拒否られた。アタシはあの子の代わりになんて、なれなかった。
まあそうだよね、あの家で飛香はひとりっ子だったから。本当に愛されてた子だったから。
飛香がいなくなって、ウチのお兄ちゃんまで元気なくしたのにはちょっとビックリした。よくよく話聞いてみたら、お兄ちゃん、飛香のこと好きだったっていうじゃない。小さい頃から妹以上に可愛がるじゃん、って思ってたけど、そういうことだったわけね。
それなのに告白したの?って聞いたらしてないって言うし。向こうは“お兄ちゃん”としか思ってないから告られたってキモいだろ、って。
バカじゃん?飛香が一番仲のいい男の子ってお兄ちゃんだよ。飛香が自分でそう言って告ってきた男子にゴメンナサイしてたの、アタシが何回見たと思ってんの?
飛香ぁ、今帰ってくればもれなくお兄ちゃんと両想い確定だぞ~?帰ってくるなら今だぞ~?
とかって空に向かって話しかけたって、飛香が帰ってくるわけでなし。虚しいだけだった。
そうして1週間が経ち、10日が経ち。あまりに何の手がかりも出てこないものだから次第に警察の捜索も縮小されてしまって、学校も飛香のいない日常を受け入れつつあって。
受け入れられないのは飛香のご両親とうちの家族と、他に仲の良かった一部の友達だけって感じに少しずつなっていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「センパイ、『小説家になれる!』ってサイト知ってますよね?」
そんなある日の昼休み。後輩で、アタシと飛香の幼馴染の早苗多がやって来てそう言った。
「そりゃ知ってるよ、シロウトが自分で書いた小説を投稿して読んでもらえるサイトじゃん」
去年20周年だったっていうから、アタシが生まれる前からあるって事だよね。小説投稿サイトはたくさんあるけど、パイオニアにして最大手だから超有名だし。そこに投稿されて人気が出て、書籍化やマンガ化、アニメ化された作品もたくさんあるし、なんならアタシもアカウント持ってるし。まあ読み専だけど。
そういや早苗多もアカウント持ってて、よく暇なとき小説読みあさってるよね?
「最近、新しい小説見つけて読んでるんですけど」
早苗多はそう言ってスマホの画面を見せてきた。そこに、ひとつの小説の作品情報画面が表示されていた。
差し出されるままにスマホを受け取って、あらすじを読んでみる。よくある感じの、別の世界から聖女を召喚する異世界の話らしい。タイトルは『異世界から、聖女を召喚しています!』ってなんじゃそら。ヒネリも何にもないんかい。
作者名は伊勢貝輪亜布……イセガイ、ワアフ?変な名前。まあペンネームなんて目を引いてナンボだけどさ。
「……で?この小説がどうかしたの?」
「私ちょっと読んだんですけど、この召喚される聖女って、ニホンから召喚された女子高生なんです」
うわまじで安直。フツーじゃん。
「その召喚された聖女ってのが、アスカって名前なんですよ!」
……んん?
「いやフツーだね?」
アスカなんて名前普通にあるし。だからどうしたっての?漢字で「飛香」って書いてあるんなら話は別だけどね?
「第1話が召喚シーンからなんですけど……まあ読んでみて下さいよ」
そう言われて、アタシは自分のスマホでサイトを開いて、その小説を検索して読んでみた。
「え……なにこれ」
小説内では固有名詞こそ出てなかったけど、聖女になった女子高生アスカが召喚されたのは高校からの下校途中だったらしい。情景描写がなかなかしっかりしてて、どこを歩いてた時に召喚されたのかよく分かる。
そう。アスカがどこで召喚されたのか、解ってしまったんだ。
「……場所、分かりますよね」
「……分かる、ね」
物語の中でアスカが召喚されたのは、最寄り駅を降りてから家までの途中にある、小さな公園の中。飛香もアタシもサナも、近道だからって毎日朝晩通り抜けてる公園だ。
作中にはもちろん固有名詞なんて出てこない。だけどマンション街の中にあって木が一本だけ植わってて、その下にベンチがひとつあって、他に公衆トイレと砂場と少しの植え込みしかない公園なんて、アタシはそこ以外に見たことがない。
アタシたちがまだ小さかった頃にはブランコがあったんだけど、小学生の時に老朽化で撤去されちゃって、飛香が嫌がって大泣きしたのを憶えてる。それ以来、その公園には何もないままだ。
物語の中で、聖女アスカはその公園で、無くなっちゃったそのブランコの跡地で思い出に耽っている時に召喚の魔術陣が現れて、そして攫われた。
「……サナ」
「はい」
「帰り、ついて来てくれる?」
「もちろんです。行くんですよね?」
まあ行くも何も帰り道なんだけど。
つうか飛香が居なくなった時もその公園は散々探したし、それからも毎日通ってたけど。
そうしてその日、アタシとサナは、帰りにその公園に寄ってみることにしたんだ。
異世界召喚されちゃった話はたくさんありますが、召喚された人がいなくなった後の残された人々をメインに据えた話ってあんま見た覚えがないので、書いてみました。
書き上がってるんで、毎日更新します。お楽しみに!




