第15話 このお邪魔メイドが!
「ほう、凛奈お嬢様がジュリエット役ですか。たしかに、一応は名家の娘という意味ではピッタリですね。あ、この肉団子美味しいですね」
「そうなんですよ草鹿さん。あ、今日の肉団子は今日はタレを定番の中華風じゃなくて、トマトベースにしてるんですよ」
夏の日差しが少し和らいだ学校の屋上。
レジャーシートを広げて青空の下で食べるお弁当はやはり気持ちが良いな。
「お弁当用に上手く汁気を飛ばしてますね。今度レシピ教えてください九条様」
「ねぇ……。なんで、伊緒がお弁当タイムに当たり前のように混じってるの?」
お弁当の情報交換をしている俺と草鹿さんをよそに、凛奈だけは仏頂面である。
「私は凛奈お嬢様の従者ですからね。こうして昼休みは一緒におりませんと」
「別にメイドらしく給仕するでもなく、ただ才斗のお弁当にパクついてるだけじゃない!」
「表向きでは、私と九条様とは、ただの学校の先輩後輩の間柄ですからね。これは有能メイドとしてのカモフラージュです。いやー、秘密の関係の辛い所ですね」
主人の凛奈の声に悪びれもせず、草鹿さんはパクパク俺のお弁当をパクついている。
たしかに、草鹿さんとの雇用関係としては九条家が元請けで西野家に派遣されている形式になるのだが、そんな関係を説明するのは面倒だし、俺の方は九条家の事をオープンには出来ないのでこうせざるを得ないんだよな。
「伊緒。千円あげるから、これで学食でも行って来たら?」
「お断りですお嬢様。私みたいな美人がボッチで学食で食べていたら、男子どもから激しく声をかけられるので」
凛奈が財布から千円札をピラピラさせて見せるが、草鹿さんには効果が無い様子。
自分で臆面もなく美人と称せる胆力は相変わらずな草鹿さんだが、実際、こんな転校生が来たら男子たちは浮かれちゃうよな。
まぁ、2?歳の草鹿さんからしたら、男子高校生なんてガキんちょにしか見えないんだろうから、付きまとわれるのが迷惑なのは本音なのかもしれない、
「あんたが居ると、才斗とイチャイチャしづらいでしょうが! このお邪魔メイドが!」
己の欲望むきだしに従者を追い出そうとする凛奈。
はっきり言うなぁ……。
「私の事は無き物として扱っていただければ。九条家ほどの名家ならば、夜のお勤めの際にも、誰かしら従者が影に潜んで監視しているでしょうし」
「ぶふっ⁉ なに言ってるの草鹿さん! そんなの……」
いや、無いとは言い切れないな……。
いざ、その時を経験しているわけではないので、実際の所どうなるかは知る由もないし、あの親に聞きたくもないし。
こんな事も言い切れないなんて、つくづく面倒な家だな。
「べ、別に私は見られてても平気だし……。才斗と繋がれるなら……。むしろそっちの方が興奮し」
「俺は平気じゃないんだよ!」
ここぞとばかりに癖を表明してくるんじゃないよ。
前は、まだツッコミしやすい下ネタだったのに、最近の凛奈の下ネタは笑えないんだよ。
「お、やってるな。先生も混ぜてくれ」
「げ……。学校では極力話しかけないでくださいますか副長? 食欲が無くなります」
いつの間にか音もなく近くにいた剛史兄ぃに、心底イヤそうな顔で草鹿さんが箸を置く。
「学校では寝屋先生だろ草鹿」
笑いながら剛史兄ぃがお湯を入れたカップ麺を手に持ちつつ、こちらのレジャーシートに上がり込んでくる。
「寝屋先生まで……。なんで私と才斗の邪魔を」
「2人のイチャイチャが目に毒だから何とかしてくれと、クラスの男子たちから泣き着かれてな」
つまり、このお邪魔虫的行動は表向きのクラス担任教諭としての務めという事か。
なら仕方ないな。
「何か、才斗はちっとも残念そうじゃないのが気に食わないんだけど……」
「いや、そんな事はないぞ~(棒)」
ジトっとした目で見てくる凛奈に俺は顔を背けながら否定しておく。
実際、凛奈に身体的にくっつかれていると心臓に悪いのだ。
周りの目が痛いという精神面でもそうだし、肉体的にもその……ね。
「そういえば生徒会経由で聞いたが。叡桜女子との合同文化祭で西野が劇に出るんだって?」
「はい、そうですが何か?」
お邪魔虫扱いなためか、剛史兄ぃが振った話にぶっきら棒な態度で返す凛奈。
そんな凛奈の態度を気にも止めず、剛史兄ぃがポケットから何かを取り出す。
「ちょうど学校に、シェイクスピア作品の無料観劇チケットが何枚か配布されたんだが西野要るか?」
「要ります寝屋尊師。貴方は最高の教師です」
先ほどの蔑むような視線とは打って変わって、真っすぐにキラキラした目で剛史兄ぃからチケットを受け取る凛奈。
女の人って何でこう、変わり身が早いのだろう。
ほんと、女の人って生まれながらの女優だわ。
「良かったな凛奈。劇のいい参考になるな」
「何を他人事みたいに言ってるの。才斗も一緒に行くでしょ」
「え、俺⁉ だって、俺はいいよ……。行くなら、それこそロミオ役の玲と一緒に」
「何が悲しくて、女2人で観劇に行かなきゃいけないのよ」
呆けた顔の俺に、呆れ顔で凛奈が返す。
「才斗との観劇デートだから、ちゃんとドレスアップしなきゃ。伊緒、帰ったらすぐ用意を」
「御意のままに」
「才斗用の服は、家に届けとくように部下に言っとくから」
話が俺抜きでトントン拍子で進んでいく。
こいつら有能だから、目を離すと途端にこれだ。
「いや、俺今日はバイト無い日だからジムで筋トレを……」
と、リスケの理由としては弱い理由を小声で述べたが、俺の発言は無視された。
おかしい……。
こいつら、俺の従者なのに主人の都合を全然考えてくれない……。
やんごとなき家の者であるはずなのに発言力の無い俺は、諦めて弁当の残りをやけ気味にかきこむしかなかった。
なお、草鹿さんと、知らぬ間に剛史兄ぃにも肉団子をつまみ食いされていたため、おかずと白米の比率がおかしくなってしまった。
その点も解せなかった。
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