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第10話 どうかな? 私のコス衣装

※前話を投稿し損なっていたのに気付いて、昨夜に9話を投稿しています。

まだの人は先に前話をどうぞ。

『もう着替え終わったから入ってきていいわよ』


 凛奈からのメッセをスマホで確認して、俺は自分の城へ戻った。


 買ってきたコス衣装の着替えが終わったとの事だが、思ったより早かったな。

 服装は地味な分、髪型に特徴があってセットに時間のかかるキャラなのに。


 そんな事を思いながら、玄関のドアを開ける。


「お帰り才斗」


 そこには、黒い隊服を着た凛奈がいる、はずだった。


 人は予想を大きく外れる情景を見ると、フリーズする。

 身体も脳も。


「ど、どうかな? 私のコス衣装?」


 俺の沈黙に不安になったのか、凛奈が顔を赤らめながら訊ねてくる。


「あ……うん。かわいい……な……」


 そして、服装は黒色で地味な隊士服だと思っていた俺の脳みそは不意打ちをくらい、シンプルな感想を素直に返してしまう。


 凛奈が着ていたのは、ピンクでフリルな衣装の魔法少女だった。


「そ、そう? さっきのお店でこっそり買った魔法少女のコスチュームなんだけど……。私みたいな気の強い女にはちょっと似合わないかなって……」


「いや、似合ってるよ。っていうか、俺は元のキャラをよく知らないってのもあるんだけど」


 普段とは違い、どこか自信なさげに立ち、短いスカートの心もとなさから少し前屈みになっている所が、より幼さを強調していて、普段の凛奈の堂々とした雰囲気とは違ってドキドキさせられる。



「え、このキャラって私たちが幼稚園児くらいの頃に大ヒットしてた日朝(にちあさ)アニメが原作なんだけど才斗は知らないの?」


「ああ……。幼稚園の頃の俺は、そういうの観せてもらえる感じじゃなかったから……」


 幼稚園の歳の頃か……。

 あの頃は、自分の家が異常だとは思ってなかった。


 なにせ、保育園や幼稚園というものに俺は通ったことが無いのだ。

 そして、中学の頃に思い知ったのだが、俺には同年代との共通体験というものが決定的に欠けている。


 幼少の頃に流行ったテレビ番組やマンガやキャラクターを俺は何も知らない。


 憶えているのは、立派な調度品が揃った豪奢な部屋の中で、俺の横に座る口やかましい家庭教師の指導という名のお説教と、デカい机の上で……。



「あ、貴方に指した暗い影。私の明るさで吹き飛ばしてあげる! マ、マジカル凛奈ちゃん参上!」




 突然、脈絡なく何やら口上を述べた凛奈が、目元ピースではじける笑顔を俺に向ける。



「……………………」



 固まる俺と、決めポーズのまま固まる凛奈。

 参上じゃなくて惨状が場に拡がる。



「な、何か言いなさいよ才斗……」


 決めポーズのまま、真っ赤っかな顔でプルプル震えて半泣きの凛奈が、ふり絞るように俺に苦情を述べる。


「あ、ええと……かっこいいね」

「私のことイジメて楽しい?」


 慌てて述べた賞賛の言葉は、どうやら凛奈を逆なでするものだったらしい。


 やっぱり恥ずかしかったんかい。


「仕方ないだろ。俺は凛奈のキャラの原作知らないんだから、そんな咄嗟に反応できねぇよ。っていうか、恥ずかしいなら、やらなきゃいいのに」


 普段は小気味良い掛け合いをする癖に、売れてない芸人がスタジオ収録で空回りするように、雑なパスを放ってくるもんだから。


 こんなの凛奈らしくない。


「だって……」

「だって、なんだよ?」


「才斗が寂しそうな顔してたから、何とか元気づけてあげたかったから……」


 そう言って、凛奈はうつむいた。


 あ……。

 さっき、俺が暗黒の幼少期に思いを馳せていた時の顔色を見て、凛奈はあんなことを。


「そうだったのか、ありがとな凛奈」

「急に、真面目になるな……才斗のバカ……」


「悪かったって。ほら座ってろ」


 そう言って、俺がベッドの上に座ると、凛奈が隣に座ってきて肩にしなだれかかってきた。


 まだ先ほどの口上の気恥ずかしさから、凛奈の身体が熱くなっているのが肩から伝わる。

 さっき俺を気遣ってくれたお礼になるか分からないけれど、凛奈がしたいようにさせようと、しばらくそのままにさせておく。


「ねぇ、才斗……」

「ん?」


 しばらく無言の時間が


「私は才斗のものなんだから、私のこと好きにしていいんだよ?」

「え?」


 またもや脈絡ないスルーパスを出して来やがって。

 訳わからんエリアじゃなくて、ちゃんと足元の取りやすいところにパス出せや!


「才斗の前でだけなんだからね。こんな恥ずかしい格好したりするの……」

「恥ずかしいならしなきゃいいのに……」


「だって、今まで男友達・女友達でやってきたから、どう距離感を取っていいか急に分からなくなってるんだもん」


 そう言って、凛奈はうつむいた。


「そ、そこは俺も悩ましい所なんだけど、いきなりコスプレして迫るのはやり過ぎだろ。俺が悪い男だったら……」


「悪い男だったら?」

「え、いや、それはその……」


 しかも今は、一人暮らしの男の家のベッドの上で2人きりで座ってるんだぞ。

 そんなの、こう……ダメだろ!


「才斗は私と悪い事したくないの?」

「そ、それは……」


 そんな期待と不安が入り混じった目で俺の事を見るなよ凛奈……。

 しかも、そんな可愛い格好で。


 こんなの、俺だって男なんだから、そろそろ限界が。



「やっほー才斗! ここ数日、補習で会えなかったけど、今日は合同文化祭の自主打ち合せに来たよー!」



 湿度高目な空間を一瞬で吹き飛ばす元気な声の主である王子様が、チャイムも無く開いた玄関ドアをあけ放つ。



「「「………………」」」



 そして固まる俺と魔法少女と王子様。


 静寂のせいで、冷蔵庫のブーンというモーター音が聞こえる。



「才斗が、凛奈ちゃんに魔法少女のハード目なコスプレさせてるぅぅぅぅぅぅうううう!」



 静寂を破る玲の叫び声がマンション中に響き渡る。


 そのセリフ、前に実家で玲がジャージで凛奈がメイド服を着ているのを愛梨に見られた時も言ってたなと思いつつ、俺は玲が最新の空気清浄機ばりに高めの湿度を吹き飛ばしてくれて、心の中で少し感謝した。


 なお、ご近所での俺の評判の下落については考慮しないものとする。

ブックマーク、★評価よろしくお願いします。

励みになっております。


そして、発売中の電車王子様1巻もよろしくお願いします!

発売から2週目の大事な時期なので、よろしくです。


週末の読書用に買ってね!

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まぁ仕方ないから爆発しろ。(主にご近所さん評価
このマンションの防音設備は……? どのキュア知ってるかで年がわかってしまうのか。
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