第9話 コンカフェの服選び
「ヘタレ王子め……。まさか、こんな形で強引に才斗とのつながりを作ってくるなんて」
「アハハ……俺も驚かされたよ」
凛奈が、俺の横でプリプリ怒りながら歩く。
今日の授業が終わり帰り道なのだが凛奈はまだ、玲が後ろで合同文化祭について糸を引いていたのが気に食わない様子だ。
そして、今日はいつもと違って凛奈と2人での下校となっている。
玲も、放課後は文化祭の準備で忙しいようだ。
「まぁ、同じ学校、同じクラス、隣の席の私となんて勝負にならないけどね。こうして文化祭の準備も一緒に出来るんだし」
「しかし、出し物のコンカフェでは各自好きなコスプレしろって言ってもな……」
食べ物の文化祭の出し物は、意外と直前にならないと出来ないことが多い。
メニューの選定や食材の発注などもあるが、食中毒も怖いので、事前に作り置いたりは厳禁だ。
故に、食べ物系出し物のクラスが文化祭の準備期間にやれる事は、衣装に凝る事となるのだ。
「だから、こうして放課後にコスプレショップに行こうってなったんでしょ」
「別に、俺は何でもいいんだけどな」
「じゃあ、私のウエディングドレスとセットのタキシードにしましょうか」
「やっぱり自分の衣装くらい、自分で選ぶわ」
危ない……。
面倒がって凛奈に任せたら、とんでもない事になるところだった。
っていうか、ウェディングドレス姿でカフェの給仕なんか出来んだろうが。
「っと、ここが中條さんに教えてもらったコスプレ専門ショップか」
「ここだと完成品のコスプレ衣装が買えるのね」
地図アプリを参照しつつ目的地に着くと、そこはパッと見はお店が入っているような感じではないテナントビルだった。
「中條さんたちグループは、衣装を自前で作製するから手芸店に行くって言ってたな」
普段は教室のすみっこで固まってる中條さんグループだが、衣装についてはまさに独壇場なようで、衣装チームの総括も担当している。
こうして、日ごろは目立たない文化系の子たちにも脚光を浴びる機会があるのも、文化祭ならではである。
「へぇ。結構、いろんな服があるのね」
「生地もしっかりしてるな」
お店の中には衣装やウィッグが所狭しと並んでいる。
どの衣装も、アミューズメント系ディスカウントショップで取り扱っているペラペラの物ではなく、しっかりとした布地だ。
有識者の中條さん曰く、ペラペラのコスプレ衣裳は作りが荒く、一期一会で使い潰すならいいけど、文化祭で丸1日着るのには適さないらしい。
「折角だから才斗と合わせにしたいな」
「じゃあ、同じアニメ作品のキャラの衣裳にするか」
とは言え、俺も凛奈も大してアニメに詳しくはないのだが、それでも俺たちでも知っている大人気週刊連載マンガの大正ロマン活劇の剣士キャラにした。
こういうのは無難でいいんだよ、無難で。
「うん。このキャラなら私と同じ黒髪だし、髪型も自前の髪の長さで何とかなりそう」
購入したコスプレ衣裳の袋を抱えて、凛奈が嬉しそうにしている。
「確かに、凛奈に似合いそうだな」
「ありがと才斗。私に似合いそうなキャラに合わせてくれて」
「ま、まぁ、コンカフェなんて、客は男性店員のコスプレに興味なんてないだろうからな」
男の方は逆に衣裳の選択肢は少なかったので、無難に主人公キャラにしておいた。
「ねぇ、才斗。一度、衣裳の試着して髪型もセットしてみたいから才斗の家にこのまま寄らせて」
「ああ、いいけど。でも、髪型のセットとかもあるなら、自分の家の方がいいんじゃないか? 草鹿さんもいるし」
「伊緒は今は仕事で家にいないし、文化祭では自分で髪のセットが出来た方がいいから」
まぁ、それもそうかと思い、その後は特に深く追及もしなかった。
「じゃあ才斗。すぐに家から出てって」
「帰って早々、家主を追い出すとはいい度胸だな凛奈」
家について荷物を置いたとたんに、凛奈が俺を家から出そうとした。
いや、ここ俺ん家!
「そもそも、超名家の九条家の才斗が、なんでこんな築30年の極々庶民的なマンションに住んでるの?」
「俺の城にケチをつけるなよ」
俺の自由になるお金だと、これくらいの物件が適正お家賃の物件なのだ。
まぁ男の一人暮らしだし、防犯も暗部が目を光らせているのでオートロックとか不要だしな。
けど、個人的にはスポーツジムも近いし、コンロも2口あるし、程よい狭さで俺自身は結構気に入っているのだ。
「ふーん。って話が逸れたわね。早く出てって才斗」
「だから、なぜ俺の城から俺を追い出そうとする⁉」
「えー、だって……。さすがに、未来の旦那様の前でも、生着替えは恥ずかしいっていうか……」
「オーケー、すぐに出ていきます」
モジモジしだした凛奈を見て、察しの悪かった俺は慌てて玄関から外に出た。
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