第5話 優等生同士カップルからしか摂取できない栄養素がありますわ
「「叡桜女子高と合同の文化祭⁉」」
生徒会室での用事を済ませた俺を待っていた凛奈と草鹿さんに、早速、事の顛末を話した。
想定外の話に、2人が異口同音に驚きの言葉を口にする。
「断りたかったけど、中條さんには世話になってきたし、結局は兄妹のタッグに屈することになって……」
中條兄妹の真意を知ってからもかなり抵抗したのだが、結局は今までの借りを精算する形で首を縦に振らされたのである。
「うちの高校の生徒会メンバーからも、叡桜女子側からも嫌われる損な役回りですね、九条様」
「そうなんですよ……。まぁ、誰かがやらなきゃいけない事はたしかですから」
「貧乏くじを引いちゃうのが、いかにも才斗らしいわね」
凛奈が半ば呆れたように言う。
分かってるよ、俺だってその事は。
「まぁ、でもそういう所が才斗よね。いいわ、私も叡桜女子への殴り込みに付き合ってあげる」
いや、別に殴り込みに行くわけじゃなくて、合同の文化祭についての相談をしに行くんだからな。
シャドーボクシングの真似をしてやる気十分だが、有名女子高に殴り込みなんてしたら退学だけじゃ済まないぞ。
っていうか、凛奈も叡桜女子へついてくるの?
「お願いしたいのは山々なんだけど、叡桜女子高は事前に申請して入校許可証を発行してもらわないと入れないらしい」
正直、俺と会長だけで乗り込むのは心もとないから、凛奈についてきて欲しいというのが正直な所なんだが。
「あら、残念。ヘタレ王子の学校で才斗と私がラブラブな所を見せつけるように練り歩こうと思ったのに」
「やっぱ凛奈は来なくていいわ」
これ以上、話をややこしくされてはたまらない。
ただでさえ、玲の事でドアウェイな場所で凛奈にくっつかれてはたまらない。
仕方がない。
大人しくまな板の上の鯉として差し出されるかと、俺はため息をついて教室を後にした。
◇◇◇◆◇◇◇
翌日の放課後。
「ここが、叡桜女子高か」
守衛室で入校許可の手続きをして正門をくぐった先は、まさしく女の子の花園だった。
「めちゃくちゃ遠巻きに見られてますね、俺たち」
「ああ……。早く帰りたいな九条君……」
女子校という、本来は男の自分が入ることは許されない領域にいるというのに、その幸運に感謝するというよりは、居たたまれなさの方が勝つ。
「殿方……」
「殿方ですわ……」
「それも同年代の野生の男子高校生ですわ」
「出入りの業者の方くらいしか学内で男性なんてお見かけしませんのに……」
「脳がバグりますわ……」
居た堪れない理由は、遠巻きにして、女子生徒達がこちらを見てヒソヒソ話をしているからだ。きっと、完全に不審者扱いされているのだろう。一応、入校許可を示す名札を首から提げているのだが。
「我が校の代表なのですから、もっと堂々と胸をはってください会長」
「す、すまんな滝瀬くん。ありがとう」
中條会長が慌てて背筋を伸ばすのにつられて、俺も襟を正す。
「副会長として、会長の至らなさを正すのは当然です」
事務的に返答したこの人こそ滝瀬美代さん、2年生で我が校の生徒会副会長だ。
長い黒髪をツインテールにして眼鏡をかけた、いかにも真面目な委員長キャラの進化系みたいな人だ。
「しかし、滝瀬くんが一緒に来てくれて助かったよ。滝瀬くんが横に並んでくれるだけでも、だいぶ
印象が違うから」
「確かに俺と会長の男2人だと、より悪目立ちしてたでしょうね」
今の生徒会は、叡桜女子高との合同文化祭を巡って男女メンバー間で冷戦状態との事なのだが、意外なことに滝瀬副会長は今日の叡桜女子高との打ち合わせに一緒に参加してくれるのだ。
「勘違いしないでください。私はあくまで副会長としての責任を義務的に果たすだけです。あくまで義務的に」
「タハハッ、分かってるよ滝瀬くん」
あくまで義務的を強調する滝瀬副会長に、中條会長が苦笑する。
「本当に分かってるんですか?会長」
「ああ。俺に対する悪感情は抜きにして、職責をまっとうしてくれる所は流石だよ」
「悪感情なんて、そんな……。私は会長の事はむしろ……」
モジモジしながらうつむいた滝瀬副会長。
あれ? 何か……。
「ん?何か言ったかい?滝瀬くん」
「な、何でもないです!」
プイっと顔を背ける滝瀬副会長の耳は少し赤くなっていた。
「そうか? じゃあ、早く向こうの生徒会室に行こう。周りの目がきつい」
「女の子に注目されて、会長も本当は嬉しいんじゃないですか?」
「いや、僕は注目されるの得意じゃないから。滝瀬君の隣の方が安心する」
「っ!? ま、まったく……。やっぱり会長は私がそばにいないと駄目ですね。手間がかかって」
「はははっ、そうだな」
あの……。
俺は今、何を見せられているんでしょう?
こんなん、完全に2人の世界じゃん。
「あのお二人。付き合ってますわね!」
「ええ! あれは完全にそうですわ!」
「いや、でも男の方がまだ煮え切らない感じですわ! じれじれ展開中ですわ!」
「そういうじれじれ展開も、恋をしている間の醍醐味ですわ。まぁ、私、付き合ったことはありませんが……」
「優等生同士カップルからしか摂取できない栄養素がありますわ」
「玲様のような危ない王子様にめちゃくちゃにされるのも良いですが、これはこれで美味しいですわ。モグモグ」
ギャラリーの叡桜女子の皆さんも大興奮である。
「ほら、行くよ九条君」
「はい……」
完全にお邪魔虫じゃんと思いつつ、俺は付き合う5秒前みたいな生徒会カップルの後を追った。
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