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第4話 俺は生け贄って事じゃないですか!


「そういや、生徒会室ってどこにあるんだっけ?」


「まぁ、用事がなきゃ行く場所ではござらんよな」


 放課後。

 俺と中條さんは、呼び出しを食らっている生徒会室へ向かっていた。


「しかし、一緒に生徒会室に行くと聞かなかった西野殿をよく諭せたでござるな」

「こっちの話が終わるまで教室で待ってるって話だったがな」


 さすがに、呼ばれてもいないのに生徒会室に乗り込むのは礼儀知らずだしな。


 生徒会と言ったって、別に取って食われるわけでもない。

 強大な権力をもっている生徒会なんて、所詮はフィクションの世界でのことだ。


 まぁ、凛奈は不満そうだったけど。


「ああ、この部屋だ。中條亜子、入りますでござ候」


 そうこうしている間に生徒会室に着いたようだ。


 いたって普通の学校である我が校の生徒会室は、そのドアも他の教室と一緒のドアで、実に普通な佇まいである。生徒会室だからと、木製アンティーク調の重々しい扉だったりというのは、マンガやアニメの世界だけの話だ。


「その訳のわからん語尾を家の外で使うなと、いつも言ってるだろ亜子」

「そこは言いっこなしでござるよマイブラザー」


「なんで武士言葉なのに、俺の呼称は英語なんだよ……」


 窓を背に、生徒会室の一番奥にある事務机に座る男子生徒が顔をしかめる中、それを気にも止めない中條さん。


 え、中條さんがマイブラザーって呼ぶということは……。


「紹介しますぞ九条殿。この人が我が校を牛耳る生徒会長である中條統也(とうや)。何を隠そう吾輩の兄上でござる。刮目せよ! そして平伏せ、小市民よ!」

「別に牛耳っとらんわ」


 中條さんの大げさな紹介の横で、中條生徒会長が突っ込みを入れる。


「会長の中條だ。変人な妹がいつも迷惑をかけているだろう。申し訳ない」

「初めまして中條会長。九条才斗です。妹さんにはいつもお世話になっております」


 苦笑いする中條会長が差し出した手を、俺は挨拶をしながら握り返した。


「へい! ブラザー! そこは、身内の色眼鏡でござる。吾輩、たしかにこんなキャラと喋りでござるが、こと、九条殿関連に関してだけは迷惑を被ってるのは、むしろ吾輩なんでござるからな!」


 中條さんが不満げに、外野からヤジを飛ばしてくる。


「あー、うるせぇ。こんなトンチキな妹だがよろしく頼むよ九条君」

「はぁ、どうも……」


「ムキーーッ! なぜマイシスターの言うことを信じてないでござるか⁉」

「え? 今まで、兄として小さな頃から横で見てきた数々の実績から」


「ぬぐ……」

「中学時代にお前が隠し持ってたBL同人誌を掃除してる母さんに見つけられた時、咄嗟に俺に罪をなすりつけようとした件は一生許さんからな」


「そういう身内の恥を学友の前で晒さないでくれでござるよぉぉぉおおお!」


 招かれた俺たちをそっちのけで繰り広げられる軽妙な兄妹ケンカを、俺はしばし見学することとなった。



 ◇◇◇◆◇◇◇



「失礼。身内の恥を晒してしまったな」

「止めてくれて助かったでござるよ。おかげで、お互い傷だらけになる泥仕合をしなくて済んだでござる

 」


 あの後、血を血で洗う兄と妹の身内だけが知るネタを用いた暴露大会が開かれかけたが、何とか俺が割って入り両者を止めた事に、中條会長と中條さんは感謝しているようだ。


「それで、俺を呼び出したのはどういう用件で?」


 打合せスペースの会議用長机に座り、レモンティーをすすり一息ついたところで、俺はなぜ自分が生徒会室に呼ばれたのか尋ねた。


「ああ。これはまだ公式には発表していない事なのだが……」


 何やら穏やかではない前向きと、少し言いにくそうな中條会長の表情に、俺は少し嫌な予感がした。


「実は、今年度の文化祭なのだが、叡桜女子高等学校から、一部合同で実施しないかという要望が来ているのだ」


「叡桜女子からですか?」

「ああ。叡桜女子高校は知っての通り、通学沿線が一緒のご近所学校だが、今まで学校同士の交流はほぼ行われてこなかったんだ……」


 そりゃ、叡桜女子高校は中高一貫の名門女子高だ。

 近場のただの普通科高校の俺たちとなんて、交流するメリットがない。


「突然、むこうからアクションがあったんですか?」

「ああ。名門女子高からの交流の願い出に、校長と教頭は有頂天になってる。こういう新規連携事業の実績は、教育委員会でも評価の対象になるらしいからな」


「ああ……。あの人たちならそうでしょうね」


 即座に俺が同意すると、中條会長は苦笑いした。


 出世にとりつかれた悲しきモンスターの校長と教頭だ。

 この、突然降ってきたチャンスに喜んで飛びついた姿が、見てないけどはっきりと見える。


「そして、交流については是非に学生主導でという事になったわけだ」

「それって、体のいい丸投げじゃ……」


 校長と教頭からしたら、新たな事業を立ち上げたという事自体が重要であって、別に内容はどうだっていいんだろうな……。


「俺もそう思う。だが、学生主導なのは叡桜女子側の強い要望でもあったらしいがな。そこで、生徒会同士でキックオフミーティングをという事になったわけだが……」

「……もしかして、俺への用事って」


「頼む、九条君! 俺と一緒に叡桜女子高との会合に出席してくれ!」


 そう言って、中條会長はガバッ!と机の上に手をついて頭を下げてくる。


「ちょ、ちょっと中條会長! 立場のある人が1年の俺にそんな頭下げるのやめてくださいよ!」

「いや、引き受けると君が言ってくれるまで、この頭は上げられん!」


 なんだこの人、強引すぎる。

 っていうか、こういう土下座みたいな真似は相手へ対しての暴力だからな。


「そもそも、なんで生徒会に入ってもいない俺なんです⁉ 他の生徒会役員を随行で連れて行けばいいじゃないですか」

「それが、男の生徒会役員は叡桜女子との合同文化祭の話に浮かれポンチになってしまって、とても先方に連れていけなくてな……」


「じゃあ、女子の生徒会役員は? たしか、副会長は女子生徒でしたよね?」

「副会長以下の女子生徒会役員たちは、叡桜女子に浮かれた男子の生徒会役員たちの醜態を見て現在、生徒会活動をボイコット中だ……」


 乾いた笑いをこぼす中條会長の疲れ切った顔が、すべてを物語っていた。


 だから、今日は生徒会室に中條会長しか居なかったのかよ!

 おかしいと思ったんだ。


 ああ……見える……。


 お嬢様女子高に浮かれた男性陣に対して、副会長を筆頭とした生徒会の女性陣たちが氷のような冷ややかな目を向けている場景が……。


「な、成程……。それは大変ですね」


 中條会長の苦労を思い、つい寄り添うような発言をしてしまう。


「という訳で、胃痛に悩むマイブラザーを慮る優しいシスター(聖女)でありシスター()であるこの吾輩が、叡桜女子高と太いパイプを持つ九条殿を紹介したという次第でござる」


「あの王子様を助けた動画については我が校でも話題になっていたからね。校長と教頭も、君なら問題ないと太鼓判を押しているんだ。是非、その人脈を活かして叡桜女子高との橋渡し役を担ってもらいたいんだ」


 俺が見せた隙に、すかさず中條兄妹が追撃を繰り出してくる。


「いや、太いパイプって言われても……。俺、むしろ向こうの学校では悪目立ちしてるから、やめといた方がいいんじゃ……」


 玲を学校まで送って行ったり、玲が音信不通になった時に話をするために、凛奈と一緒に学校の正門前で待っていたりしたことはあるが、女子高の王子様をたぶらかした憎き男として、俺の向こうでの評判はどうにも芳しくなさそうである。


 玲のファンクラブや親衛隊の皆さんを筆頭に。


「安心するでござる。九条殿は百合の園につっこむ竿役として、うちの学校と同じように全方位に悪意をばらまくだけでいいので」


「自分たち以上に叡桜女子高でやらかす奴を見れば、生徒会の男子メンバーも冷静になって、女子メンバーもそれを見て戻ってきてくれるだろうし」


「俺は生け贄って事じゃないですか! 絶対行かないですよ!」


 いや、生け贄っていうか、ただの火種として爆心地に突撃しろってことじゃん!


 そんな片道切符の突撃兵みたいな役回りは絶対嫌だ!


 俺だって、多感なお年頃の思春期男子なんだから、そんな女子高で嫌われ役やれって言われて「ハイ」なんて頷けるか。


「あ、逃げようとしてるぞ。追え! マイシスターよ」

「合点承知の助だマイブラザー」


「あんたら、さっきはいがみ合ってたのに、息ぴったりの仲良し兄妹だな、おい!」


 こうして、俺の抵抗の声は、儚く生徒会室へ響いたが、それを助ける者は居なかった。

優等生同士カップルの方が妙にエロイのよな(偏見)


本作のポイントが1万ポイントを越えました!

うれしい~~! もう、1万は無理かもと思っていましたけど、こうして読んでくださる皆さんのおかげでここまで来れました。ありがとうございます。


引き続きお付き合いいただける方はブックマーク、星評価よろしくお願いいたします。

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