第2話 お母さんからの唐突なフレンドリーファイア
【星名玲ー視点】
「どうしよう……」
「どうしたの玲ちゃん? 大きなため息ついて」
今日は夏休み明け初日ということで学科授業もなく、お昼の時間に家に帰りついたら、今日は女優のお仕事がオフ日のお母さんが家にいた。
お母さんと2人、親子水入らずのお昼ごはんの場で、ボクは悩みを打ち明けた。
「ねぇ、お母さん。ちょっとお話いいかな?」
「玲ちゃん、それって昼食の後でもいい? カルボナーラは時間がたつと余熱で固まってスクランブルエッグになっちゃうから。今回は特に美味しくできて」
「ボクの才斗が、凛奈ちゃんのものになっちゃった……」
「何それ一大事じゃない⁉」
前のめりになるお母さんは、昼食のカルボナーラパスタの一口目を食べようとしたフォークを皿に置いて、ボクの話へ耳を傾ける。
こういう所は、うちのお母さんは本当にいい親だなと思いながら、ボクは事情を話した。
「なるほど。凛奈ちゃんの婚約を破棄させようとしたら、そのまま勢い余って九条君と凛奈ちゃんが婚約してしまったと」
以前、凛奈ちゃんの婚約騒動で連絡が取れなくなった時に、西野邸に潜入しようとお母さんに協力してもらった際に凛奈ちゃん方の事情については話していたので、事情説明は容易だった。
「そうなんだよ……。まさか、凛奈ちゃんがあんなデレ墜ちしちゃうなんて……」
「まぁ、お見合いの場に乗り込んで来て、自分を強引にさらっていくなんて、女なら誰しも墜ちちゃうでしょうね。凛奈ちゃんがちょっと羨ましいかも……」
お見合いの場での情景を想像したのか、お母さんはホウッとため息をつき虚空を見つめる。
「お母さん?」
「あ⁉ いや、違うのよ玲ちゃん! 自分で置き換えして想像したりなんてしてないわよ!」
否定してるけど、顔が赤いよお母さん。
「そ、それにしても、九条君たら随分と思い切った事をしたわね」
「婚約はあくまで親へのポーズだって言ってたけど……。どうして才斗が婚約するって言ったら、その通りになるんだろう? なんで凛奈ちゃんのお父さんがそれを許したのか、さっぱり分からないよ」
一応、お見合いの場で何があったかは才斗から説明は受けたんだけど、肝心の所は何やかんやはぐらかされてしまったのだ。
「まぁ、九条君なら可能でしょうね」
「え、お母さんは才斗の事、何か知ってるの?」
「まぁお母さんは、その外苑に触れた程度だけどね。でも、この事はいずれ九条君が玲ちゃんに説明してくれるでしょう。それまで待ってあげるのも、いい女ってものよ」
そう言って、お母さんは何かを誤魔化すようにボクの頭を撫でる。
「うう……。でも、このままじゃボクは凛奈ちゃんに負けちゃうよ。女友達であることを捨てた凛奈ちゃんが、こんなにも強敵だなんて……。ただでさえ、ボクは才斗とは別の学校なんだし」
夏休みも終わってしまって、才斗と過ごす時間はどう足掻いても減ってしまう。
夏休み後半は、凛奈ちゃんがフェイドアウトしていて才斗を独り占めして悦に浸っていたのに、夏休みの終わりに特大の爆弾を落とされて、ボクの築いたリードなんてあっという間に無に帰している。
いや、それどころか……。
「たしかに、今まで仲の良い女友達から女を出して迫られたら、今までのギャップで男の子はやられちゃうかも。それに引き換え、玲ちゃんは最初から九条君にデレデレだから新鮮味が無いし」
ぐはっ!
お母さんからの唐突なフレンドリーファイアが背後から襲う。
「もうダメだ……。ボクはこのまま、指をくわえて凛奈ちゃんに才斗を手籠めにされる所を眺めることしか出来ないんだ……」
前のめりに倒れたボクは、ソファでうつぶせで呻くしかない。
「そんな事ないよ玲ちゃん。ちゃんと、お母さんが玲ちゃんのために一肌脱ぐから」
「本当~?」
さっき、実の娘を背後から撃ったくせに。
「本当よ。お母さんだって、九条君のお義母さんになりたいんだから。ちょっと耳を貸しなさい玲ちゃん」
「え~、なんでそんな内緒話みたいな」
「まだ計画段階だからね」
面倒がりながら耳を寄せると、お母さんはボクの耳元で話し始めた。
その内容に、ボクの目は見る間に燃え上がる。
顔が紅潮し、体温が上がるのを感じた。
「まさか……。そんな事が」
でも、もしお母さんの言う計画が
「チャンスの場所はこちらで用意します。後は玲ちゃん次第だから、ちゃんと九条君のこと奪ってみせなさい」
そう言って、お母さんは話は終わりとばかりに、フォークを取った。
なお、皿の上のカルボナーラパスタは、すっかり冷えて固まってスクランブルエッグ麺になってしまっていた。
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