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暫く部屋のベッドの上でゴロゴロしていると階下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
二人が戻ってきた様だ。下で女将さんと何か会話しているだけで急いでいるような感じもしないし、特に何も危険な物は発見できなかったみたいだな。
まぁ日のあるうちに動く様な奴等には見えなかったしな、あのゴブリン達は。
実際昨日あいつらに出会ったのは完全に日の落ちた夜間だったし。
パタパタと煩い音を響かせつつ先に二階に上がって来たのはヴィルの方だった。
横になった状態から起き上がり、奴には労いの言葉を掛けてやる事にする。
まぁ散歩代わりの見回りが出来て、アイツとしてはご機嫌状態だろう。本当に犬だなアイツは。
「ジルバ様ー! 見回りからただいま戻りましたー!」
元気よく部屋の扉を開いてヴィルが素早い動きで飛び込んでくる。
ガッツポーズの様なモーションを取りつつ『怪しい者は居ませんでした!』とわざわざ報告までしてくれた。
まぁ魔法障壁に誰も引っかかっていないというのは、俺にも判っている事だが。
「うむ見回りご苦労、褒美を授けてやろう。ボロボロになったお前の鎧の代わりになる装備を今から作ってやるから望みを言うがいい」
「ご褒美ですか! って私の装備ぃぃ!?」
ご褒美のくだりの部分で笑顔になって、俺の寝転んでいたベッドに駆け寄ってきたヴィルだったが、装備を作ってやるといったタイミングで大袈裟に仰け反って見せた。
まぁお前がつけてた防具の切れ端は、めでたく俺のアイテムストレージに納まっている触媒へと、綺麗に有効活用されてしまっているからな。今更返せと言われても返せる物じゃないし。
そもそも、あんなボロッボロの防具じゃ身につけても全く効果を発揮せんだろう。
むしろ壊れた装備のままで行動させる事は、生産職としての名折れだからな。
上手い具合に防具作成スキルが効果を発揮してくれると良いんだが。
まぁなんだ、この世界で始めての防具作成スキルの実験台になってくれよヴィル。
何か不都合があっても骨は拾ってやるから安心しろ。蘇生薬も完備だぞ、至れり尽くせりだ。
「あら、何だか騒がしいですね? なにかあったんでしょうかジルバさん?」
ヴィルの後から付いて二階に上ってきていたシュネーさんが、半分開きっぱなしになっていた扉の隙間からヒョイっと顔を覗かせると、首を傾げつつ扉を押し開いて部屋に戻ってきた。
「あっ! ご主人様!! えっとジルバ様が私に装備を作ってくれると仰るんです!」
「えっ!? この場でですか!?」
あーやっぱり携帯用合成炉なんていう代物はこの世界には無いのかな。ファンタジーそのままのイメージで考えると金属を溶かしたりする炉やその他諸々、しっかりとした施設がないと普通作れたりしないよな。
「ええ、まぁ……上手く行くかはまだ判らないですが。物は試しという事でいかがですかね」
なにせこの世界での装備品作成は初の試みだ。失敗してもご愛嬌という事でカンベンしてもらいたい。
先ほど作った蘇生薬の方は問題なく完成したし、恐らく装備も大丈夫だと思うんだが。
携帯用合成炉や各種マテリアルをアイテムストレージから取り出して、近くにあった小さめのテーブルへと設置する。俺がストレージからジャラジャラとマテリアル素材を取り出す様を見て、何やら興奮冷めやらぬヴィルに対してどんな防具が良いのかリクエストを聞いてみる事にした。
「ほれヴィルよ、どんな防具が欲しい?」
「うぇ!? あっえっと! う、動きやすいのが良いです! あとカッコよくて強そうなの!」
「なんつーか、えらくアバウトでファジーだなおい」
俺は【防具作成】のスキル発動をイメージして携帯合成炉の動力に魔力を流し込む。
……こりゃ凄いな。目の前にゲーム内で使用していた防具作成の細かいタッチメニューが出現したぞ? と、取りあえずリクエストの通りとは行かないかも知れんが、革素材の軽鎧分類系で一つ作ってみるか。
素材を合成炉に放り込み各種設定を入力、魔力を流し込んで安定させ内部でマテリアルと触媒を変質合成させる……おお、問題なくイメージしていた装備が完成したみたいだ。
っていうかこれ本当に凄いな? 痩身の男が言っていた神の使徒の名は伊達じゃないな全く。
そんな感じで初の合成装備作成を成功させ、革素材の鎧を一つ空中に出現させた俺の横で、興味津々な表情で俺の手元を覗き込んでいるヴィルとシュネーさん。
よし、二人のご期待に沿えるよう頑張りますかね。
その後作業に慣れてきた俺は、ブーツや手袋の様な小物や、防具の下につけるインナー代わりの軽衣服もついでに作る。普段着としても使えるようなシンプル構造にしておいた。
はっはっは! いや、久しぶりにこういった細かい装備品を大量に作ったけど、やっぱり生産作業は楽しいな! 肌に合ってるぜ。
「わぁ……キラキラして綺麗です! ジルバ様も何か楽器を弾いているような感じでカッコイイ!」
「ん? 作業中の動きって傍から見るとそんな感じなのか? よく判らんなぁ……ほれ、インナーと防具や小物関連、合わせて一式出来たぞ」
俺の横でウロチョロしながら俺が進める作業工程を見ていたヴィルから、そんな台詞が。
まぁアーティストって事なのか? 大仰だなぁおい。
取りあえず完成した装備品一式を、俺が先ほどまで寝転がっていたベッドの上に、わかり易いように種類別に分けてバッサバッサと並べてやる。
あー色々と調子に乗って作りまくってしまった……防具用のマテリアルはたんまり残っているから、今の所は全く問題は無いだろうか。
というか服を修復する場合ならばマテリアルで素材の代用が出来るが、俺の両足に装着されている義足の修理には、このマテリアルは適合しないから使用できないしな。
一気に作業を進めたせいか、少々身体が凝り固まってしまっていたので、軽く一息ついて首や肩をグリグリと動かしていたら、俺の背後にヴィルが素早い動きで移動して肩を揉み始めた。
なかなか上手いじゃないか、と肩を揉まれながら俺が呟くと、良くシュネーさんの肩を揉んだりしているという返答が返って来た。マッサージ経験値が高いんだな。
こういう雑事は色々と得意だよなぁこいつ。
まぁ奴隷だっていう話だから当然なのかも知れんが、ヴィルが奴隷だっていう事をちょくちょく忘れてしまう位には仲良しだな、この二人。
「おう、楽になったよ、マッサージご苦労さん」
「こちらこそ、何だか凄そうな防具ありがとうございます! 早速装備してみますぅ!」
俺がシュネーさんの装備品を新調しようと再び携帯用合成炉に魔力を流し込んでいると、肩揉みを終えたヴィルがバッサバッサとその場で装備を脱ぎ始め、新しい装備を身に付け始めた。
きったねぇ脱ぎ方だなおい! もうちょっと落ち着いて着替えんかい!
無駄に焦りつつアレコレと身に付け始めたヴィルを尻目に、シュネーさんへ向き直って防具のリクエストを聞くことにする。
「はい、それじゃシュネーさんの防具を作りましょうか」
「あの、本当に良いんでしょうか? こんなに貰ってばかりでは……」
「ああー、それなら防具作成の実験ついでと試着をお願いしたい、という事で」
既にヴィルの防具を作り終えてしまっているのだし、ココでシュネーさんの防具だけ作らないという選択肢は俺の脳内には存在していない。むしろ着心地や使い勝手を教えてもらえれば、防具の作成でも金が稼げるかもしれない。
シュネーさんが納得できない、と云うのであれば後払いで良いから何か報酬を受け取っても良いし。
俺が笑顔で、しかし一歩も引きませんよという意思を籠めてシュネーさんを見詰めていると、少し驚いたような表情を浮かべたシュネーさんが、その後笑顔になってペコリと俺に頭を下げてきた。
「はい、でしたら、お願いしても宜しいでしょうか?」
「お願いしているのは俺のほうなので、あまり気にしないで下さいよ」
そんなこんなで、俺がシュネーさんの防具一式を作り終えた頃には、ヴィルが装備を全部付け終わって嬉しそうに部屋の中をバタバタ動き回っていたのだった。
もちろん騒がしい犬っころには、もれなく頭頂部にコブシをゴリゴリしてやった。
埃っぽくなるからやめぃ
※ 追記 文章がおかしかった所を発見したので修正しました。




