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騎士サマ親衛隊隊長な姫君  作者: 萩之まろあ
親衛隊結成後のこと
4/16

サーリャの、とある一日④

「いいえ、先ほど参ったばかりです。イヴァン様こそ、我々が急かしてしまったのではございませんか?」


 と、私は親衛隊を代表して真っ先に立ち上がり、彼に挨拶した。他の子たちも次々に立ち上がり、ペコペコと頭を下げてお辞儀をしている。可愛いなぁ。

 そして、一同は呆然。皆の思いは一つだと思う、つまり――――「イヴァン様、かっこよすぎる!!」だ。


 騎士隊の任務を終え、王城で解散されてから、すぐに帰ってきて下さったのだろう。イヴァン様は既に騎士隊の制服を着替えられており、ご自身の瞳と同じ濃紫色の上着と、蒼のズボンを身に着けていらっしゃる。自室に一度戻られてラフな服装になられてから、顔を出してくれたのだ。

 はぅ〜。見れば見る程、ため息が漏れそうな位に素敵です、イヴァン様。容貌・家柄・頭脳・人格・剣の腕など、天は五物より多くのものを彼に与えていると思うよ。

 輝く銀髪に目がやられるぅぅ。

『彼の首の後ろで髪をまとめている飾り紐に、私はなりたい』 ーーーーBY.ビン底オシャレ詩人。



 ……イヴァン様は確か今年で二十歳になられるのだっけ。大人の魅力ってやつがあるよね。そうだ、親衛隊主催でお誕生日パーティー開いたら、来てくれるかな? おーし、今度の親衛隊会議の議題は『イヴァン様のお誕生日について』だ!



「どうぞ皆さん、もう一度座って下さい」

 皆が見とれていると、笑顔のイヴァン様がそう仰った。

 そして、夢の懇親会が始まったのである。

 イヴァン様は身分差を全く意識させない立派な態度で、誰にでも気安く話しかけて下さる。乙女達は全員、鼻をハンカチで押さえていたよ。まったくイヴァン様の神々しさには鼻血が出るよね〜。私もイヴァン様ワールドに浸りたかったけど、そうすると場をまとめる人がいなくなるから、必死で我慢したんだ。あーあ、誰か隊長を任せられる人はいないかなぁ。喜んで役目を譲りますよ~?





**


「今日はお邪魔致しました。お茶やお菓子までご馳走になってしまいまして、すいませんでした」

「お気になさらずに。また、いつでもいらっしゃって下さい。貴女ならいつでも歓迎しますよ、エリザ殿」

「っ、ありがとうございます。では失礼致します」



 懇親会がお開きの時間になったので、イヴァン様と私は正門の前で別れた。後ろにいた隊員たちは放心状態で私達の会話は耳に入らなかったみたいだけど、この言い方は私一人に対して言っているみたいに聞こえない? そういう意味で仰ったのではないだろうけど、勘違いしそうになるよね。イヴァン様ったら罪作りな御方だわぁ…………………。




「隊長。それでは私は、ここで」

「はい、お疲れ様です」

「隊長、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

「さようなら、隊長。また明日」

「ええ、明日ね」




 帰り道で、私は次々に隊員たちとお別れしていく。最後に別れるのはラプネーだ。

「じゃあね、ラプネー」

「ごきげんよう、隊長」

 生真面目なラプネーは、私が町外れのボロ家に入るまで見送ってくれる。そこまでしなくていい、と言うのだが聞き入れてくれないのだ。だから私は毎回のように、自宅の玄関に入っていく娘を演じなければならない。



「お婆ちゃん、ただいま~」

「エリザ! おかえり」


 ヒトナお婆ちゃんがニコニコして出迎えてくれる。この笑顔を見る度、罪悪感で胃がジクジク痛むよ……。



「エリザ、もう夕飯食べるだろう? 用意しておいたよ」

「うん、ありがとう……」



 小さな食卓に並べられたのはホワイトシチューと固いパンだけの簡素なメニューだった。

「いただきます」

「はい、お上がり」

「モグモグ。……美味しいよ。お婆ちゃん」


 こうして私は赤の他人の手料理を食べるのだ。というのは、お婆ちゃんは認知症が始まっていて、私のことを『何年も前に家出した娘の子のエリザ』だと思い込んでいるからだった。最初は「私はエリザじゃないよ」と否定していたのだが、泣きながら「お前はエリザだ」と言い張るので根負けしてしまった。そして親衛隊の皆にも、私はヒトナお婆ちゃんの孫のエリザだということで通してある。えっ、身分詐称? ……ですよね。その代りと言ってはアレですが、ヒトナお婆ちゃんには私に出来ること全てをさせていただきます。





「お婆ちゃん、帰り道でお菓子を買ったんだよ。飴、好きでしょう?」

「ありがとう。エリザは本当に優しい子で、私は幸せだよ」

「そうかな。……洗い物したら、私もう寝るね」

「明日も早く出かけるのかい?」

「うん。お婆ちゃんが起きる前にいなくなるし、朝食も職場で食べるから要らないよ」



 そうして私は使った食器を洗い終えると、一階のエリザの部屋に下がる。次に、隠してあった王城のメイド服に手早く着替えると、こっそり窓から脱出。日が暮れる前に城へ戻らないといけないからだ。



 …………。はい、小走りで王城に到着しました。ふひぃ~。

 城門の警備はメイドに対して甘いと思う。もっさりした私のかつらと服装だけで「ああ、お前ね」って感じで、すんなり門を通される。ここさえクリアしてしまえば、あとはラク。何食わぬ顔をして、人目が無い時に自室へ入る。茶髪のかつらとメイド服を脱いで隠し、ドレスに着替えて終了。



「殿下、ご夕食はどうされますか?」


 息を吐く暇もなく、私付きのメイドのアナが私の意向を伺いにくる。これに間に合わないとアウトだ。



「いただくわ。少なめで、お願い」

「かしこまりました」



 アナが部屋を出て行くと、ようやく私は椅子の背に深くもたれることが出来る。

「ふぅ……。疲れた!」



 明日は、また大変だから、しっかり休んでおかないとね!

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