サーリャの、とある一日③
「贈り物の回収が終了致しました」
「ご苦労様です」
道の脇に整然と並んだ約二百名の親衛隊を前にして、ラプネーの報告を受ける。その後で私は親衛隊隊員のほうに向き直った。
「では皆様。イヴァン様のお屋敷へお届けに参りましょう」
「はい!!」
良い返事だ。こういう時、皆の顔が紅潮してキラキラしてるよね。そういう彼女達の表情を見ると、私も嬉しくなるわー。
あ、親衛隊の入隊希望者は今度から参加してもらうということで、ご了承下さい。なので今日は、ここでお別れです。ごめんなさい。理由と致しましては、私がイヴァン様からお屋敷に入る許可を貰っているのは親衛隊のみ、ということで。そして貴女達が入隊する際には、厳正な審査が必要なのですよ。親衛隊の規律を全て納得してもらって、年間スケジュール等々をかいつまんで説明してからでないと、貴女達の入隊は認められませんの。あ、さっきの老女さんみたいな場合は特例が発動されるけどね。じゃ、そういうわけで親衛隊の皆様は行きましょうかー。
私達は、ぞろぞろと道の端を歩く。馬車や他の通行人の邪魔にならないように気を遣う。そう、我々は『イヴァン様の親衛隊』なのだ。彼に恥をかかせるわけにはいかない。
「親衛隊隊員として常に品位ある行動を」。これは親衛隊規律の第三条に当たる事項だ。
さてさて。イヴァン様のお屋敷の門は、この大通りを王城のほうへ真っ直ぐ行った先にある。ということで、もうすぐ到着だから気を引き締めよう。……うん。屋敷自体は、周囲に張り巡らされた黒色の高い鉄柵の向こうに、ずーっと前から見えていますが。でも正門までが遠いということです。
はい、正門に着きました。ぜぇぜぇ。皆は私の後ろで、こっそり息を整えといてネ!
「こんにちは。私達はイヴァン=クゥロー様の親衛隊の者ですが」
「伺っております。お入り下さい」
厳めしい顔で立っていた門番さんは快く中へ通してくれる。……それにしても、この門番さんも少し丸くなったよなぁ。一番最初に訪問した時は「親衛隊の身分を騙っているんじゃあるまいな?」って顔をして睨まれたもん。いやいや、私達はれっきとした『イヴァン様の親衛隊』ですよー。し・か・も、ご本人から公認された親衛隊なのです!!
うーん、でも名家クゥロー家の門番って大変そうだもんね。毎日毎日、イヴァン様目当ての女性達が押しかけてくるから、けんもほろろに追い返しているって話だ。そんな門番の彼でも、私のビン底眼鏡は特徴的だから、いつまでも忘れないでいてくれるに違いない。
「こちらへどうぞ」
いつものようにメイドさん達が広い部屋へ案内してくれる。そこには事前に伝えておいた人数分の椅子も、きちんと用意されていて。今をときめく大貴族の家のおもてなしは、やっぱり違うなと感じた。
部屋の中央には大きなテーブルが運び込まれており、回収した贈り物はそこに置くことになっている。
親衛隊隊員たちは贈り物をテーブルに置き、メイドさんにお茶とお菓子を振舞われ始めた。その中で新入隊員たちは緊張してしまってガチガチだ。それもそうだろう、明らかに高級な椅子とティーカップに、お菓子。それらは町娘の彼女達にとって身近な物では決してない。
「お待たせしてしまいましたか?」
と、ここでイヴァン様のご登場ォーーーー!! 新入隊員の子たちが、驚きでカップを落としそうになっている。ああ~、お茶をこぼして火傷しないよう、注意しておけば良かった! ……でも大丈夫だったみたいね。危機一髪、こぼした子はいないようだ。ホッ。




