サーリャの、とある一日②
凛々しい騎士隊は立ち止まることなく王城へ走り去っていってしまい、人々は夢に浸る間もない。ため息を吐き、ほぼ女性ばかりだった見物人は散り散りになっていく。白リボンのようにピンと張り詰めていた親衛隊の緊張が解かれる一瞬だ。
「ふぁ~、終わったぁ。毎回毎回、白百合の騎士隊が町を通る時は本当に大変よねぇ……」
「ほら見て。今日も、こんなに手にリボンが食い込んじゃった」
「私も。ほらほら」
互いの手を見せ合って、赤い線の痕が出来た様子を嘆く乙女達だが――――。
「痕は時間が経てば、すぐに消えるから!
見なさい。婦人たちがイヴァン様への贈り物をどうしたらいいか、迷っているわよ!!」
すかさず、彼女達に親衛隊副隊長のラプネーが注意した。
うむうむ。流石は私の見込んだ副隊長だなぁ。親衛隊の結成時に「どうか隊長をやってくれ」って何度か頭を下げたんだけど、何故か私のほうが向いていると言って、断られたんだよねぇ。いまだに理由が分からない。……と、こうしちゃいられない。私も贈り物の回収しないと。
「私達はイヴァン様の親衛隊でーす」
「イヴァン様への贈り物は、こちらで承りまーす」
厳しい副隊長の指示を受けた親衛隊は各々の籠を手に、辺りをぐるぐると歩く。
「こうして貴女達に渡せば、イヴァン様に間違いなく届けてもらえるのね?」
「はい。お任せ下さい」
そんな似たような会話があちこちで聞かれ、順調に籠に積み上がっていく贈り物。やっぱ凄いんだよね、イヴァン様の人気は。幼い頃から凄く苦労して、白百合の騎士隊に入った他の騎士達との差が可哀想になってくるもん。
「あの……」
気付くと、私の目の前にマーガレットがいて、話しかけられる。な、何だろう?
「もしイヴァン様の親衛隊に入ったら、そういった贈り物を届けにイヴァン様のお屋敷を訪問できるって本当でしょうか」
もじもじした様子で赤い顔をして言うマーガレット。おやおや。こんなに早く自ら入隊希望に来てくれるとは、手間が省けたわ。よーし。こうなれば相手に悟られないよう、全力で誘うのみっ!
「ええ。本当です。でも、そうした理由だけで入隊をされると、後々に苦労することになりますよ。親衛隊には厳しい規律がありますから」
「構わないわッ! どうせ今のままでは、私にとってイヴァン様は高嶺の花ですもの!! だったら少しでも、お側に行きたいの!」
はーい、入隊希望者一名追加でぇす☆
あっ、ラプネーも婦人たちに声をかけられてる! むふふ。様子を見守ろう。
「私も入隊したいのですが、年齢制限とかはありませんの?」
「ワシも入隊したいのじゃが~」
「えっ、お婆ちゃんも? 親衛隊は結構ハードワークですよ? 失礼ですが、ご老体には厳しいものが……」
「嫌じゃ~、ワシも入るんじゃ~」
マダムだけでは飽き足らず、腰の曲がった老女からも熱い支持を受けるイヴァン様。マジで惚れます。さーて、そろそろ私の出番かな。
「いいじゃないの。お婆ちゃんも入隊させてあげれば。親衛隊のお仕事は出来る範囲で手伝ってもらいましょう」
「エリザ隊長が、そう仰るなら……」
「お嬢ちゃん、ありがとうな~。そのビン底眼鏡、よう似合っとるよ~」
「えへへ」
そう、これよ。イヴァン様への愛を介して、皆が笑顔になれる。これこそが理想境!
「ママー、あたちもシンエイタイ入るー」
「ミイちゃんが入るなら、あたちも入るぅ」
おおっと。まさかの幼女たちも来たー! ……本格的に凄いな、イヴァン様。この国の婦女子をどれだけ虜にすれば気が済むのかな。
でも。まぁ、これで親衛隊の運営も滞りなくいくよね。人手は多いほうがいいし。




