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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第7章 ふたり暮らし

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第1話 一週間だけお試し夫婦

「涙衣、飾、ちょっといいか?」


 夕食の時間に、父さんが少し深刻そうな顔でそう言った。

 なんだろう、つい身構えてしまう。

 悪い話か?


「父さん、少し長めの出張に行かないといけなくなりそうなんだが」

「出張? 珍しいね、最近はなかったのに」

「去年は俺が出張に行くと涙衣がひとりになってしまうから、断っていたんだ。義務教育中の子どもひとりだけにできない、と言えば上司も納得してくれたから。でも、お前たちももう高校生、留守番を任せても大丈夫かなと思って」


 そういうことか。

 たしかに一昨年までの父さんは、そこそこの頻度で出張に行っていた。

 離婚後は急になくなったが、俺のためだったのか。


「もう子どもじゃないから、安心して行ってきていいよ。なぁ、飾」

「そうだね。るぅひとりに家を預けていくのが心配なのはわかるけど、今はあたしもいるから大丈夫」


 飾のやつ、なんか俺のことを子ども扱いしていないか?

 一応、本来は俺が兄なんだぞ?


「そうか、じゃあふたりのことを信じて任せようかな」

「少し長めの出張って、期間はどれくらい?」

「一週間って言われてるんだ。日曜日の午後に移動して、金曜の夜まで。あ、いや、金曜の夜に打ち上げに参加しなきゃいけないみたいだから、帰りは土曜日だな」


 思ったより長いな。

 その期間をひとりで過ごすとしたら、自由気ままな生活を通り越してさみしくなりそうだ。

 でも、ひとりじゃなくて飾と一緒だからな。


「そんなに長く留守番するなら、お土産は期待しないといけないわね」

「ははっ、たくさん買ってくるよ」


 そして、次の日曜日の午後、父さんは大きなスーツケースに荷物を詰めて出かけて行った。

 これで一週間後まで、この家は俺と飾のふたりきり。

 そう、ふたりきり。


「やっとふたりきりになれたね」

「え、なに急に」

「もう俺たちの愛を邪魔するものはなにもないよ」

「いきなり変なスイッチ入れないでくれる? びっくりするんだけど」


 口ではそう言っているけれど、手を伸ばすと逃げずに触らせてくれる。

 まぁ触ったのが肩だったからかもしれないけど。

 機嫌が良い日なのかな?


「お父さんのことを邪魔者呼ばわりするのはよくないよ」

「……うん、それはそう。なんか言葉のあやで、つい」

「そこを反省してるなら、まぁよし」

「許してもらえたってことは、ここからの一週間は存分にいちゃいちゃしていいってことですか? それこそ、この前の新婚ごっこを一週間続けるみたいに」

「いや、さすがにそれは……一週間もあんなことやってたら、今の生活に戻って来れなくなりそうだけど」


 それは言えてる。

 あんな幸福を毎日味わっていたら、現在の関係に戻って来れなるだろう――それも悪くないのでは?


「よし、わかった。この一週間は、兄妹じゃなくて夫婦としてすごそう」

「なにがわかったのかしら⁉」

「飾は今の生活がすごく気に入ってるんだろ?」

「そうよ」

「これが崩れてしまうのがイヤだから、俺と付き合いたくないっていって、なんだかんだ恋人になってくれないわけだ」

「そうだけど、あらためて言われると、なんか私がずいぶん自分勝手に聞こえるのが不思議」


 いや、自分勝手そのものだと思うが。


「だから、まずこの一週間を、お試しで違う関係として過ごしてみないか? それで、今後もやっていけそう、やっていきたい、なんとかなるかも……まぁダメとは断定できないって思ったなら、先に進んでみてもいいのではないかと」

「そういうこと言うなら、もっと自信を持ってくれないかな。だんだんと自信がなくなっていくのが不安」

「いや、だってフラれたらって思うと」

「そうやって始める前から自信がない人が好きじゃない。あたしの夫として振る舞いたいなら、もっと堂々としてちょうだい」

「わかった。堂々とする……ということで、どうかな? 今から父さんが帰って来るまでの間、お試し夫婦ってことでいいかな?」

「ダメって言ったら、またなにか突拍子もないこと言い出すんでしょ? いいわよ、それならお試し夫婦をしてあげる。ルールは……そうね、期間はお父さんが帰ってくるまで、夫婦っぽい行動を心掛けること、でも寝室は別々。それでどうかしら?」

「キスは?」

「ダメ! って言ったら、どこが夫婦だよ、って話だしね。キスなしだと、普段の生活とあんまり変わらなくなっちゃう。だから、いいわよ、キスしても」

「よしっ、じゃあさっそく」


 飾の体を抱き寄せ、唇を奪おうとする。

 最近はなんとなく慣れて来たらしく、飾もキスのたびにいちいち赤面しなくなっている。

 ちょっとさみしい気はするが、それだけ回数を重ねてきたということなので、誇らしくもある。


「でも、一日一回」


 まさに唇が触れようとした瞬間、そう言われた。

 吐息が鼻腔に直接入って来てうっとりする……なんて思ってる場合ではない。

 重要情報だ。


「一回だけ?」

「そう、一回だけ」

「つまり、ここでしてしまったら、もう今日はできない?」

「そうなるわね。ここでしちゃう?」

「…………おやすみのキスがいい」

「うん、じゃあその時にね」


 そう言って、飾は俺の腕の中からするりと抜け出した。

 体よくあしらわれた――わけではないはずだ。

 絶対に今日中にキスするからな。


 まぁ、今日のキスはそれでいいとして……明日からはどうしようかな。

 行ってきますのキスもいいし、場所の指定はなかったので、学校で人目を忍んで――というおねがいをするのもいいだろう。受け入れてもらえるかは別として。

 だがそれ以上に、キスにだけ集中しすぎないようにしなければ。

 一週間、キスのことだけ考えて終わったのではあまりにもったいない。


 この機会に、飾に真剣に俺との関係について考えてもらわなければ。

 別れが怖いから付き合わない、って言ってるけど、それだっていつまでも続けられるわけじゃない。

 もし、それぞれに別の好きな人ができれば、結局は変わらざるを得ないんだ。

 そういう未来だって、もしかしたら悪くはないのかもしれない。

 でも、別れたくないって理由で一番好きな人を諦めて、それで別の人を探すなんて。そんなのはイヤだ。

 当たり前のことだけど、一番好きな人こそが一番一緒にいたい人だから。


 今の俺たちはすごく仲がいいけれど、将来はどうなるか、そんなこと誰にも、いつまで経ってもわからない。

 それに怯えるのではなく、将来どうなるかはおいといて、とにかく今が幸せだからいい――そう思ってもらえることができたなら。

 きっと俺たちは、ここから一歩前に進めるはずだ。

 この一週間の最大の目標は、それだ。


 一週間後、父さんが帰って来た時に、俺たちが付き合い始めたと報告してやろう。

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