第六十一話「決闘開始」
あれから数十分の時が経ち、祭を楽しんでいた人々は決闘の場の席が埋まるほど集まっていた。中に入れなかった人々は、神聖国の使者達が四方に散らばり、障壁を張る準備をしていた。
そんな盛り上がりが最高潮直前と言った空気の中で、僕は今か今かと入場口で待っていた。
「いよいよね」
「うん」
「私は、これっぽっちも心配はしていないわ! 圧勝して、パー! と騒ぎましょう!!」
「ふふ。そんなこと言って。さっきまで、心配そうにあちこちを飛んでいたのに」
「う、うるさいわね! そういうあんたはどうなのよ?」
と、ティナが恥ずかしそうにシャルに問いかける。
「私もティナちゃんと同じ気持ちです。アースさんが勝つと信じています。ですが、相手は世界でも指折りの実力者。アースさん」
「ん?」
「これを」
シャルから受け取ったのは、護符だった。
「これには私の。そう私のいち―――いえ、想いを込めた聖女の護符です。反則になるような能力向上魔法は込められておりませんが、効果は絶大です」
「ねえ、今なんて言おうとしたのよ」
「なんのことかな? ティナちゃん」
僕も気になるところだけど、もう時間だ。
「ありがとう、シャル」
そう言って、護符を腰のポーチに仕舞う。
「それじゃあ、行ってくる」
一呼吸入れ、ロウガとハヤテを召喚する。
「あんたは、何も心配せず応援してなさい!!」
そこに、ティナが〈ブースト〉を僕とロウガ、ハヤテにかける。決闘に際して、ルールがいくつか決められた。
まず、出場者以外からの支援は全面禁止。
先ほどシャルから貰った護符には、確かに魔力反応はなく、身につけているだけで何かしらの支援があることはないだろう。
次に、出場者は予め決め、追加することはできない。
今回、ロメリアさん一人に対して、僕はティナ、ロウガ、ハヤテを加えた複数人参加となっているけど……この辺に関しては話し合いをして了承されている。
ティナ、ロウガ、ハヤテは召喚士の攻撃手段という認識となった。
「来たね、アース」
先に待っていたロメリアさんは、赤炎を地面に突き刺したままにやりと笑みを浮かべる。
「覚悟しなさい! 負けた後に、そっちは複数だったから! とか文句言うんじゃないわよ!!」
「あはははは!! 当然じゃないか。あたしは、そんな度量の小さい女じゃない。アースにとってあんたらは、仲間であり、力だ。文句なんてあるわけないさ」
まあ、ロメリアさんはこういう人だよね。
「さあ、決闘前の軽い会話はここまでだ。審判!! 決闘開始の宣言をしな!!」
すると、観客席に移動していたシャルが一人立ち上がった。
そう。審判はシャルが務めることになっている。
「それでは、僭越ながら私、聖女シャルが平穏祭最後を飾るイベント……英雄アースとギルドマスターロメリアによる決闘の開始を宣言します!! 両者、構え!!」
シャルの言葉に、僕は杖を。ロメリアさんは赤炎を構える。
「―――決闘、開始ぃ!!!」
決闘開始の宣言と共に、隣にいたドッゴさんが鐘を木槌で叩く。
ついに始まった。
ロメリアさんとの決闘が。
「ロメリアさん」
「なんだい?」
互いに睨み合う。僕は、今にも飛び出しそうなロメリアさんにこう告げた。
「最初から、全力でいきます」
「そんなの」
僕の言葉を聞いたロメリアさんは、赤炎を構え飛び出す。
「当然じゃないか!!」
迫りくる巨大な刃。
僕は、焦ることなく静かに呟く。
「〈アーマード〉」




