第六十話「決闘前の熱い空気」
いよいよだ。
僕は、平穏祭を十分に楽しんだ後、いち早く戦いの場へと訪れていた。まだ祭は続いているので、客席には誰も居ない。
だけど、時間となれば客席は埋まるかもしれない。
ただの訓練場ではなく決闘場も兼ねているということもあり、広さは十分。円形のフィールドとなっていて、客席のある壁も成人男性三人分ぐらいはある。
その中央に僕は佇んでいる。
「珍しく燃えてるわね、アース」
「はは、そうだね。僕自身、戦いがこんなにも楽しみになっているなんて、初めてのことかもしれないよ」
隣で微笑ましそうな表情で見ているティナに、僕は右拳を握り締めながら呟く。
「……正直、僕は戦いが嫌いだったんだ。というよりも、怖かった、かな」
子供の頃の僕は臆病で、自分が傷つくのも、誰かが傷つくのも嫌だった。
そんな僕が変わったのは、村に手負いの魔物が現れた時。
勇敢にも、その魔物に挑んだのはチャールで、そのチャールがピンチになり、彼が死ぬのが嫌で無我夢中で、傍にあった鍬で魔物の背中を攻撃した。
そこからは、チャールと一緒に魔物が完全に命を落とすまで攻撃を続けた。
「へぇ、そんなことがあったのね。じゃあなに? アースが戦えるようになったのは、あの馬鹿勇者のおかげってこと?」
「馬鹿勇者って……まあ、そうなるかな」
あの時のチャールの姿は、本当に勇敢だった。
僕にとっては、勇者のように見えたんだ。
だからこそ、なのかな。恐怖を振り払い、魔物に立ち向かうことができたのは。
「もし、あの出来事がなかったら、ずっと小さな村でほそぼそと暮らしていたかもしれない」
「なるほどねぇ。だったら、剣の勇者には感謝しないといけないねぇ」
「ロメリアさん?」
どうやら、ロメリアさんも待ちきれずと言ったところか。ずっと燃える闘志が目に宿っていたけど、今は比じゃないほどに一段と燃え上がっているのがわかる。
その瞳は、戦う相手である僕へ向けられていた。
「準備はどうだい? 英雄」
「……できていますよ、もちろん」
「いいねぇ。戦う男の目をしてる。こっちも一層滾るってもんだよ」
周囲には誰もいない静寂が包む決闘の場で、僕とロメリアさんはただただ無言で見詰め合う。
「ロウガ、ハヤテ」
そして、僕は共に戦うロボット達を召喚する。
「改めて見ると、その異様な存在感がひしひしと伝わってくるね。ロボット……まだ謎多き存在だけど、これだけは理解できてる」
と、背にある赤炎のこちらへと突き付ける。
「あんた達は強い。その強さ……真っ向から打ち砕いてやるよ」
そんなロメリアさんの言葉に、ロウガが一歩前に出た。
言葉は発しないが、なんとなくわかる。
それは、ロメリアさんもそうだったようで、ふっと笑みを浮かべた。
「楽しみにしてるよ、決闘の時を!!」
満面の笑みを浮かべ、ロメリアさんはその場から姿を消す。
「頼んだよ、ロウガにハヤテ」
ロウガには肩に、ハヤテには頭に手を置く。二体は、静かに頷いた。
「アースさん。そろそろ時間です」
すると、色々と手配をしてくれていたシャルが僕を呼びに来た。
「わかった。ティナ、シャル。応援よろしくね」
「まっかせなさい! 全力で応援するわ!!」
「私もです。あなたに聖女の祝福を」
さあ、いよいよ始まる。
必ずロメリアさんに勝利して、今の僕の力を証明するんだ。




