第五十七話「平穏祭開催」
平穏祭。
闇のダンジョンに脅かされていた人々が、解放された。
ティランズは今、大いに盛り上がっていた。
道を歩けば、誰もが笑顔に満ちている。
「お! 街を救ってくれた英雄じゃないか!」
「本当にありがとうね! あなたのおかげで、平穏に過ごせるわ!!」
僕は、人々の感謝を受け入れつつ、街を歩いている。
僕も僕で祭を楽しんではいる。
とはいえ。
「それで? あの馬鹿をぶっ倒す作戦は、どうなの? アース」
「馬鹿って……」
どうやらティナは、相当イラついているようだ。
「当然よ! アースを利用しようとしてるんだから!」
ロメリアさんの提案で、僕は祭の最後に彼女と戦うことになっている。あの提案から数日。ずっと、彼女とどう戦うか考えていた。
その間、ティナは今のように怒り心頭と言った感じだった。
ちなみに、シャルは聖女としての役目があり、今は神聖国からの使者達と話し合いをしている。
勇者の敗走。
勇者以外の闇のダンジョン攻略。
その他諸々。
祭を楽しんでもらいたいけど、彼女には彼女の役目がある。
祭は、二日間続く予定だ。
二日目はなんとか参加できるように頑張ると張りきっていたけど……。
「ほら、ティナ。この焼き菓子おいしいよ?」
「むう……」
屋台に並んでいる一口サイズで切った果物とクリームがトッピングされた焼き菓子をティナに渡す。
人からしたら一口で食べられるけど、ティナは違う。
むう、と唸りながら小さな口で齧っていく。
その後も、食べ物の屋台を中心にティランズを練り歩いた。
少しずつだけどティナの機嫌は直る……まではいかなかったけど、緩和されていった。
そうしている内に、時間は刻々と過ぎて行く。
「……」
それなりに食べ歩きをした僕達は、ティランズの中央広場に設置してあるベンチに腰掛けていた。
そこから人々の輝くような笑顔を見詰めつつ、二日後の最後に行われる僕とロメリアさんとの決闘のことを思考していた。
ロメリアさんは、近接戦闘型。
だけど、これまでの戦いぶりから考えて、中距離攻撃もできると考えていい。
赤炎から放たれる炎の刃。
大剣の大きさもさることながら、かなり厄介だ。
まず、ロウガが主軸となるのは決まっている。
そして、ハヤテは彼女が攻撃し難くするようになるべく高硬度からの遠距離射撃。エネルギーのことはあまり考えない方がいいかな……。
彼女と戦う場合、短時間で一気に攻めた方が良いかもしれない。
けど、ロメリアさんは真正面から打ち砕く戦闘スタイルのように見えて、かなり考えている。
そもそもただ単純に戦闘力が高いだけじゃ、ギルドマスターなんて務まるはずがない。
戦闘においての彼女の勘の良さ、思考速度は尋常ではないだろう。
「アース。溶けてるわよ」
「え? あっ……」
買ったアイスのことをすっかり忘れていた。
慌てて垂れていたところを舐め取り……いや、一気に平らげた。
「明日のことを考えていたんでしょ」
「……うん」
なのかを食べている時に考え事はやっぱり良くない。
特に今回のような溶けるタイプだと尚更だ。
「まあ、あいつはそれなりに強いけど。アース達は負けないわ」
「あはは。ありがとう、ティナ」
「絶対勝ちなさいよ、アース!」
ティナはいつだって僕のことを信じてくれている。
その信頼に応えなくちゃな……。
「さ! 気を取り直して、食べ歩きを再開するわよ」
「ま、まだ食べるんだ」
「当たり前よ! ほら、早く早く!!」
ティナに急かされた僕は、苦笑しながらベンチから立ち上がる。
今は、十分に祭を楽しもう。
そう思いながら、歩を進めた。




