第五十話「階層主戦(4)」
「くははは……いい不意打ちだったぜぇ、めがね。この俺を騙すなんてなぁ」
ぺろりと自分の血を舐めながら、クリントは笑みを浮かべる。
「ただ突撃してくるだけのあほ勇者とは、やっぱ違うねぇ。いいねぇ……」
さっきまでのクリントの言動には何かに飢えた者のような狂気があった。けど、それでもまだ理性というものが残っていた。
しかし、今のクリントからは。
「魔族の血が疼くぜ……!」
狂気だけしかない。
「えぇ、まさかあれでキレたの?」
ティナは、もう少し理性的だと思っていたようだ。
「いや、普通なら死ぬレベルのダメージのはずだよ。キレてもおかしくないよ」
「ですね。あれほどの大きな鋼鉄の塊が当たる。普通なら、致命傷。もしくは死にますね」
そこは、さすがは魔族の体と言ったところなんだろう。
どれだけ鍛え上げた体でも、あれほどの鋼鉄の塊が落ちたなら、頭から血を少し流す程度では済まないはずだ。
「俺も召喚士。召喚士らしく、後方からって思ってたが……」
杖を構えると、スカルウィッチが杖に吸い込まれる。
それだけじゃない。
クリントの体がふわりと浮かんだ。
何をするつもりだ? と構えていると。
「ここからは、俺も肉弾戦だぁ!!」
クリントが、アイアンゴーレムの体に……吸い込まれた。
「なっ!? まさかゴーレムと融合したってのかい!?」
「魔物との融合……そんなことができるとは」
普通はできないことだ。
これが魔族の力か。
それだけじゃない。クリントの他にもスカルウィッチも融合したことにより。
「魔法を……!」
本来、ゴーレムは魔法を使うことができない。だが、スカルウィッチが融合したことにより魔法を使えるようになったのだ。
ロウガが切り裂いた腕も復活しており、氷で生成した巨大な斧を手にしている。
「さあ、ここからだ! 俺をもっと楽しませてくれよ!!」
ゴーレムからクリントの声が響く。
それと同時に足元から、鋭利な岩が次々に生えてくる。
「ロウガ!」
僕達に当たる前に、ロウガが迫る鋭利な岩を切り裂く。
「これは、固まってると串刺しだね!」
と、ロウガと共に鋭利な岩を切り裂きながらロメリアさんが言う。
「おらぁ! 考える暇なんて与えねぇぞ!!」
振り下ろされる巨大な氷の斧。
ただの氷じゃない。
魔法によって生成されたものだ。更に、あの質量を、あんな巨体から……。
「ここはあたしに任せな!!」
「ロメリアさん……わかりました!」
なら、僕達がとるべき次の行動は。
「ロウガ! ハヤテ!」
僕は右手を握り締め、手の甲へと魔力を流し込む。
それにより、ロウガとハヤテが命令を受諾し合体した。
「よーし! じゃあ、ここ一番! 魔力をいっぱい込めた強化魔法を!! 〈ブースト〉!!!」
いつもの強化魔法―――じゃない。
何かが違う。
魔力をいつも以上にこめたからか?
「シャル! 僕と一緒に!」
「はい!」
ロメリアさんを信じて、僕とシャル、ロウガ達は飛び出す。
ティナは、僕のローブに。
「んじゃま……ここ一番! 気合いの乗った一撃で相手になってやるよ!!」
刹那。
ロメリアさんの赤炎から赤き豪炎が噴き出した。
「〈赤羅・剛刃〉」




