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第四十六話「魔族クリント」

 特に敵と遭遇することなく、僕達は階層主の間へと到着した。

 この間、挑んだダンジョンのものとは違い瘴気が纏わりついており、かなり不気味だ。


「この奥に居るんだね、魔族が」

 

 強者との戦いがよほど楽しみなのか。ロメリアさんは、目の前の巨大な扉をにやりと笑みを浮かべながら見詰めている。


「あれだけのゴーレムを召喚したんだから、かなり魔力を消費してるはず。……よね?」


 と、ティナが僕に確認する。


「どうだろう……。魔族は、人と違って根本的に魔力量が違う。もしかしたら、まだまだ余裕があるかもしれない」


 それに、魔物と同じく瘴気を取り込んで強化されているかもしれない。


「や、厄介ね」

「ですが、ここまで来た以上引くわけにはいきません。皆さん」


 シャルが、僕達の顔を見詰める。

 

「倒しましょう。必ず」

「もちろん。あたし達の世界を魔族の好き勝手にはさせないよ!」

「やろう。僕達で」


 改めて気合いを入れた僕は、一歩前に出る。

 すると、待っていましたとばかりに扉が勝手に開いていく。


「きゃうっ!? しょ、瘴気が……!」


 階層主の間に溜まっていたであろう瘴気が、扉が開いたことにより一気に溢れ出す。ティナが吹き飛ばされそうになるも、僕を壁となりなんとか守れた。

 

「よぉおこそ!! 闇のダンジョン最下層へ!! 待ってたぜぇ!!! 人間ども!!!」


 部屋の中央に渦巻く瘴気の中から姿を現したのは、ローブを纏った一人の男。

 

「クリント……!」

「お? 誰かと思えば、へっぽこ勇者様と一緒に逃げた聖女様じゃねぇか!! 凝りもせずまた来たのか?」


 あの男がクリント。

 初めて会ったけど、わかる。間違いなく彼は強い。一度も部屋から出たことがないかのような白い肌と瘦せ細った体と、外見だけで判断するならばそうでもない。

 しかし、まだ距離があるというのにひしひしと感じる威圧感。

 隠す必要などないとばかりに、溢れ出ている禍々しい魔力の波動。


 これまで出会ったことがない相手だ。

 これが魔族……あれほどのゴーレムを召喚したというのに、疲れている様子もない。やはり、僕ら人とは何もかもが違うのだろう。


「……ええ。今度こそ、あなたを倒すために」


 シャルを挑発したつもりだったのだろうが、シャルは冷静さを保ちながら杖を構える。


「そうかいそうかい……んで、そこのめがね」


 そして、次は僕へ。


「ゴーレムどもを通じて見ていたぜ。てめぇ、普通じゃねぇな。そこの二体。異質な力を感じるぜ」


 いつでも戦闘ができるように待機しているロウガとハヤテを交互に見詰めながらクリントは笑う。


「ちょっと、あんた! 私のことを忘れるんじゃないわよ!!」

「あぁ? おー、なんだ妖精じゃねぇか。そいつらに比べたら妖精なんざ……あ?」


 叫ぶティナに対して、明らかに興味がないという反応を示していたクリントだったが、何かを感じたのか目を細める。


「……気のせいか。少しばかり何かを感じたが、てめぇはただの妖精だ。大人しく引っ込んでな」

「なんですってー!!」


 今にも飛び掛かりそうな勢いだったが、ロメリアさんがそれを制す。


「その辺にしておきな、ティナ」

「お? 冒険者ギルドのマスターさんじゃありませんか。へっぽこな勇者様の代わりに、こんなところまでご苦労さんです!」

「安い挑発だね」


 そう言ってロメリアさんは、赤炎をクリントに突きつけた。


「さっさとおっぱじめようじゃないか、魔族」

「……俺としては、このままお話を続けても良いんだが。ま、良いぜ。てめぇらとなら、楽しめそうだしなぁ!!」


 刹那。

 クリントの魔力が溢れ出し、三つの召喚陣が展開される。

 そこから現れたのは、レッドキャップゴブリンと……騎士? 思い当たる魔物はスピリットナイトかな。

 そして……。


「魔法使いか」


 薄汚れた黒いローブに身を包んだ魔法使い。

 フードから見えるのは、皮膚も肉もない白い骨。

 

「そうだ! こいつは、俺のとっておきの魔物。スカルウィッチだ!!」


 スカルウィッチ。

 魔法を得意とするアンデット系の魔物。本来なら、中級五位ほどの危険度だが……他の二体と同じく魔界から召喚されているはず。

 ならば、その強さはもっと上と考えるべきか。


「リッチじゃないだけマシだね」

「……そうですね」


 リッチとは、スカルウィッチと同じく魔法を得意とするアンデット系の魔物。だが、その危険度はスカルウィッチとは比べ物にならない。

 なので、ロメリアさんの言う通りリッチじゃないだけマシだと思おう。

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