第四十五話「最奥へ」
魔界のゴーレム達を殲滅した僕達は、休むことなく奥へと進んだ。
その後は、特に何かが起きるということもなく、不気味なぐらい順調に階層を突破していった。
「ゴーレムの時みたいに、また魔界からの魔物達が襲ってくるかと思ったけど……あれっきりだったわね」
新たな階層主である魔族クリントが居る七階層。
そこへ辿り着いた僕達は、まず周囲を見渡す。
「油断するんじゃないよ。ここは最下層だ。油断したところに……ってこともありえるからねぇ」
「わ、わかってるわよ」
ロメリアさんの言う通りだが、ティナの気持ちもわかる気がする。
魔界のゴーレム達が襲ってきたことで、奥へ進めば進むほど、また魔界の魔物達が襲ってくるんじゃないかと気を張っていた。
けど、ついに最下層まで、魔界のゴーレムほどの魔物は出ず。
いや、もしかしたら知らずに倒していた?
異世界と言っても、見た目では判断できない。
これまで戦ってきた魔物達の中に、魔界から召喚された魔物が居たのかも……。
「それにしても、さすが最下層。より瘴気が濃いね」
「私達が来た時は、これほどではありませんでした……」
と、シャルは目を顰めながら呟く。
「魔族さんの影響ってとこじゃないかい?」
「可能性としては、ありえるかもしれませんね……皆さん。あまり長いはできません。外の様子も気になります。クリントのところへ向かいましょう」
シャルは、ぎゅっと杖を握り締める。
そんな彼女の様子を見て、僕は正面に立つ。
「シャル。焦る気持ちはわかるけど、ここまで来るのに体力も魔力も、かなり消耗した。相手は、魔族。その強さを君は十分知っているはずだ。挑む前に、しっかり準備を整えないと」
僕の言葉に、シャルは一度目を閉じる。
「そう、ですね。……私、一度失敗したことで相当焦っていたようです」
右手を自分の胸に添え、目を再び開いたシャルの表情は、先ほどと違い余裕が見える。世界を救う勇者パーティーとして、聖女として。
傍から見たら冷静に僕達を導いてくれていたが、やっぱり焦っていたようだ。
「ありがとうございます、アースさん。もう、大丈夫です」
「どういたしまして」
もう大丈夫だと判断し、僕達は七階層を進む。
「……ほんと、不気味だね。魔物が一体も出てこない」
通常のダンジョンには、魔物が一切出ない。所謂休憩エリアのようなものがあるダンジョンもある。だが、ここは闇のダンジョン。
加えて階層主が居る最下層だ。
魔物が一体もいないなんてことはないはずだ。
「クリントの仕業、でしょうか」
「だとしたら、親切だねぇ」
「何が親切よ。私は、馬鹿にしてるとしか思えないわ。自分のところに来るまで体力も魔力も消費し過ぎたせいで、簡単に負けたらつまらなんだ! みたいな感じがして」
「はっはっはっは! 随分と具体的だね。まあでも、わからなくもないねぇ」
確かに、ティナの言うことには一理ある。
まるで、自分のところに来るまで少しでも回復しろ、みたいに言っているようだ。
「そうだとしたら、遠慮なく回復させてもらおう」
僕は、腰に装備していたポーチから二本の瓶を取り出す。
ひとつは、赤色の液体が入った瓶。
もうひとつは、黄色の液体が入った瓶。
まず赤色の液体が入った瓶を開けてぐいっと飲む。
魔力回復薬。
これは、飲むだけで魔力を回復できる魔法薬だ。その中でも、赤色は上級。失った魔力が一気に回復したのを感じる。
本来、魔素を取り込むことで自然に回復させるのが常識。
だが、こういう状況では、こうやって薬により強制的に回復するのが最善。そもそも、闇のダンジョン内の魔素は、僕達にとっては毒だ。取り込んだら、体内の魔素が蝕まれてしまう。
次に飲むのは黄色の液体。
疲労回復薬。
これを飲むことで、溜まった疲労を回復することができる。
「あっ、アースさん。空になった瓶は私が回収します」
「ありがとう」
特に気にすることもなく、僕はシャルに空になった二本の瓶を手渡す。勇者パーティーに居た時も、彼女はこうして回収していた。
なので、僕も自然と彼女に渡してしまった。
「くう! やっぱ疲労回復薬は、疲れた体に染みるねぇ!!」
ロメリアさんは、僕達よりも相当疲労が溜まっているはずだ。そのためか、一気に二本も飲んでいた。
「シャルもしっかり回復してするんだぞ」
「はい」
さあ、階層主まで後少しだ。




