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第三十七話「突入」

 所用を済ませ、僕は闇のダンジョンへと向かっていた。

 今は、一刻を争う。

 ロメリアさんを先頭に、僕達は走って移動している。


「それで? この緊急時にどこへ行っていたんだい?」

「チャールのところです」

「やっぱり。アースのことだから、あんな奴でも心配するとは思ってたけど」


 どうやらお見通しだったようだ。


「チャールさんとは何を?」


 シャルの問いに僕は。


「今回の作戦について、話しただけだよ」


 短く答えた。


「ん? うわぁ、もうこんなところにまで」


 ティアランズを出て一分が過ぎた頃。

 瘴気を纏ったゴブリンを発見した。


「ギャギャ!!」


 好戦的なゴブリンは、何の躊躇も恐怖もなく、こちらへ攻撃を仕掛けてくる。


「ほいさ!!」


 しかし、それをロメリアさんが一刀にて両断。

 速度を落とさず、そのまま歩を進める。


「これは、思っていたよりやばい状況かもね」

「急ぎましょう、皆さん」

「ああ!」


 ちなみに、冒険者達は後でやってくる。数人のパーティーで、少しずつティランズから離れるんだ。全戦力を最初からではなく、こうすることで何かが遭った時に対処できるように。


「近づいて来たね」


 ついに瘴気が漂うエリアへ到着した。

 まるで別世界。

 赤紫色に染まった草木。誰がどう見ても正常なるものとは思えない。そこには、当然だが同じく赤紫色の霧が漂っている。


「では、皆さん。今から〈セイクリッド・バリア〉を張ります」

「頼んだよ、聖女様」


 瘴気は、僕達人類にとっては毒とされている。

 それは、体内の魔素を蝕むからだ。

 少量ならばなんともないが、長い時間、大量に体内へ取り込めば体に異常を及ぼす。魔素が乱れれば、魔力変換もできないし、回復魔法も効きづらくなる。


「念のため何重にも張ります」


 シャルが僕達に張ろうとしている〈セイクリッド・バリア〉は、神々を信仰せし者達が使える聖魔法のひとつで、瘴気を防ぐことができる。

 聖と魔。相対する力だが、それを可能とした。

 これは神々への信仰心によるもの。特にシャルは聖女だ。他の者達よりも強力な聖魔法を使える。


「〈セイクリッド・バリア〉!!」


 シャルが杖を掲げ魔法を唱える。

 すると、僕達の体に目に見えない膜のようなものが纏う。


「これで大丈夫です。ですが、お気を付けください。勇者の加護ほどではないので」

「あいよ。んじゃま」


 ロメリアさんは、背中から赤炎を抜き、炎を纏わせた。

 僕も、ロウガを召喚する。


「一気に駆け抜けるよ!」

「ロウガ! ロメリアさんと共に立ち向かう敵を薙ぎ払うんだ!!」

「よーし! 私の強化も追加よ!! 〈ブースト〉!!!」


 最後に、ティナからの強化魔法を付与し、僕達はまた駆け出す。

 真っすぐ、真っすぐ……魔物達が襲って来ようとも、足を止めることなくただただ蹴散らし、闇のダンジョンへと向かう。

 

「そら! そらぁ!! かかってきなぁ! 魔物ども!! 焼き斬ってやるよ!!」


 瘴気により強化された魔物達は、襲い掛かってくるもののロメリアさんとロウガは容易に蹴散らしていく。その後ろを、僕とティナ、シャルがついて行く。

 

「ティナ、シャル。しっかり掴まってて」

「はい!! 絶対離れません!!」

「ぐぬぅ……! 今回だけは仕方ない……! 仕方ない……!」


 ティナによる強化で僕の身体能力も当然上がっている。

 シャルは、貴重な回復役。

 できるだけ色々と温存しておきたい。そのため、僕が背負っている。ちなみにティナはフードの中に入っている。


「あはははは! いやぁ、いいね! ロウガ!! あたしについてこれるなんて!!」


 ロウガの動きは最初の頃より格段に良くなっている。

 エネルギー消費を抑えるために、最小限のエネルギーで鉤爪を構成している。


「見えてきました! 闇のダンジョンです!!」


 シャルが指差すところには、瘴気が漏れ出す転移空間があった。そこから次々に魔物達が溢れ出ており、壁となっていた。


「いくよ! 〈ブレイジング・ドライブ〉!!!」


 赤き炎を纏い、ロメリアさんは迷いなく突撃していく。

 壁となった魔物達は、蒸発するかのように消え去り、ロメリアさんは炎の道を僕達に作った。


「さあ! 突入だよ!!」

「はい!!」

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