第三十三話「闇のダンジョンに向けて」
その後、僕達は一度解散することとなった。
シャルもまだ疲労が抜けきっていないため、早急に体を休めなくてはならない。ロメリアさんも、戦いに向けて冒険者達と色々話し合っているようだ。
「で? なんで、アースがおぶって行かなくちゃならないわけ?」
「あうぅ……私、もう一歩も歩けません……」
「さっきまでめちゃくちゃ元気だったじゃない! 嘘をつくんじゃないわよ!!」
「ま、まあまあ。疲れているのは本当だろうし、これぐらいなんてことないから」
ギルドを出ると、シャルは力が抜けたようにへたり込んでしまった。
そこで、僕が彼女を背負って宿まで送ることになったんだ。
「はあ……はあ……アースさんの背中……!」
「だ、大丈夫か? シャル。なんだか息が荒いみたいだけど」
僕の背中?
「あ、髪の毛」
髪の毛?
「ちょっとあんた! 今、なにしたの!?」
「さあ?」
「この……!」
なんだろう。僕の髪の毛がどうかしたんだろうか? あ、抜け毛がシャルに飛んだとか?
「アース。やっぱ、このまま放置しようよ。絶対、疲れてないって」
「いやでも」
「ひ、ひどい……! ティナちゃんは、動けない私を放っておくの!? お友達なのに……!!」
「お友達だから、わかるのよ。あんたが、動けるってね」
「えへへ、そうなんだぁ」
「なんで嬉しそうなのよ」
なんだかんだ、二人は仲良しである。
宿……と言っても、いつの間にか僕と同じ宿。それも隣の部屋に泊っていたようで、部屋に送り届けた後、僕は少し街の様子を見るためにティナと一緒に再び足を伸ばした。
「やっぱ、空気暗いわね」
「うん」
勇者の敗走。
魔族の登場。
闇のダンジョンは、いまだに健在であり、そこから瘴気が。
これで暗くならない方が難しいというもの。
「そういえば、あいつ。今頃なにしてるんだろうね」
「チャールのこと?」
「ええ」
チャールは、僕が泊っている宿より高いところに居る。それも勇者特権で、宿代もなし。マーシャやブライもそこに泊っているはずだ。
「一応、動けるようにはなったらしいけど」
神々の加護でも防ぎきれなかった魔界の毒。
世界が違うと、やっぱりそういうことも起こりうるのかな? だとしたら、こちらの常識はあまり通じないかもしれない。
チャールは、プライドが高い。勇者になってからは、それに拍車がついたかのようだった。今回の敗走は、チャールにとってかなりの衝撃を与えたに違いない。
なんだかんだあったけど、幼馴染として心配だ……けど。
「今は、そっとしておこう」
「それが一番かもね」
今は、闇のダンジョン攻略に専念しよう。もう負けは許されない。相手は、魔族だ。今まで戦ってきた魔物とは比べ物にならないだろう。
けど、僕だって。
「ロウガ。ハヤテ。そして、ティナ」
追放されてから新たな二召喚した二体とティナを見詰め、僕は頷く。
「僕の力になってくれるかい?」
「当然じゃない!! 言うまでもないでしょ?」
ティナは、にっと笑みを浮かべ。
ロウガとハヤテは、言葉には出さないものの、こくりと頷く。
「ありがとう。……それじゃ! 少しだけ特訓でもしよう。相手は魔族。色々考えなくちゃ」
「なにせ、アースはリーダー! だもんね!」
「あ、あははは。プレッシャーだ……」




