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第二十九話「魔界の魔物」

「う、嘘だろ!? ただのゴーレムに俺の攻撃が!?」

「ただのゴーレム? こいつは、俺が魔界から召喚した魔物なんだよぉ!! この世界で生まれた貧弱なゴーレムと一緒にしないでほしいねぇ!!」


 自分の攻撃を防がれたチャールは、一歩引く。

 だが、それを追うようにゴーレムは動き出す。


「くそっ!」

「なめんじゃないわよ!!」

 

 それを防がんと、マーシャは魔法を唱える。一点集中による強烈な水の槍。


「〈アクア・ジャベリン〉!!!」

「甘い! 甘い!!」


 しかし、それすらもゴーレムには効かない。そのまま、右腕を振り上げ、チャールへ攻撃をする。


「ぐっ!?」


 間一髪のところで回避したが、床が破壊され、破片が飛び散る。

 

「どうしたぁ? こっちはゴーレム一体だぞ? あっ、それとも強過ぎたか? んじゃあ、ゴブリンにしてやろうか?」

「馬鹿にしやがって……!」

「クリントさん―――いいえ、クリント」

「ん? なんだ、聖女様」

「先ほど、魔界から召喚したと言っていましたね。ということは、あなたは」


 緊迫する中、シャルはクリントの口から出た気になる言葉について問いかける。


「そうさ。俺は、魔界に生きる魔族。お前達、人類とは生き物としての格が違うんだよ」

「魔族……! あんたが!?」

「なるほど。勇者である俺を狙って潜入したわけか」

「まあ、一応そうだけどよぉ。でもなぁ」


 どこかつまらなさそうにため息を漏らしながら、クリントはチャールを見る。


「報告よりもお前達、動き悪くね?」


 その言葉にチャールの脳裏にアースとティナの姿が浮かぶ。


「なんでなのかねぇ?」


 わかっている。


「お、そうか」


 だけど、認めたくなかった。


「もしかしてぇ? 俺と入れ替わるようにいなくなったっていう」

(やめろ)

 

 自分の選択が間違いだったなんて。


「アースっていう召喚士が召喚した妖精ちゃんの力のおかげだったかのかなぁ?」

「黙れえええええ!!!」


 クリントの煽りに、チャールは叫ぶ。

 光は、それに呼応し、巨大化する。


「おーほー、怒った? 怒ったのか? てことはー、当たりってかぁ?」


 感情のままに突撃してくるチャールに対して、クリントはやれやれと首を横に振りながら、新たな召喚陣を展開させた。

 そこから現れたのは、赤い布を頭に被ったゴブリン。両の手には、片刃の短剣を装備している。

 レッドキャップゴブリンだ。


「チャールさん! だめです!!」

「だめじゃないわよ! 援護するわ! 〈ライトニング・アロー〉!!」


 何かを察したシャルに対して、マーシャは今度こそクリントを倒すと雷の矢を一気に五本生成し放つ。


「やれ、レッドキャップゴブリン」

「ギャギャ!」

 

 しかし、新たに召喚されたレッドキャップゴブリンにより全て打ち消されてしまった。


「う、嘘!?」

「邪魔だぁ! ゴブリン!!」


 マーシャの魔法を打ち消した後の隙を狙う。しかし、それをレッドキャップゴブリンは余裕で回避し、チャールの足に刃を振るう。


「ぐあっ!? ちっ! この程度……!」


 傷はそこまで深くない。痛みはあるが、動ける。

 

「残念」


 ただし、受けた攻撃が普通の攻撃ならの話だ。


「あ、足が……」


 突如としてチャールの動きが鈍る。

 傷を負った左足が、がくがくと震え、まともに動かなくなる。


「まさか神経毒!?」

「嘘でしょ!? チャールには状態異常は効かないはずよ!!」


 そう。勇者の称号を得た者達には、神々の加護によりあらゆる状態異常が効かない。それにより、瘴気の浸食も無効としている。

 

「それはそっちの世界のってやつだ。そもそも神々の加護だからって絶対だと思ってるのかぁ? 魔族なめんなよ!!」

「ぐあっ!?」


 身動きが取れなくなったところへゴーレムの右拳がチャールを襲う。

 

「チャール!?」

「よそ見してんじゃねぇぞ!」

「きゃああっ!?」


 死角からの攻撃。レッドキャップゴブリンの一撃を受けたマーシャは、その場に倒れもがく。腹部に刃が突き刺さったため、流血が量が多い。


「そらそら! 攻撃は止まらねぇぞ!!」


 もがき苦しむマーシャにレッドキャップゴブリンが追撃する。

 

「させません!」

「お?」


 それを防いだのは、シャルだった。マーシャを結界で守り、そのまま。


「だりゃああ!!」

「ギャギャ!?」


 杖で思いっきり殴った。

 見事なまでのフルスイング。これには、レッドキャップゴブリンもたまらず吹き飛んでしまう。

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