第二十六話「失敗」
あの後、奥へと進んだが、帰還用の転移空間があるだけだった。
一通りの調査を終えた僕達は、さっそく調査をまとめるためにティランズへと直行した。
「それにしてもでかい魔石だぜ」
「だな。これが大型の魔物の魔石なのか。初めて見る」
魔石は、魔物の大きさによって変わる。ゴブリンやコボルトのような小型は大きくても手の平サイズ。中型は、大きくて子供サイズ。そして、大型は大の男が四人がかりでようやく持ち上げられるほどだ。
それ以上の大きさとなれば……。
「この魔石の大きさなら、色々と活用法があるね。あんた達、落とすんじゃないよ」
「おっす!」
「任せてくださいよ! ロメリアの姉貴!」
魔石には、色々な使い道がある。
たとえば、魔道具の動力源。魔道具は、魔力によって動く道具だ。魔石は魔力が蓄えられている石の一種。他にも魔鉱石という魔素の影響を受けて変化した特殊な鉱石がある。
魔鉱石には、属性というものがあり、環境によって変化する。火山ならば、炎属性の魔鉱石。水辺などなら水属性の魔鉱石といった感じだ。
それを加工することで、ロメリアさんが使っているような魔法の武器や防具を作ることができる。
とはいえ、簡単に作れるわけではない。
熟練の鍛冶師でない限り、不出来なものとなってしまう。簡単に言えば、数回使っただけで砕け散ってしまうのだ。まあ、それでも数回使えるため使い捨てにはなるが、サブとして所持することが多い。
ロメリアさんが使っているものは、どうやら完璧な魔法の武器のようなので、そう簡単には壊れることはないだろう。
「ついでに魔鉱石も手に入ればよかったんですけどね」
と、魔法使いの女性冒険者が呟く。
「まあ、贅沢は言えないよ。今回のダンジョンは森林。鉱石類は、ほとんどないだろうし」
それに対して弓使いの男性冒険者が答える。
彼の言う通り、今回のダンジョンは森林。採れたものといえば、植物類が多い。どれもこれも、ダンジョンでなければ採れないというわけでもない。
そのため、今回調査したダンジョンは、冒険者達の修練の場となるかもしれない。
出現する魔物は、獣系が多く、かなりの強さだった。
それに、鬱蒼とした森林だったので、視界もそれなりに悪い。難易度から考えると、中級者向けだろうか?
「ロメリアさんの魔剣。凄かったですね。それ、なんて名前なんですか?」
そろそろティランズに到着するかと思う頃。僕は、ロメリアさんに魔剣のことを問いかけた。
「これかい? 炎の魔剣! 赤炎だ!」
「ほんと、赤が好きなのね」
「まあね! 赤はいいぞ! アース。あんたもどうよ?」
「なにがですか?」
「髪の毛を赤く染めてみないかい? 絶対似合うって!」
髪の毛を? そう言われ僕は、自分の茶髪に触れながら、少し想像してしまった。自分が赤髪になっている姿を。
似合う、かな?
「え? あんたのその髪、染めてたの?」
ロメリアさんの言葉に、ティナは疑問に思ったようで、彼女の髪の毛を見詰めながら問いかけた。
「いいや、これは地毛だよ。まあ、無理にとは言わない。でも、考えてみてくれ。あ、髪がだめなら服とか」
「あ、あははは」
などと他愛のない会話をしながら、移動しているとあっという間にティランズに到着した。
……しかし、なんだか街の雰囲気がいつもと違う。
どこか、暗いような気が。
「アースさん」
どういうことだ? と思っていると、聞き覚えのある少女の声が耳に届く。
「シャル?」
振り向くと、白い衣服が、ところどころ汚れた状態のシャルが何かを言いたげな表情で立っていた。
「シャル。街で何か遭ったの?」
シャルは何かを知っている。そう思った僕は、問いかけた。
「街で何か遭ったわけではありません。何か遭ったのは……私達、勇者パーティーです」
そこで、僕の脳裏に考えられる最悪な状況が浮かんでしまった。
「私達、勇者パーティーは」
ぎゅっと杖を握り締め、シャルはゆっくりと口を開く。
「闇のダンジョン攻略に……失敗しました」




