第二十一話「やっぱり余裕じゃないか」
闇のダンジョンへ入ったチャール達は、気持ちに整理がつかないままで大丈夫なのか? と心配だったが、どうやら杞憂だった。
「〈光波斬〉!!」
「〈フレア・ランス〉!!」
いつもより体に違和感はあるもの順調に奥へと進んでいる。
「はっ! やっぱり〈ハイブースト〉に体が馴染んでいなかっただけだったようだな! チャール!!」
魔物を貫き、ブライは余裕の笑みを浮かべる。
「ああ!」
剣を鞘に納め、チャールは返事をする。
(だが、効果時間が短い。それに……いや、これも勘違いだ。そうだ。そうに決まってる)
「どうかした? チャール」
顔を覗いてくるマーシャを見て、チャールは首を左右に振る。
「なんでもねぇよ」
「そう? それで……あんた!」
「はひっ!? な、なんですか?」
急に指を差さたクリントはびくっと体を震わせる。彼の横には、ゴブリンが一体居た。
「召喚するなら、もっとこう……強そうなのを召喚しなさいよ! なんでよりにもよってゴブリンなのよ!!」
「す、すみません! 力を温存したほうがいいかと、思いまして」
「確かにな。今度からもっと戦闘に役立てる魔物を召喚しろよ」
マーシャに賛同するようにブライもクリントを小馬鹿にする。
「役に立っていないわけではありません。現に、マーシャさんの死角から攻撃してきた魔物を倒しています」
そんな二人に対してシャルは、クリントを庇うように彼の実績を言う。
「な、なによ。あれぐらいだったら、余裕で避けれたわよ!」
「そうですか」
「ぐぬぅ……!」
「あわわ! お、お二人とも喧嘩はその」
自分のことで二人が喧嘩している。止めなくては。そう思ったクリントだったが、どう止めればいいかわからず言葉が詰まってしまう。
「お前達! 先に進むぞ! 次で三階層だ! 瘴気もだんだん濃くなってきているからな。気を引き締めろ!!」
これまで確認された情報から闇のダンジョンは、一番深くて十五階層。本来ならば、そこまで深くないと思われるが、そうでもない。
闇のダンジョンは階層が少なければ少ないほど、最優先でクリアしなければならない。
闇のダンジョンは世界に瘴気と魔物を溢れさせるために存在する。
魔王は言った。
楽しませてもらうぞ、と。つまり、闇のダンジョンとは魔王にとって世界を侵略するための余興。もしくは、遊びに過ぎないのだ。
「あいよ」
「ふん! あんた、ここから出たら覚悟しなさいよ」
「あなたこそ。いつまでも、そのような態度だと痛い目に遭いますよ」
「ひー! 皆さん、待ってくださーい!!」
勇者パーティーは、ひたすら瘴気漂うダンジョン内を進んで行く。その先に待っている階層主を討伐し、闇のダンジョンを消し去るために。
(やれる。やれるんだ。ティナの……アースの力なんてなくても)
「チャール! 前方からまた魔物の大群が現れたぞ!」
「ああ、わかってる!!」
ブライの叫びに、チャールは剣を鞘から抜く。
「俺は」
ぐっと握り手に力を入れ魔力を高める。
「俺は! 剣の勇者チャールだ!!」
己を鼓舞し、我先にと駆け出す。そして、刃に光を纏わせ。
「〈光波斬〉!!!」
魔物達へ振るった。




