第二十話「大空からの乱れ撃ち」
ダンジョンに入ってから数分。
特に珍しいものはなく進んでいたけど、ついに魔物が現れた。相手は、ベアルック。二体でひとつの熊型魔物だ。
連携が得意で、下級冒険者ならば、ほぼ命はないと思っていい。
「おー! ベアルックじゃないか! 久々に見たよ」
さすが上級冒険者。ベアルックを前にしても堂々とした佇まいだ。
「ティナ。ロベリアさんに強化魔法を」
「はいはい。〈ブースト〉!!」
僕の指示で、さっそくティナはロベリアさんに〈ブースト〉をかける。
「んー! これが、ティナの強化魔法。いいね、いいね! 気分が上がってきたー!!」
背中に装備した大剣に手をかけ構え、我先にと突き進む。
「ロウガ!」
僕が指示するとロウガがロメリアさんを追うように駆け出す。
「お? ロウガくん。あんたの戦いっぷり見せてもらうよ!!」
ロメリアさんは右から、ロウガは左から攻める。
「グウッ!!」
「ガアッ!!」
それを見たベアルックは、背中を合わせた。
「ほいさ!」
ロメリアは、意気揚々と大剣を振るう。それと同時に、ロウガもエネルギーの鉤爪を振るった。
が、ベアルックはその場で跳躍。
攻撃を回避し、互いに足をぶつけ、近くの木に飛び乗った。
「ガッ!」
「グッ!」
そこから、攻撃直後の隙だらけなロメリアさんとロウガの背中へ攻撃をしかけてくる。
「素早い! 素早い! でもぉ!」
見上げるほどの巨体からは想像できない身軽さだ。そして、相手が何をするのかわかっているかのような連携。魔物の中には、こうした知能が高い魔物も居る。
人の言葉を喋る個体も確認されているほどだ。
「そーらぁ!!」
とはいえ、相手が悪い。
ロメリアさんは、背後から攻撃をしてくるベアルックを片手で軽々と大剣を振り下ろし……両断。
そして、もう一体はロウガが正面から両の鉤爪で細切れにしてしまった。
「ほい! 一丁上がり!! ロボットくん! あんたもやるじゃないか。どうだ? ちょっとあたしと手合わせを」
まるで獲物を求める野獣のような表情でロウガを見るロメリアさん。それを見た僕は、慌てて二人の間に割って入る。
「お、落ち着いてください! 今は、ダンジョンの調査中ですから!」
「……あははは!! 冗談だよ、冗談。そのくらいあたしだってわかってるさ」
「いや、さっきのは冗談に聞こえなかったわよ」
まったくだ。
ロックワームやベアルックを容易に倒せたとしても、さすがに上級の。それも二位を相手にするのは……ただでは済まないだろう、どちらとも。
「ん? この反応は」
右手の甲の紋章から生体センサーが表示される。それによれば……。
「ハヤテ! 迎撃だ!!」
「およ?」
僕は、すぐにハヤテに指示を出す。
刹那。
上空を弧を描きながら飛んでいたハヤテが翼を広げ、エネルギーを放出。放出されたエネルギーは、六つの穴が空いた筒となって腹部に装着される。
「なんかいっぱい来るね」
さすが上級冒険者。いや、獣型の亜人ということか。ロメリアさんの言う通り魔物が十五体ほど接近してくる。
「お? ゴブリンじゃないか。しかも、ライダーだね」
「うへぇ……よりにもよってゴブリン」
正面から接近してくるのは、ゴブリンの軍団。しかも、普通のゴブリンじゃない。ウルフという狼の魔物に乗っている。
「あたしがやってもいいけど。ここは、鳥くんに任せてみようか」
と言ってロメリアさんは大剣を地面に突き刺す。
「やってやれー! ハヤテー!!」
「ハヤテ! 正面のゴブリン達を迎撃!!」
そう指示を出すと、ハヤテは大空から腹部に装着されている筒―――エネルギー砲を向ける。
「発射!!」
すると、エネルギー砲がキュイイン! と音を響かせ回転。
「うひゃあ!?」
「おお!? ゴブリン達が穴だらけになってるじゃないか!!」
僕達のところへ辿り着く前に、ゴブリン達はハヤテに穴だらけにされてしまった。ゴブリン達では届くことのない大空から一方的に攻撃。
「グギャ!!」
ハヤテに気づいたゴブリンが反撃せんと持っていた矢を射かけるが、まったく届かず。そのまま蜂の巣にされてしまった。
「……頭ではわかっていたけど。実際目の当たりにすると、凄まじいな」
「あははは! こりゃあ、凄い!! 攻撃が届かない空から、あんな一方的になんて。しかも、さっきの魔法じゃないよね?」
「あ、はい。ロボットを動かすためのエネルギー。それを攻撃に使っているんです」
「こりゃあ、相手が可哀そうになるね」
まあ、その分ロウガ以上にエネルギーの消費が激しいんだけど。
「よーし! この調子で、奥へ進むよ、あんた達!!」
「ちょ、ちょっと! これは調査なんですから、まずはこの周辺の探索。それと倒した魔物の魔石と素材を回収しないと。ロメリアさん!?」




