第十九話「ロボットはどこから?」
ダンジョンに入るのは、いつまで経っても慣れない。
異空間。
つまり、外の世界とは違う場所に行くのだから。出入り口に踏み入れると、周囲は青白い捻じ曲がった空間となる。
そこをしばらく進みと、光が見える。
「到着!! まあ、予想はしていたけど。このダンジョンは森林みたいだね」
「でも、ちゃんと”壁”がある」
青白い空間を抜けると、そこは森林地帯。
一見すると、入る前の森林地帯となんら変わらない光景だけど……壁がある。もっと奥へ進めるように見えるけど、ここは作られし異空間。
境界線があるんだ。
「よし! あんた達! ここからは、三手に分かれるよ!!」
僕とティナ、ロメリアさんは中央から進むことになった。
集合場所はもちろん次なる階層へ行くための転移空間だ。だいたいのダンジョンは何階層かで構成されている。時折、一階層だけのダンジョンもあるが、果たしてここは。
「んー! いやぁ、洞窟とかそういうせまっ苦しいところじゃなくてよかったよ」
まるで散歩をしているかのようにロメリアさんは、先頭を歩きながら気持ちよさそうに背伸びをする。
「ロメリアさんは、大剣使いなんですね」
「ん? 意外か?」
僕は、ロメリアさんの背中にある赤い刃の大剣を見る。なにか、刃の中央に妙な切れ込みがあるようだけど……。
「そうね。もっと軽量武器を使うかと思ってたもん。こう、ガンガン前に出て敵を倒す感じで」
「ガンガン前に出るってのは、当たってるね。けど、ガンガン! ドカーン! ってやりたいんだ。あたしはね」
「ど、どかーんですか」
彼女が背負っている大剣は、おそらく普通の武器じゃない。
まあ、それは戦闘になればわかることだろう。
「それより、ロボット? だっけか。このロウガは」
「あ、はい」
ロメリアさんは、隣を歩くロウガを見る。
今回の陣形は、ロウガとロメリアさんが前衛。僕とティナが後衛となる。それに加えてハヤテが空中から全方位をカバーすることになっている。
「あのハヤテっていう鳥も中々かっこいいねぇ。ロボットってのは、やっぱり異界の存在なのか?」
「おそらく」
「まあ、こんな鋼鉄の人形が意思をもって動くなんて聞いたことがないからねぇ。もし存在するとしても、もっと先の未来だろうし」
ロウガ達のような鋼鉄で動くものは、この世界にもあるにはある。
たとえば、歯車時計。
僕も小型のを持っている。こういうものは、製鉄技術は昔からあった。狩人が使うナイフや短剣。日常生活に使う鍋やフォーク。
とはいえ、ロウガやハヤテのような存在は作られていない。
「どっかの国では、歯車を利用した人形を作ってるって聞いたことがあるけど。どれもこれも失敗に終わってるらしいからね」
時計のようにある一定の動きを繰り返すようなものならば制作に成功している。しかし、ロウガやハヤテのように僕達と変わらない……いや、僕達以上の動きをしてもなお壊れない鋼鉄の存在は、作るのが難しいようだ。
「案外、ロウガ達って未来から召喚された存在だったりして」
ティナの言葉に、僕とロメリアさんは目を見開く。
「おー! 良い考えじゃないか、妖精ちゃん!!」
「せめて名前で呼びなさいよ」
そうか。未来、か。確かにその可能性は考えもしなかった。召喚術は、異界から召喚する、というのが常識だった。
だけど、現在から召喚することもある。
そもそも、僕達が勝手に異界から召喚していると思っているだけで、これまでの歴史で召喚してきたものの中に、過去、現在、未来という中から召喚されたもの達も居た可能性がある。
ということは、夢の中で出会ったあの少女も未来の存在? 僕は夢の中とはいえ未来へ飛んだってことなのか?
「そう考えると、未来の技術を先取りしているのかな、僕は」
「ははは! そうかもね。お? あんなところに怪しげなキノコを発見!」
「うわぁ、明らかに毒キノコじゃない。紫色だし」
ロボットが本当に未来から来た存在だったとしたら……僕は、どうして召喚できるようになったんだろう。
「……」
やっぱり、あの時拾ったものが……。
「おーい! アース!! なにぼーっとしてるんだ!! 置いて行くぞ!!」
「え? あ、待ってくださいよ!! 僕達、一時的とはいえパーティー組んでるんですよ!」
まだまだわからないことだらけだけど、これだけはわかる。
ロウガ達は、頼もしい僕の仲間だということは。




