91 予選開始 8
朝食をとっていると従業員が隅っこで殺人事件について話していた。
それを聞いた客が詳しいことを聞こうと、その従業員に話しかける。
「これまでと同じく路地裏で発見されたのですが、殺されるときに大きな悲鳴が出たようで兵たちが現場に集まったそうです。そしてそこにはこれまでと同じく悲惨な状態の死体と冒険者がいた」
「その冒険者が犯人なのか?」
「わかりませんが、兵は事件に関わりがあると判断し詰所に連れて行こうとしたらしいです。でも捕まりたくなかったのか、その冒険者は逃亡。町のどこかに潜んでいると聞きました」
逃げたということは犯人なのかな? 犯人じゃなくてもなにかしらの情報は持っているかも。
「逃がしちまったのか!? なにやっているんだ」
「殺人鬼が町に潜んでいるのか。祭りで人が多いし、見つけ出すのは一苦労だぞ」
「兵が空き家とかの捜査をするそうです。冒険者にもその協力の募集をするそうですね」
兵は忙しいだろうし、予選で負けた冒険者目当てで募集するんだろう。
朝食を食べ終えて、武具を身に着けて宿を出る。
今日もバフマンと戦ってこよう。九体を同時に相手したおかげで余裕がでてきた。先に進むことも考えて、今日の帰りに四十三階のモンスターについてギルドで調べようかね。
ダンジョンでの戦いをこなしていく。三体同時ならまともに戦えるようになって、四十二階にいる時間が伸びた。
今日の鍛練を終えて、夕方にはまだ早い時間にダンジョンから出る。
「うーん、順調順調。四十三階に行ってもいいな」
ほどほどの疲れ具合から余裕があると判断し、進むことにする。
ギルドに入り、空いている受付に行き、魔晶の欠片を売る。
お金を受け取り、職員に用件を伝える。
「四十三階に出てくるモンスターについて聞きたいんだけど」
「少々お待ちを」
職員は手元の手帳を開いて、めくっていく。
「ああ、ありました。名前はカイ・ロキス。二十階から三十階の間に出てくる、ロキスの上位版ですね」
ロキスは空中に浮く目玉。大きさはスイカくらいだった。火の魔法を使い、火の玉を飛ばしてくる。
ロキス自体の動きはさほど速くはなく、近づくのは簡単だった。火の玉も視線の方向にまっすぐ飛ぶだけで、落ち着いていれば避けるのは簡単だった。
「ロキスは火の玉を撃ちだしてくる目玉であっているよね」
確認すると職員はそれですと返してきた。
「カイ・ロキスはロキスより大きく、速く、丈夫になっています。一番の違いは攻撃方法でしょう。火の玉ではなく、収束した炎を撃ちだしてきます。魔法への特殊処理をされていない革や布の防具では、燃えてしまって買い直すはめになります。炎の速度も速くなっていますね」
ゲームに出てきた情報と同じだな。ロキスの火の玉よりも速い熱線を撃ってきた。
ゲームとの違いは、鉄の鎧だからと油断していると熱が肌に伝わって火傷しそうなことだろう。
ポーションさえ持っていけば大丈夫だろうけど、事前に対策するなら魔法防御の護符を持っていくことかな? たしか護符を使えば魔法による熱さ冷たさはある程度だけど防げたはずだ。
回避するのが一番だけど保険としてそこそこの品質の護符を買ってから挑もう。
「ロキスは群れたりしなかったけど、カイ・ロキスは群れを作ったりする?」
「そういったことはないようですね。複数が一緒にいることはあるようですが、バフマンのように積極的に群れをつくることはないようですよ」
聞きたい情報をくれた職員に礼を言い、受付から離れる。
護符を買ってから帰ろうと思いつつギルドを出て、店を目指す。
少し歩いて、声をかけられた。センドルさんだった。
「デッサ、ちょうどいいところに」
「こんにちは。ちょうどいいって?」
「突然で悪いんだけど、仲介を頼みたくて」
仲介ねぇ、俺が仲介できるのはルガーダさんかタナトスの一族くらいだけど。ファードさんとも繋がりはあるけど、そこは俺よりも相応しい人がいそうだ。
「以前裏の顔役のところに連れていってくれただろう? また連れていってほしいんだ」
「案内だけならかまいませんよ。でもなんでまた行きたいんです?」
少し考え込んだセンドルさんは大丈夫だろうと呟いた。
「殺人事件があったのは知っているか?」
「今朝聞きましたよ。その場にいた冒険者が逃げたとか」
「うん。その調査を手伝っていたんだが、まだ見つかっていない。そこで調査範囲を広げようということになって、荒れたところも探すことになったんだ。町からの依頼だから裏の顔役に許可をもらう必要はないと思うんだけど、それでも一言連絡を入れておいた方がいいと思ったんだよ」
「町から連絡がいってませんかね」
人探しをしてほしいと協力の言葉も添えられて。
「それならそれでいいよ。怪しい人を見なかったかだけ聞くことにする」
「まあ、いいですよ。行きましょう」
「ありがとう」
歩きながら最近のことについて話す。
「もう四十二階なのか。あっという間に抜かされたな」
「センドルさんたちを抜かした? ペース遅くないですかね」
「こうして手伝いとかやっているから遅めではあるけど、デッサが早いというのもあるな」
それでもずっと先にいると思っていた人たちを追い抜いたのは、いまいち信じがたいというかなんというか。
俺が強くなる分だけほかの人も強くなるものだと思っていたから、階層も先に先にと行っているものだと。
シーミンに追いついてないし、ベルンだって先に行ってたし、センドルさんたちもまだ先にいると思い込んでいた。
俺自身速めとは思っていたけど、改めてペースが速いんだなって実感が湧いた。
「ダンジョンばかりに行っていたとはいえ速かったんだなぁ」
「小さい頃から鍛錬していて、強い仲間と一緒にダンジョンに入る頂点会のようなところも進むのは速い。でもデッサは一人で一から始めてその速度だ。正直異常とも思えるよ」
「頑張ればやれるんですけどねぇ」
「そこまで頑張る理由がほかの人にはないから。もっと安全に挑むものだよ」
まあ、そうだわな。リューミアイオールと契約して頑張るなんて理由と同等のものはそうはない。
「まあ抜かされたと言っても、強さ方面であって、コミュニケーションといった方面では影も踏ませてない」
「俺が積み重ねているのは戦闘経験だけってのは自覚ありますね。交渉とか依頼経験はさっぱりです」
「俺とカイトーイが重視しているのは戦闘経験じゃないからね、経営とか学んでいるとどうしてもダンジョンを進むのは遅くなる」
「レミアさんとプラーラさんは不満抱いてません?」
あの人たちはセンドルさんたちと目標を同じにはしてないし、現状をどう思っているんだろう。
「俺たちのことばかり優先するのはまずいってのはわかっているから、祭りが終わったあとしばらくはダンジョンに挑むって約束しているんだ」
「ちゃんとフォローしているんですね」
「さすがにね」
話しながら歩いているうちにルガーダさんたちの家が見えてきた。
今日はテラスにルガーダさんの姿はない。
玄関から声をかけ、出てきた人に名前を告げて、ルガーダさんがいるか尋ねる。
一度屋内に引っ込んだその人は数分して戻ってきて、屋内へと入れてくれる。
応接室に入るとすぐにルガーダさんがやってきた。
「こんにちは」
「久しぶりになるな。元気なようでよかった」
「ルガーダさんも。祭りの準備で忙しいのでは?」
「忙しくはあるが、毎年のことだ。慣れたものだよ」
「教会でも同じことをシスターが言ってましたよ」
俺がそう言うとルガーダさんは笑う。
「どこもこの時期は似たようなものだろうさ。それで今日はどんな用事だい」
「こっちのセンドルさんが用事があるそうです」
促すとセンドルさんが一礼し、口を開く。
「お久しぶりです。以前はお世話になりました」
「ああ、久しぶりだ。子供の誘拐事件のとき以来か」
「はい、そのくらいになりますね。今日はここらをうろつく許可をいただきにきました」
「なにを目的にうろつくのかね」
「町からすでに連絡がきているかもしれませんが、殺人事件に関わりのある男がどこかに隠れ潜んでいます。その捜索範囲を広げ、ここらのような表から外れた場所も探すことになりました。それで一言挨拶しておこうと思いまして」
「そのことか。町から連絡がきているぞ。うちからも人を出して探している最中だ。荒らさなければ歩き回ることに問題はない」
「ありがとうございます。なにか手がかりになるような情報が入ってきているのなら教えていただきたいのですが」
「今のところはこれといった情報はないな。うちの担当地区にはいない可能性もある」
そうですねとセンドルさんが頷き、立ち上がる。
「許可ありがとうございます。早速探してみます」
俺も帰ろうかな。そう思って立ち上がろうとすると、扉がノックされてルガーダさんが入れと声をかける。
入って来たのは見覚えのある男だった。
男はルガーダさんに近づき、耳元で何事か話す。
「センドルと言ったね、君に朗報かもしれない。うちの者たちがこれまで使われていなかった家に誰かいるのをみつけたようだ。相手が件の冒険者なら危ないかもしれないので、兵に協力を求めるか聞きに戻って来たということだが、行ってみるかね?」
「はい、場所を教えてください」
わかったと言ってルガーダさんは俺へと視線を向けてくる。
「デッサ君も行ってくれないか。隠れている者が暴れた場合、おさえられる人材は多い方がいい」
「いいですけど、手に負えないと思ったらすぐに引きますよ?」
「かまわない。相手がどこへ逃げたのかさえつかめば、あとは兵に任せればいいだろう」
ということで目的の家に行くため、連絡のため戻ってきていた人と一緒に現場に向かう。
到着したところにはクリーエの部下たちがいて、その視線の先にぼろいけれども大きく壊れたところのない一軒家がある。
「中にいる奴は動いたか?」
「動いてない。どうする? 冒険者二人いるし、踏み込むか?」
「ほかの奴が兵を呼びに行ったから待っているのもありだろう。兵で囲めばさすがに観念するだろうし。二人はどう思う」
俺とセンドルさんに聞いてくる。
「ここまで来たけど自分で捕まえたいわけじゃない。犯人候補が確実に捕まることを優先する。だから兵が来るのを待つってことでいいと思う」
センドルさんが答えた。
「俺も逃げないように見張るだけでいいんじゃないかなと思う」
この場にいる人数は俺も含めて六人。この人数で踏み込んでも逃がす可能性があると思うしね。
見張るということになり、表と裏に別れる。
あとは兵を待つだけと思ったら、裏に回った者たちから「出てきた!」と呼ぶ声が聞こえてきた。
誰が出てきたのか考えるまでもないよな。そんなことを思いつつ急いで裏手に回るとセンドルさんが剣を抜いて巨躯の男へと向けていた。年の頃は二十歳くらいだろうか。腰には金棒がある。昔話に出てくる鬼が使う棒から棘を抜いたそれを片手で持って構える。
「逃亡は諦めるといい。兵が時を置かずやってくる」
「捕まればろくなことにならない。だから通してもらう」
今回の殺人とはまた別の犯罪でもやったんだろうか? 逃げたのはそっち関連で兵と関わりたくなかったとかだろうか。
そんなことを思っている間に、男がセンドルさんへと突っ込む。
俺も手伝うか。魔力はそう多くはないけど、魔力循環を使っていっきに取り押さえるって方針でいこう。
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