12 戦い方の模索 後
「お待たせしました。説明しますよ」
「ありがとう」
カウンターにいた店員が護符の前に移動する。
「護符がどういったものか、詳細は知っていますか」
「魔法みたいなもの、一度使えば終わりってことしか知らない」
なるほどと店員は頷いて、最初から説明しますと言って説明を始める。
「理解されているように、魔法のような効果をもたらすものです。効果は様々、攻撃魔法を飛ばしたり、甕いっぱいの水を出したり、凍らせたり、土壁を出現させたり。値段によって効果の強さ、効果の持続時間が変わってきます。ちなみにどういった効果の護符がほしいのか希望はありますか」
「筋力を上げるやつ」
「ありますね。よく使われているものです。短期と長期、強化度合、魔力の有り無しで値段が変わってきます」
この店で売られているものは護符に魔力が含まれているものばかりだと付け加えた。
魔力の有り無しは、使う際に俺の魔力を使うか使わないかの違いだそうだ。
「短期だとそれくらい継続するんだ?」
「十秒から三十秒です。強化の割合は……少しだけ話は変わりますが計算はできます? それで説明の仕方が変わりますが」
できると頷く。
「安物で二割増し、この店で一番高いもので四割増しですね」
「一番安いもので十秒間二割増しか それはいくら?」
「大銅貨で三枚ですね」
「たぶんだけどハードホッパーから得られる魔晶の欠片で大銅貨二枚くらいだよな」
魔晶の欠片を売ったときのお金で、ざっと計算した金額を聞いてみる。
するとそれで合っていると返ってくる。
一番安い護符を使ってハードホッパーを倒しても赤字か。低い階層でお金を稼ぐのでは無理だとわりきって、経験値稼ぎに集中するか。
「十秒で三割増しか四割増しというのはある?」
「十秒で三割増しなら。値段は大銅貨八枚」
「大銅貨八枚か。ちなみに使用期限とかは? ポーションみたいに購入していつまでに使わないと効果がなくなるということはある?」
「込められた魔力がいつまでももつわけではないので期限はありますね。しかしポーションほどすぐに期限がくるわけではないです。購入して二ヶ月は問題ない」
二ヶ月経過して売れ残ったものは、廃棄するのだそうだ。
格安で売ることも考えたが、効果がでなければ不良品を売ったと店の評判が落ちると考えて、そうしているらしい。
「とりあえず筋力三割増しの護符を十枚。効果がどんなものか確かめて使えると思ったら五十枚買うかな」
「ハードホッパーを相手しているのですよね? あれ相手に大銅貨八枚はもったいなくありませんか?」
「もったいないとは俺も思うけど、今は強くなることを優先したいんだ。幸い手持ちに余裕はあるから、今のうちに戦闘経験を積もうと思う」
「お仲間と相談しなくていいので?」
「俺は一人で探索しているんだ」
そう答えると店員はなるほどと納得したように頷いた。
「一人でダンジョンに向かう人は常人とは違った価値観があると聞いたことがあります。あなたもそのような感じなのでしょうね」
変人の一人として認定された? 俺は強くなることを優先して護符を買っただけなのに。
微妙に納得いかないと思っているうちに、店員は護符を持ってくる。
「こちらご希望の品です。使う際は破ってください。あと五十枚購入される場合なのですが、在庫がないので事前に知らせていただけるか、他店でも探すといったことをしていただけると助かります」
「他に駆け出し用の店を知らないんだけど」
「ギルドに行って聞いてみると教えてくれますよ」
「そうしてみる」
そう遠くなく戦うことになる跳ね鳥の情報確認もしたいし、明日の帰りにゴーアヘッドに行ってみるか。
お金を払い、店を出る。
翌日、買った護符を持ってポーションの補充と昼食の購入もしてダンジョンに向かう。
このペースだと貯金を下ろしても一ヶ月の宿暮らしが限度かな。もう一個の竜の石を売ればなんとかなるだろうけど、その前に生活が安定してくれると助かる。
ダンジョンに入り、複数の噛みネズミを相手に戦って、昼食後に四階に下りる。
今日も一体でいるハードホッパーを探して、十五分ほどで見つけた。
「いつでも破れるように護符を左手に握っておいて、さあ戦闘開始だ」
左手の中に一枚の護符。いつでも取り出せるようにズボンのポケットに二枚の護符を入れている。
やること自体は変わらない。向こうの動きを見て、避けて、背中に木剣を叩きつける。
俺の接近に気付いたハードホッパーが突撃してくる。
これまで通りの戦いをやって、戦闘が終わる。
「いける」
護符を戦闘に組み込んだことで、時間が短縮された。十分もかからない。
こちらから攻撃する回数は三回に減り、護符を使うのは二回のみ。三回目の攻撃するときには向こうの動きはかなり鈍っていたから、護符を使わない攻撃で倒せたのだ。
「今日はあと四戦したら終わりだな。疲労具合で、噛みネズミと戦うのも考えよう」
いやゴーアヘッドに行くつもりだったから四戦で終わるかと思いつつ、ハードホッパーを探す。
予定の戦闘を終えて、ダンジョンから出る。今日はまだ夕方前に出てくることになった。
ゴーアヘッドに入り、手に入れた魔晶の欠片を売ってから受付の職員に話しかける。
「聞きたいことが二つあるんだ。駆け出し用の道具屋の場所を教えてもらいたいということ、跳ね鳥についての情報を知りたい」
跳ね鳥については、センドルさんたちの情報とゲーム知識である程度はわかっている。でもその両方の情報に当てはまらないものもあるだろうと、これまでの戦闘経験からわかっているので聞きたかった。
弱点は槍のような刺突攻撃なんで、木剣の場合は突きを当てたらいいと思う。
「ここらにある駆け出し用の道具屋だとナラン商店とカニシン堂、少し離れたところにベルネー商店といったところですね」
ナラン商店の場所を教えてもらい、跳ね鳥については冒険者に聞いてみるといいと教えてもらう。
「あそこらへんで依頼を探している冒険者に、大銅貨三枚くらい渡せば教えてくれるはずですよ」
「ありがとう」
礼を言い受付を離れて、依頼を選び終えたらしい二十代後半の男の冒険者に話しかける。
「こんにちは、少し時間をいいか? 情報料を払うから、跳ね鳥について教えてもらえないか」
「いいぞ。跳ね鳥だけでいいのか?」
「うん、次戦うのがそれだから」
大銅貨三枚を渡すと、男はそれをポケットに入れて話し出す。
「跳ね鳥についてどれだけ知っているんだ」
「飛べない鳥で、丸っとしたスズメと聞いたことはある」
「それくらいか。まず大きさは鶏よりも少し大きいんだ。ジャンプして蹴ってきたり、嘴で突いてきたりする。ハードホッパーより速くはないが、ちょこちょこと動き回るから動きに慣れるまで攻撃は当てにくい。攻撃を当てても、羽毛と筋力で防いで叩く攻撃が効きにくい傾向にある。お前さんの武器は木剣のようだし、叩く場合は頭部を狙え。胴体に攻撃するときは突きだな」
「動き回る相手に突きかぁ」
「仲間に足止めしてもらえばましになるだろう」
「仲間はいないんだ」
そう答えると少し驚いたように少し目を見開く。
「一人か。仲間と一緒に戦うのを勧めるが、事情があるかもしれないし無理にとは言えんな。となると武具を更新するのも手だろう。五階ならそろそろ武具を変える頃合いだ」
「全身交換になる?」
聞くと俺の武具を観察するため全身を見てくる。
「ブーツはそのままでいいだろう。武器と胴体防具を優先だな。青銅の剣と特製服を買うことになるはずだ。木剣はどういった使い方をしている? 剣としてふるっているのか、ただ振り回しているのか。どちらだ?」
「どちらかというと振り回しているだけ」
「だったら青銅の剣は刃が鋭くなっているものじゃなく、刃は潰れていてもいいから頑丈なものを選ぶといい。今の使い方だと武器にかかる負担が大きい。すぐに刃こぼれすることになるだろうな」
「頑丈なものを買うことにするよ。特製服ってのはどういったものなんだ?」
「鎧下としても使える頑丈な服だ。今お前が着ているものは生地が厚いだけの服だ。特製服は材料になる麻や綿が、通常のものより丈夫なんだ。魔法なんかを使って育てて、丈夫なものが作れるようにしているそうだ。今の服だと跳ね鳥がひっかいたら破けるが、特製服は破けないくらいには丈夫だ。十階辺りまでは防具として使えるだろうな」
今の防具は五階まで問題なく使えるとか言ってたし、五階刻みで武具の更新をしていくことになるんだろうか。
それについて聞いてみると、目安としてはそんな感じだろうと返ってきた。
「青銅の剣と特製服を買ったらいくらくらいになる?」
「その二つだと大銀貨で四枚くらいだろうな」
それくらいなら貯金を下ろせば問題なく買える。問題は青銅の剣を振り回せるかということだ。
木剣と同じ長さのものが重く感じたら、短めのものを買った方がいいのだろうか。
「もし木剣で戦うなら、有効な方法とかあるんだろうか」
「木剣なぁ……さっきも言ったが頭部狙いか突き。上手く当てられるならモンスター用の接着剤で動きを止める。思いつくのはこれくらいだ。複数で戦うならネットを使って、槍で何度も刺すんだが」
「素直に武具更新した方がよさそうだ」
そうだなと頷きが返ってくる。
「跳ね鳥の攻撃はハードホッパーの突進より受けるダメージは小さいものの、決して小さなダメージじゃない。防具を良くしても避けた方がいいな」
「どこを特に狙ってくるとかあったりする?」
「上半身だろう。跳ねてから攻撃というのが多い」
「帽子も良くした方がいいみたいだな」
「木製のヘルメットを勧められるだろう。素直にそれを買えばいいと思うぞ」
まだまだ工事現場スタイル継続かな。
跳ね鳥に関して話せるのはこれくらいだということなので、追加報酬として大銅貨二枚を渡して受付に戻る。
武具の話とか思った以上の話が聞けたからその分を上乗せしたのだ。
武具と護符のお金として金貨一枚を下ろして、ナラン商店に向かう。
そこで十枚の護符を購入し、カニシン堂で四十枚の予約をする。
昨日と同じ店員で買うことにしたのかと少し呆れた視線を向けられた。
「まだ明るいし武具の方も行こうかな」
もう少しハードホッパーと戦うし、その間に青銅の剣で素振りをすれば重さに少しは慣れるだろうと思ったのだ、
木剣などを買った武具店に行き、青銅の剣などを求める。
「青銅の剣はあちらにサンプルがあるので持ってみて確かめてみてください。特製服とヘルメットはサイズを知りたいので、じっとしていてもらえますか」
またサイズを測られて、そのあと青銅の剣が置かれているところに向かう。
刃渡り三十センチちょいのものから一メートルまでのサンプルが四本ある。
まずは無理だろうなと思いつつ刃渡り一メートルのものを手に取ってみた。幅も広く、厚みもある。片手では無理で両手で持ち上げる。
(おっも……ある程度成長した小学生くらいはあるかも。今の俺だと絶対使いこなせないな)
持っていたものをもとの場所に戻し、今度は刃渡り三十センチちょいのものを手にとってみる。こっちは片手で大丈夫だ。
「五キロないくらいか?」
前世で持ち歩いたことのある五キロのお米よりは軽い気がする。
これを持ち歩くだけならいいけど、十分以上の戦闘で構えを維持したり振り回し続けるのはまだきついかもしれない。
これ以上の重さだともっと無理だろうから、買うならこれの頑丈さを優先したものだな。
一応ほかの重さのものも試していると、店員がサイズの合う防具を持ってきた。見た目は無地でクリーム色の厚手シャツと同色のチノパンだ。ヘルメットの方は工事現場で見るような、顔の上部のみを守るものだ。
「試着をしてみてください」
「わかった。剣の方はこれと同じサイズで、鋭さよりも頑丈な方を頼む」
「はい。条件に合うものからいくつか持ってきますので、自身の手に馴染むものを選んでください」
そう言って店員はまた店の奥へと歩いていく。
俺も試着室で、持ってきてもらったものを着る。
持ってきてもらった特製服の上下の肌触りはよくない。丈夫さ最優先で、そこらへんは気にしてないんだろう。ちょっとざらつく程度なので俺自身そこまで気にすることはない。
ヘルメットもサイズがぴったりだった。
試着を終えて、試着室を出ると店員が四本の青銅の剣を持ってきていた。注文通りに刃はあまり鋭くはない。もしこれらでカボチャといった野菜を切っても、切り口は綺麗にはならずに潰れた感じになると思われる。
それを一本一本持って、手に馴染むものを探して、これだろうというものを選ぶ。
求めたもののお金を払い、店を出て宿に戻る。
夕食まで少し時間があるので、宿の裏を借りて青銅の剣を振る。特に型はないが、腕の力だけで振らないように意識して素振りをしていく。そのままハードホッパー戦を意識して、十分ほど構えと素振りを行っていく。
「一戦だけなら疲労は少なさそう。でも二戦三戦って続けていったら握力が落ちるかもしれないな」
そのときはすっぽ抜けてしまうかもしれない。
もう少し木剣で戦って、レベルアップを目指すのがいいんだろう。
(明確にレベルアップの変化があれば少しは楽なんだけどなー)
そんなことを思いつつ少しでも重さになれようと夕食前まで素振りを続ける。
翌日から買ったものへと武具を変えてダンジョンに挑む。木剣も持っていっている。青銅の剣は持ち歩くのに慣れるため持っていくだけで、一戦だけ試しに使ってみる予定だ。
複数の噛みネズミと戦ったあと、一体でいるハードホッパーを探すといういつも通りのことを行う。
最初の戦いだけ青銅の剣と魔力活性と護符を使ってみた。
「一撃かー」
この結果に自身でもわかるくらいに戦慄の感情が生じた。
隙を見てハードホッパーに振り下ろした剣は、胴体を真っ二つという結果をもたらした。
「良い武器と魔力活性と護符っていう今できる最高の攻撃とはいえ、確実に一般人から離れていっているな。目標に近づいているってことなんだろうけど、自分がこういったことができるのを見ると正直引く」
だから止めるというわけにはいかない。死にたくないから。
着実に成長しているのだと喜ぶことにして、武器を持ち替える。
この日から三日ほど同じような戦いを続けて、明確に変化が出てくる。
噛みネズミが木剣の一撃で倒せるようになったのだ。
成長を実感できたと同時に、やはりレベルアップによる急な能力の向上はないのだとわかる。モンスターを倒して少しずつステータスを上げていく成長の仕方だった。
自覚はないが、動きの速さや魔力も以前と比べて上がっているのだろう。
今後成長を実感にするには、そのときいける階から少し戻って以前戦っていたモンスターを楽に倒せるかどうか試してみるしかない。
感想ありがとうございます




