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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
9 十月の章
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紹介します。


「初めまして。」


「あ、いや、どうも。」

「ええと、こちらこそ、初めまして。」


みんなびっくりしてるな……。


10月5日、日曜日。

フットサルの大会に児玉さんを連れてきた。


駐車場で俺の車を見付けて笑顔で近付いてきた友人たちが、助手席から降りた児玉さんを見て目を丸くした。

春に結婚すると言ったら、その目がますます丸くなった。

友人を驚かすことが、こんなに気分がいいとは思わなかった!


「ユキ、お前、合宿のときは何も言わなかったじゃないか!」


「え?」


「そうだよ! あ、もしかして、痩せたのは彼女のおかげか?」


「へへへ、そのとおり。毎日、お弁当でさ♪」


「なんだよ、お前〜! 太ったのは花嫁募集の作戦だったのか?」


「あ、今ごろわかったのか?」


「かすみさん! こんな偽デブにひっかかっちゃだめじゃないですか〜。」


勝手に「かすみさん」とか呼ぶなよ!

俺だって呼んでないのに!


「偽デブ? うふふふ。でも、あそこまで太った努力を認めてあげようと思って。」


「やさしいなあ。ユキにはもったいないよ。」


ふふーん。


児玉さんは優しくて、可愛くて、料理上手で、みんなに好かれてて、最高のひとなんだ。

焼きもちさんのところだって、……少しは困るけど、彼女が俺に惚れてるってことなんだから!


「あ、川島だ。おーい、川島! こっち!」


あ、川島?

そういえば、髪留めを預かってたっけ。

ええと、どこだ?


「おはよう。あ、おはようございます。ええと……?」


「あ、初めまして。児玉かすみです。」


あ、児玉さんを紹介しないと……。

よく見たら、川島はまた一段と胸が目立つ服だな。


「誰かの彼女さん、ですよね?」


「なあ、川島。誰だと思う?」


う、出遅れた。


「誰って……、成田くんの彼女はミカさんだったよね……。」


川島。

万が一、成田の彼女がすでに変わっていて、ここに連れて来ていたらどうするつもりだ?


「森ちゃん?」


「違う。」


「佐々木くん?」


「違う。」


「ナベくん?」


「違う。」


ここにいる5人の男の中で、児玉さんが俺の彼女である可能性は最下位……?


「ってことは……ユキちゃん?」


「そうなんだよー! な、すごいだろ? ユキがこーんなに可愛い彼女を見付けたなんてさ!」


あ、やっぱり可愛いよな? 可愛いだろ?

そうなんだよ、ホントにさあ。


「うん……、そうなんだ。春に結婚するんだよ。」


「結婚?! そう……。やだな、ユキちゃん。夏にはそんなこと何も言ってなかったのに。びっくりしたよ。」


「ああ、あのときは……、まだ決まってなかったから。」


そうだった。

あのときはまだ返事がもらえてなくて……。


「そうか。おめでとう、ユキちゃん。ええと、おめでとうございます。」


「あ、ありがとうございます。」


まだだいぶ早いけど……。


「ユキちゃんのこと、よろしくお願いしますね。」


「はい。」


あ……。

児玉さんが引き受けてくれた。

俺のことを。

一緒に人生を歩んでいくことを。


「おーい!」


「あ、奥野だ。」


「そろそろ時間? 荷物忘れんなよ。」


「児玉さん、行きましょう。」


「うん。」


これからもずっと、俺の隣を歩いてください。

よろしくお願いします。




今日の付き添いは、児玉さんのほかには川島と北村(奥野妻)だけだった。

誰かの奥さんや彼女が来ることもあるのだけれど、今日は元マネージャーの二人だけ。

古い知り合いばかりの中に入るのは気を遣いそうで、児玉さんに申し訳なかったかも。


「児玉さん、すみません。退屈じゃないですか?」


着替えとウォーミングアップが終わったところで尋ねると、児玉さんは楽しそうに微笑んだ。


「ううん、大丈夫。川島さんと奥野さんから、高校時代の話を聞いてるから。」


「高校時代の話?」


「うん。」


なんか……いろんな失敗談が出てきそうだな……。


「それに、お天気がよくて気持ちがいいしね。」


「そうですか? ボールが飛んでくることもありますから、気を付けてくださいね。」


「うん。……雪見さん。」


「はい?」


あ、内緒ばなしですね。


「そのユニフォーム、似合うよ。スマートになってよかったね。」


やだなあ、もう、児玉さん!


「そ、そうですか? 児玉さんのおかげです。」


「ふふ。それに、ボール蹴ってるところはサマになってる。格好いいよ。」


「いや、そんな。あははは……。」


こんなところで〜。

恥ずかしいです……。




なんて浮かれていたけれど、試合では活躍できないまま終わってしまった。

川島がゼッケンを返しに行くのを見送ったあと、ゼッケンと交換で受け取る参加賞がペットボトルの飲み物10本であることに気付いて川島を追いかけた。


「やっぱりユキちゃんは、よく気が付くよねえ。」


500ミリのペットボトルを5本ずつ入れたビニール袋を提げて歩く俺の横で、川島がにこにこと感心している。


今日の川島は、茶色の髪を右側で一つにまとめて、花柄のシュシュ(覚えた!)でまとめている。

ウエストで裾を結んだ紺とグリーンのチェックのシャツは、胸から上はいかにも「ボタンが留まりません!」という感じで開けられて、紺のタンクトップ(か?)がのぞいている。

下は裾が広がったデニムのロングスカート。

胸・ウエスト・腰、と女らしい体形がはっきりと出ている。

メイクも上手くなって高校生のころより格段に綺麗になっている川島に、すれ違う男たちの視線が何度も引き寄せられている。


「川島ってモテないのか?」


「は?」


「いや、こうやって歩いてると結構注目されてるし、性格もいいのに、ずっと彼氏がいないって言ってるから。」


「……ふん。モテるよ。決まってるじゃん。」


「やっぱりな。じゃあ、どうして……?」


「相手とタイミングかな……。」


「相手とタイミング?」


「そう。誰でもいいってわけじゃないし、そうかと思うと、気付いたときには遅かったりね。わかる?」


「ああ……、そうなのか。」


「そういうこと。」


相手とタイミングか……。


人との出会いって、不思議だ。

俺は、2年前には児玉さんのことをきちんと見もしなかったのに……。


「難しいな。自分でコントロールできないし。」


「そうだね。……ねえ、今日返してもらったあれ、いつ見付けたの?」


あれって……ああ、シュシュのことか。


「ええと、2週間くらい前か? 車に落ちてたのを児玉さんが見付けて。」


あのときはちょっと焦ったな。


「どうせ練習か試合で会うと思ったから、特に連絡しなかったけど。」


「そっか、ありがとう。……ねえ、ユキちゃん。かすみさんっていい人だね。」


「あ、うん。」


そういえば、児玉さんを彼女として誰かに紹介したのは今日が初めてだ。

こんなふうに褒められると、嬉しい半面照れくさい。


「ユキちゃんらしい人を選んだね。」


「え、そうかな?」


「うん。すごくお似合いだよ。おめでとう。」


「ええと……、サンキュー。」


そうか。

結婚が決まったんだから「おめでとう。」なんだな……。

なんだか温かくて……幸せだ。







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