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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
8 九月の章
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衝動的? 計画的?


児玉さん、静かだ。

サービスエリアでは、結構はしゃいでいたのに。


疲れちゃったのかな?

朝が早かったし、はやぶさランドでも元気いっぱいだったから。

おまけに俺を気遣って運転まで・・・。



・・・さっきは危なかった。

車の中って、つい密室みたいな気がするから。

暗かったけど、外から見えただろうか?

シートベルトをはずす前でよかったよ。


「児玉さん?」


「え、あ、なに?」


ぼんやりして。

やっぱり疲れているんですね。


「着くまで眠ってていいですよ。」


児玉さんの寝顔も好きですから。


「うん・・・。」


歯切れの悪い返事。

気を遣っているのか?


そう言えば、さっきから何かをいじっているけど?


「それ、何ですか?」


「え?」


「その、手に持っているもの。」


「あ・・・、これ?」


こちらに向けて見せてくれたそれは、布製の丸い輪。


「何だと思う?」


クイズ?


綺麗なピンク色。

女性用の装身具か?


「・・・ブレスレットですか?」


「え? ああ、うふふ、確かにそう見えるかな? でも、違うよ。」


なんだろう?


「何かに付けるんですか? バッグとか・・・。」


どうやって付けるのかよく分からないけど・・・。


「はずれ。本当に分からない? 付けてるの、見たことない?」


「さあ・・・。」


全然見当もつかない。


「これね、シュシュっていうの。」


シュシュ・・・?


「ああ、バレエで使うやつですか? 昔、従妹が習ってて、名前は聞いたことありますけど、初めて見ましたよ。そんなに小さいんですね。」


腰に巻くものだって聞いた気がするけど、そんなに伸びるなんてすごいな。

どんな状態になるんだ?


「バレエ・・・? 雪見さん、それはチュチュだよ。これはシュシュ。髪留めだよ。」


「髪留め?」


「そう。髪を結んだときに、飾りに使うんだよ。」


髪を結んだとき・・・?

そうだよな。

いくらなんでも、あのサイズの物が腰に巻けるはずないよな。


「児玉さん、髪を結んだことありましたっけ?」


俺が気付かなかっただけなのか?

それはちょっと申し訳なかったな・・・。


「わたしは結んでないよ。この長さだもん。」


「ああ・・・、そうですよね? じゃあ・・・、誰かにお土産ですか?」


横川先生とか?


あれ、ため息ついてる。


「違います。ねえ、雪見さん。本気で言ってるの?」


「はい?」


何が・・・?


「これ、拾ったの。」


拾った?


「どこで・・・、ああ、サービスエリアですか?」


さっきまで持ってなかったもんな!


「ちーがーう! この車の中で!」


え?

この車の中・・・?


「誰か、女の人を乗せたんじゃない?」


女の人?

ああ!


「はい、乗せました! 合宿のとき。じゃあ、川島のか。」


「川島さん?」


「はい、高校のときのマネージャーで、今も練習とか合宿にはしょっちゅう・・・。」


あ、れ?

なんとなく表情が・・・。


「あの・・・?」


もしかして、疑ってるのか?


「児玉さん・・・?」


うわ、あの目つき。

絶対に疑ってる!


「あ、あの、川島はただの友人で・・・。」


「友人? 髪がほどけるようなことをするのに?」


髪が・ほどける・ような・・・?


――― って?!



「わ?!」


うわ、危ない!

ブレーキを掛けそうになってしまった・・・。



だけど・・・そんな!


そんなこと?!

ここで?!



「してません!」



これだけははっきり言わなくちゃ!

そんな誤解をされたままになったりしたら、酷過ぎる!


「だけど、落ちてたんだよ、車の中に。ここではずれたってことだよ。」


「そんな。でも。違います。」


「だって。」


「あの、偶然落っこちることだって、ありますよね?」


ないのか?


「だって。」


「俺、川島とは何もありませんよ。」


「だって。」


「どうして信じてくれないんですか?」


「だって。」


「児玉さん・・・。」


どう言えばいいんだ?

何をすれば信じてくれるんだ?


「児玉さん・・・。」


お願いします。

俺を信じてください。


「だって・・・、慣れてる感じがしたんだもの・・・。」


唇をとがらせて、ぼそり、とつぶやかれた言葉。


“慣れてる” ・・・? 俺が? 慣れてる?


もしかして、女性の扱いに?!

まさか!


「児玉さ・・、ごほっ、こほっ、あの・・・?」


びっくりして咳が。


「どうして?」


何を根拠に?

今まで自分が奥手だと思ったことはあったけど、その逆を疑われるなんて!


「だから! 慣れてる感じがしたんだもん!」


あ、怒りだしちゃった。

だけど・・・なんか可愛いな。

あれ?



もしかして、焼きもちか?


そうなのか・・・?



そう・・・かも。



もう。


なんだ〜。

嬉しいけど・・・笑っちゃダメだよな、こういうとき。

でも、ちょっとからかいたい気が・・・。


「児玉さん?」


「・・・なによ?」


「『慣れてる』って、具体的にどういうところがですか?」


「え。」


「児玉さんの誤解を解かないといけないですからね、教えてください。」


可笑しい!

その顔、「失敗した!」って思ってますよね?

もう遅いですよ。


「うー・・・。」


あ〜。

その恨めしげな顔も可愛いです!


「教えてください。」


「さっきの・・・。」


「さっき?」


「手に・・・。」


「手?」


「うー・・・、もう! 手にキスした! 馬鹿っ!」


わ!

反撃?!


「教えたって、誤解を解く証明にはならないじゃない! もう! 騙した!」


「イテッ! あ、危ないですよ、叩いたり押したりしたら!」


高速道路なんですよ!


・・・ああ、またふくれてる。


「児玉さん。俺のこと、本気で疑ってるんですか?」


「・・・さあね。」


信じてくれてるわけじゃないのか・・・。


「だってさ、何ていうか・・・自分から手をつないだりしないのに、急に・・・あんなことするし。」


「ああ・・・、すみません・・・。」


って、謝るべきこと・・・なのかな、やっぱり。


「その・・・衝動的っていうか、その・・・。」


衝動的。


そうか。

びっくりしたのか。


「なるほど。つまり、俺が一時的な感情で行動に出る男だと。」


「う・・・、まあ、そんな感じ?」


ためらいながらもはっきり言いますね。

俺がいつも悩んでいること、全然分かってないですよね?


「わかりました。じゃあ、これからは計画的に行きます。」


「計画的?」


「はい。まず、手をつなぐ日。次に、キスをする日。それから」


「言わなくていいから!」


「あ、児玉さんの生理の予定も教えてくださいね。」


「せ・・・っ、恥ずかしくないの?!」


「でも、結婚するんですよ? 体調が悪かったりしたら俺がフォローしなくちゃいけないですからね。ああ、下着の洗濯だってやりますよ。」


児玉さんの驚いた顔!

ああ面白い!


「とりあえず、今日はどうしましょう?」


「今日? 今から帰るんじゃ・・・?」


「ええ、そうですけど、そのあとですよ。」


「は?」


「うちに泊まりますか? 児玉さんの部屋・・・。」


「泊まんないよ! 変な計画立てないでよ!」


「なーんだ、残念。あははははは!」


ため息ついてる。

呆れられちゃったかな?


「雪見さん・・・。」


「はい。」


「誰も見てないと大胆だね。」


「そうですか?」


・・・そうかも。


でも。


今日、やっとOKの返事をもらえたんですよ。

つまり、児玉さんの気持ちがはっきり分かったのは今日が初めてなんです。

俺の態度が今までと違うのは、当然ですよね?


あ。


「ぷ・・・、くくく・・・。」


「・・・なに笑ってるのよ?」


「だって・・・。」


児玉さんて。


「もう! ニヤニヤして気持ち悪いでしょ! ちゃんと話して!」


「はい。あのですね、児玉さんって、焼きもちさんですね。」


「!!」


あ。

また怒った?

いや。

深呼吸して落ち着いて?


「雪見さん。それを言うなら『焼きもち焼き屋さん』でしょ。」


そんな反撃?


「それじゃあ長いし、『や』ばっかりですよ。」


「ふん。」


面白いなあ。


「あーあ。」


お、今度はため息?


「そんなことないと思ってたのに・・・。」


焼きもちのこと?

俺は嬉しいけど。


「そんなところも好きです。」


「雪見さん・・・。」


感動してくれたり・・・?


「ホントに、誰も見てないと何でも平気だね。」


呆れられちゃったか。







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