寒いけど、幸せ。
……寒い。
部屋が明るくなってきてる?
朝なのか……?
寒いな。
やっぱり、床にバスタオルを敷いたくらいじゃ仕方ないか。
布団も夏用だったから、重ねても……っていうか、ちゃんと掛けてないや。
体が半分以上はみ出してる。
これじゃあ、寒いのは当たり前だ。右手が冷たくなってるよ。
もう起きる時間?
児玉さんは ――― ?
?!
ベッドにいない?!
しかも、ベッドの上が妙にすっきりして……。
焦って起き上がった俺の目に入ったのは、ベッドからずり落ちた掛け布団だった。
……いや、落ちたんじゃない。
たぶん、下ろしたんだ。
俺が掛けていた布団の上に、きちんと被さっているってことは。
つまり、児玉さんだ。
俺のために掛けてくれたのか?
じゃあ、本人は……いるのか、この中に……?
布団の端を持ち上げてみると、裸足の足があった。
俺のすぐ横。
もしかして、俺は蹴り出されたのか……?
布団越しなら触ってもいいだろうと、児玉さんの体のありそうなあたりを軽く叩いてみると、ほぼ中央に児玉さんがいることが分かった。
叩かれて目が覚めたのか、もぞもぞと布団が動き、二つの手が出て来て、児玉さんが顔を出した。
眩しそうにパチパチとまばたきをして、隣に座っている俺を見る。
「おはよう。」
照れくささと、いたずら心の混じった笑顔。
「おはようございます。」
いつから隣にいたんだろう?
「あのね、雪見さん、寒そうだったから。」
何も尋ねていないのに、言い訳ですか?
「そうでしたか。ありがとうございます。」
今の方が、たぶんもっと寒いですけど。
「ええと、もう起きる時間?」
起きたくないです。
「昨日とおとといは早起きしたから、今日はもう少しゆっくりしようかと。」
「そう? じゃあ、わたし、朝ご飯の仕度を……。」
「児玉さんと一緒に、です。」
児玉さんを湯たんぽ代わりにして温まるんですから。
「うわ。雪見さん、手が冷たいよ。よっぽど寝相が悪いんだね。」
それは俺じゃありませんよ……。
第十章「覚悟の冬」はここまでです。
次から第十一章「春に向かって走れ!」に入ります。最終章です。




