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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
10 覚悟の冬
113/129

 ★★ 知らなかった。 : 児玉かすみ


思ったより早く片が付いたなあ。


「もっとたくさん文句を言われると思っていたのに、意外と呆気なかったなあ。」


「だから言ったでしょう? お父さんは、引っ込みがつかなくなってるだけだって。」


お母さん……。


「二人に頼まれたら、お父さんだって反対はできないのよ。でも、夏に出した条件をどうでもいいとは言えなかったのよね。」


「頑固だからね……。」


「頑固っていうか、父親の威厳にかかわると思ったんじゃない? あなたたちは見えなかったでしょうけど、雪見さんに『達成できてないけど、許してください。』って言われたときのお父さん、ものすごく困ってたわよ。うふふふ。」


「じゃあ、一か月ごとの結果でいいっていうのは……。」


「たぶん、あの場の思い付きよ。かすみがあそこであれを言ってくれて、お父さんもほっとしたと思うわ。」


「そうなんだ……。」


「何か理由をつけられればよかったのよ。でも、良かったじゃない? 雪見さんの面目も守れたんだから。」


「あ、そうか。」


「そうよ。雪見さんだって、お父さんとの約束を果たして、堂々とあなたと結婚できるのよ。……あら、二人で笑ってるわね。」


本当だ。

リビングから楽しそうな声が。


「お父さん、急に機嫌良くなっちゃったよね?」


まったく現金なんだから。


「ああ、あれは、雪見さんが下戸だからよ。」


「え?」


「ほら、昔、かすみが連れてきてた黒川さんね、あのひと、お酒が好きだったでしょう?」


「ああ、うん。」


黒川さんは、お酒が好きだし、強かった。


「お父さんは、そこが気に入らなかったのよ。」


「そうだったの?!」


知らなかった……。


「お父さんは、必要なら少しはお酒は飲めるけど、飲まなくて済むなら飲みたくないのよ。」


「うん、たしかに普段は飲んでないよね。」


我が家では、晩酌というものを見たことがない。

お母さんもわたしもお酒は好きだけど、家でお酒を飲むことはほとんどなかった。


「でしょう? だけど、黒川さんが来ると、かすみとわたしも一緒に飲んではしゃぐものだから、お父さんは仲間はずれの気分で嫌だったみたいよ。後でよく文句を言われたわ。」


「そうなんだ……、ごめんね。」


「いいのよ、わたしは楽しかったんだから。それに、今度は飲めないひとが増えるわけでしょう? お父さんにしてみれば、仲間ができて嬉しいのよ。」


「そうか。それでとっておきのお茶をね……。」


「そういうこと。さあ、持って行きましょう。ドアを開けてちょうだい。」


「はい。」


あ、お父さんと雪見さん、楽しそうに話してる。


もしかしたら、思っていたよりもずっと相性がいいのかも。

意地っ張りなところも似てるしね。







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