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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
10 覚悟の冬
112/129

お願いします! その2


汗が滴り落ちてくる……。


部屋が暑いわけじゃない。

緊張と土下座のせいだ。


お父さんが、せめて何か一言でも言ってくれたらいいんだけど。

そうすれば、話のきっかけが……。


「……前回の約束は?」


そうだった!

このお願いで出る話題といえば、これしかなかった。

俺にとっては都合の悪い話題。

でも……正面からぶつかる覚悟はしてきた。


「申し訳ありません。まだ達成できていません。」


お。

なんとなく、落ち着いてきたかも。

予想していた話題だからな。

次に言うつもりだった言葉も……。


「約束は達成できていません。でも、どうしても、かすみさんとの結婚を許して欲しいんです。お願いします!」


「達成できてないって……。」


「勝手なことを言っているのは分かっています。でも、春には結婚したいんです。かすみさんを必ず幸せにします。だから、お願いします!」


「そうは言っても、約束は……。」


「申し訳ありません。頑張ってきたんですけど、3月までに達成できるかどうか分からなくて。でも、これ以上、結婚を先に延ばすのは嫌なんです。お願いします!」


「う……む……。」


ああ……、やっぱり無理なのか……?


そうだよな。

あのとき、「やります。」って言ったんだもんな……。

それを果たせてなくて、それなのに「許してほしい」なんて、都合が良すぎるよな……。


「お父さん。雪見さんは本当に頑張ったのよ。」


児玉さん……。


「9月からは、ひと月ごとで見れば、全部、去年の5倍以上なの。12月なんか8倍を超えていたのよ。」


「え……?」


「でも、4月からの合計にすると、なかなか5倍までは……」


「できてるんじゃないか。」


――― え?


「ちゃんと、5倍を超えているんだろう?」


「え……、その、それは、一か月ごとなら……。」


「俺はそのつもりだったんだが。」


「え……?」


「 “一年間で” とは、言わなかったと思うがね。」


あ……。


「あの、じゃあ……。」


そうなのか?

俺、約束を達成できたのか?


「仕方ない。約束を守ったんだから、キミの申し出は許すしかないな。あとは、かすみ次第だ。」


「ありがとうございます!」


やったんだ。

俺、本当に約束を果たすことができたんだ。


「お父さん、ありがとう。わたし、雪見さんと結婚したいです。結婚します。」


「そうか。わかった。」


児玉さん。

俺……やりました。


「よかったわねえ、かすみ。雪見さん、こんな娘ですけど、よろしくお願いしますね。」


「こちらこそ、頼りないかも知れませんが、これからも努力します。よろしくお願いします。」


「雪見さん、よかったね!」


「はい。」


児玉さんのおかげです。

あそこで児玉さんが、ひとこと言ってくれたから……。


「いつまでもそうやってないで、椅子に座りなさい。」


お義父さん……。


「……はい。」


今度はほっとしたせいで力が入らない。

膝が笑ってるよ……。


「母さん、お茶が冷めちゃったんじゃないか? 淹れなおしてくれ。」


「あ、いえ、お構いなく。」


「いいのよ、遠慮しないで。あ、それともビールがいいかしら? 車じゃないんでしょう?」


「あ、すみません、僕、お酒は……。」


「あれ? わたし、お母さんに言ってなかったっけ? 雪見さんは、お酒は全然ダメなのよ。一口で倒れちゃうの。」


「あら。」


「なんだ、雪見くん、飲めないのか?」


「はい……、すみません……。」


ああ、お酒が飲めないって、やっぱり損だ!

こういう席で酒を酌み交わすのって、お義父さんと親睦を深めるチャンスでもあるのに。


「なんだ、そうなのか。それならそうと、早く言ってくれればよかったのに。」


……ん?


「母さん、玉露淹れてくれ、玉露。ほら、この前、取り寄せたやつ。」


「はいはい、分かりましたよ。」


なんか……風向きが変わった……?


「雪見くん、日本茶は好きかい? 僕はけっこう、お茶にはこだわっててねえ。」


おお、笑顔が!


「あ、はあ、そうなんですか……。」


「年に何度かは取り寄せてるんだよ。……お、母さん、なんだねこれは? 綺麗な餅だねえ。」


「花びら餅ですよ。雪見さんがお土産に持って来てくださったんです。」


「そうかそうか。お茶受けにはやっぱり和菓子だなあ。雪見くん、ご馳走さま。」


「いえ、はい……。」


お義父さんの機嫌が良くなったのはありがたいけど、やっぱり何を話したらいいか……。


「かすみ、もう一度手伝ってくれる?」


「うん。」


児玉さん、またキッチンへ行っちゃうんですか……?


「それにしても、雪見くん、頑張ったんだねえ。12月は8倍だって? すごいじゃないか。」


「あ、ありがとうございます。でも、先生方のご協力があったおかげなんです。僕一人ではとても無理でしたから。」


「うん。そうやって、周囲の人に感謝する気持ちを忘れないのは大切なことだな。」


「はい。」


「それに、周りの人に協力してもらえるっていうのは、雪見くんが職場で受け入れられてる証拠だなあ。いやあ、よかったねえ。」


「ありがとうございます。」


まだ、緊張も混乱もしてるけど、児玉さんとの結婚を許してもらえたのは間違いない。


ということは、俺は、春には児玉さんと結婚できるんだ……。







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