★★ 頑張らなくちゃ : 児玉かすみ
いよいよ明日だ……。
雪見さんがうちに来る。
うちの両親に、結婚の許しをもらうため。
わたしは昨日から実家に戻っている。
クリスマスのあと、雪見さんの訪問の予定を決めるために電話したら、お母さんは気楽なものだった。
“5倍” の約束が達成できていないことを話すと、簡単に言ったのだ。
『 “できた” ってことにしちゃえばいいじゃない? お父さんだって、証拠までは求めないわよ。』
それができれば、雪見さんもわたしも、最初から悩まない。
まっすぐな雪見さんは、ウソをついて結婚を許してもらおうとは、まったく考えていない。
明日はお父さんに、ひたすら頭を下げるつもりでいる。
何か作戦があるのか尋ねたら、
「作戦なんかありません。当たって砕けろです。」
と言い切った。
男らしいとは思うけど、砕けてもらっては困る。
すると、
「大丈夫です。絶対に諦めませんから。」
と。
諦めないことだけは自信があるらしい。
たしかに、雪見さんはずっと頑張ってきた。
図書室の利用者を増やすことも、ダイエットも、マラソンも。
だから、わたしも雪見さんを応援しなくちゃ。
雪見さんと一緒に頭を下げなくちゃ。
と思っているけど……、もしもお父さんが前回みたいに怒鳴ってばかりだったら、わたしもまた言い返しちゃうかも。
お父さんは、雪見さんが来ることは知っている。お母さんが先に話してくれたから。
どんな用事で来るのかも分かっているはずだけど、わたしの顔を見ても、そのことは何も言わない。
ほんとうに、どうなるのかなあ……。
お母さんは、お父さんは引っ込みがつかなくなっただけ、なんて言うけど……。
引っ込みがつかないってことは、納得する理由ができるまで引き下がらないってことじゃない?
結構、頑固なところがあるからなあ……。
よく考えると、雪見さんとお父さんって似てるのかも。
「かすみ。黒豆の味を見てちょうだい。」
「はーい。」
お母さんはご機嫌だよね。雪見さんのことを気に入ってるんだもの。
おせち料理にもこんなに力が入って……。
「和哉たちがいなくて残念ねえ。せっかく雪見さんが来るのに。」
「ホントにね……。」
そう。
兄さんたち家族が来ていれば、甥っ子たちがいる手前、お父さんだっていつまでも不機嫌な顔をしていられないと思う。
でも、今年は家族でハワイ旅行だそうだ。
めったにないことだから仕方ないけど、よりによって今年だなんて……。
は……。
くよくよ考えたって仕方ないね。
雪見さんが言うように、 “当たって砕けろ” だ!
砕けるのは困るけど、そうなったらそうなったで、次の方法を考えよう。




